第331話 アイテム相場の高騰が始まる
奥多摩ダンジョンの前にはビルがある。その3階にあるショップへ向かう。
交通手段として電車かタクシーか、少し迷った。ダンジョンまでの電車は無料で利用できる。だが、タクシーなら料金がかかる。
私たちはタクシーを選択したのだが、その理由はタクシーなら3人だけで会話ができるからだ。
タクシーの助手席に春日井君が乗り、私と湊ちゃんは後部座席に座った。私はタブレットを操作しながら、2人に話しかける。
「ネットショップを見て買う装備を決めてしまおう。予算は1人あたり1,200万DPにしよう」
開こうとしたのは公式ショップだ。ダンジョン管理協会が運営している。
湊ちゃんはダンジョンデバイスを操作していたが、その指が止まっていた。
「サイトが開けないんだよね。春日井君はどう? 開ける?」
「俺も見れない。みんな考えることはいっしょだね。アクセスが集中しているのかもしれない」
ゲートの出現により、装備価格の高騰は予想されていた。
しばらくサイトを開こうとリロードしていたが、ショップが閉鎖中の表示になってしまった。
その間、春日井君はオークションサイトを調べていたようだ。
「まいったな。オークションでも装備の高騰が始まっている」
「私が買ったダンジョンデバイスだけど、価格が35万DPに上がっている。買っておいてよかった」
湊ちゃんが買ったときは25万DPだった。早くも10万DP値上がりしたことになる。
一方で、私は口コミの情報を調べていた。
「掲示板やSNSでは〝装備売ります詐欺〟の注意喚起がされているね」
「物によっては2倍、3倍の値がついているぞ。ゲート出現に備える人は俺たちだけじゃないってことだな」
3倍の値段になってしまったら、高級な装備はとても手が出ない。
「まずいかもね。私の手持ちの3,500万に湊の200万を足しても、ろくな装備が買えないかもしれない」
「いや、買えればまだマシな方かもな。管理協会のネットショップが閉鎖したってことは、ショップに直接行っても買えない可能性がある」
「売り切れってこと?」
「さすがに売り切れはないと思う。しばらく待てば相場は落ち着くと思うんだよ。それまで店を閉めるということはあるかもしれない」
公式のネットショップは閉鎖してしまった。私たちは奥多摩ダンジョンの前にあるビルに向かっている。さらに3階の実店舗も閉鎖していたら、装備を買うことができなくなる。
焦る気持ちを抱きながら、タクシーは奥多摩駅前に到着した。ダンジョンに直接タクシーで乗り付けると注目を浴びることがある。今回は少し離れた場所でタクシーを降り、歩いてダンジョン前のビルへと向かった。
正面に見えるのは地上12階建てのビルだ。そこに通じる道は綺麗に舗装されている。道幅は広く、道路でいったら楽に4車線分はありそうなほどだ。車が入ることはほとんどないので、ここにいるのは歩行者ばかりだ。その大部分がダンジョンハンターなのだが、いつもとは違う光景が広がっていた。
道の両端にはシートを敷いてアイテムを並べている人たちがいる。フリーマーケットのように商品を置き、それぞれのアイテムに値札をつけていた。中には値札のないアイテムも置かれている。
「どうやら、ハンター同士で直接取り引きをしているみたいだね」
春日井君は並ぶ商品を横目で見ながら呟いていた。
私と湊ちゃんは重たい足取りで歩いていた。
「これだとショップはおそらくやっていないね」
「うん。期待できそうにないね」
左右に並ぶ出店を見ながら歩いていくと、人だかりがあった。どうやら目玉商品を扱っているようで、ハンターたちの注目を集めていた。
「ほらほら、買うやつはいないか? この豪華な剣は3,500万DPじゃい。これからもっと相場は上がるぞい。
日頃の行いが良いワシだからこそゲットできたレアアイテムだ。早いものがちじゃ。今買わんと、これからもっと値段が上がっていくぞい」
人混みをかき分けて中を覗くと、小太りのハンターと、その取り巻きと思われるハンターがアイテムを売っていた。
男が振り上げる剣には見覚えがあった。周りで見ている人たちは「ちょっと高いな」とか「うーん、欲しいことは欲しいけど、値段がな」とか言っていた。
湊ちゃんは横で「なんか見たことあるような剣だねえ」と、のんきな声を出していた。
自分が折ってしまった剣と同じものだということは覚えていないようだ。湊ちゃんが折ったのは2本目で、1本目は私が消し炭にしてしまった。あの男が持っているのは3本目だろう。
「確か、相場は1,000万とか言っていたけど、今は3,500万DPなんだね。だいぶ値が上がったね」
私の言葉を聞いて、春日井君もその剣のことを思い出したようだ。
「ああ、ファイアーボールが撃てるという魔法剣か。レアドロップだと自慢していたよね。あのハンターは3本目を手に入れていたのか。よほど強運なんだな」
春日井君はフレイム属性の魔法が使えるから、魔法剣についてはあまり興味はなさそうだった。私はミスリルの大剣があるから必要としない。湊ちゃんはアクア属性の魔法なので、あの武器との相性はよくないだろう。
私は湊ちゃんと春日井君の手を取った。
「行こっか。私たちには必要なさそうだし」
まず探すべきは防具だ。私たちは学校の制服のままでここに来てしまっていたし、周りのハンターたちは豪華な装備だったため、私たちは浮いていた。
静かにその場を離れようとしたが、目ざとく私たちを見つけた小太りのハンターに声を掛けられてしまった。
男は魔法剣を私たちに向けて突きつけていた。
「この中には3,500万DPなんて大金を持っているやつはいねえか。特にそこの制服を着たガキなんかはな。ここはお子様のくるとこじゃねえんだぜ!」
まずいと思った私は、慌てて顔を隠した。




