第330話 クエストクリア
霧野さんがこちらのゲートに現れた時は本当にびっくりした。
巨大ネズミは噛みつくくらいの攻撃しかしてこないのだが、素早さはとんでもない。巨体とは思えない機動力で向かってくる。
私は霧野さんに向かう巨大ネズミに体当たりをした。春日井君は霧野さんを守るようにモンスターとの動線に入った。
霧野さんはここでも尻餅をついて座り込んでしまっていた。スカートがめくれ、パンツが見えてしまいそうになっていたので、私は霧野さんを配信の映像から外す。
遅れて湊ちゃんもこちらのゲートへとやってきた。
霧野さんの手を取って立ち上がらせ、3人でいっしょに守った。
霧野さんをダンジョンの壁際に置き、私たちが3方向を囲んだ。
向かってくる巨大ネズミだけを相手にすることになったので、クエストクリアは遅くなった。
ちょっと納得がいかなかったのは、クエストクリアに必要なアイテム――〝鼠の犬歯〟を3つとも手に入れたのが湊ちゃんだったことだ。
うーん。ラッキーガールめ……。遅れて来たのに、いいところを全部持っていった。
クエストの条件を満たし、この場所は学校の廊下へと戻っていた。戦いの跡は一切残っていない。
春日井君が霧野さんに優しく手を伸ばした。
「大丈夫? えっと、ごめん。名前がわかんないや。確か、3組か4組だったっけ?」
「き、霧野。霧野 羨香。4組です」
「霧野さんね。びっくりしたでしょ? ゲートに迷い込んでしまって」
霧野さんは顔を赤らめながら、春日井君の手を取っていた。
「い、いえ……。大丈夫です……」
まったく大丈夫ではない。私は湊ちゃんに目配せをし、湊ちゃんもすべてを理解した。
湊ちゃんは霧野さんと春日井君の間に割り込み、繋いでいた手を切り離した。そのまま春日井君を引っ張って廊下の向こうへ歩き出す。
「はい、春日井君はこっちね。霧野さんは春菜に任せて……」
はたから見ると、嫉妬した湊ちゃんが霧野さんから春日井君を引き剥がしたように見えただろう。だが、それには理由があった。私は霧野さんを反対方向のトイレへと連れて行く。
「霧野さんはこっち……」
トイレに入るとすぐに霧野さんを個室に入れた。「ここでちょっと待ってて、すぐ戻るから」そう言って保健室に走り、急いで替えのパンツを借りに行った。
霧野さんは3度、死の恐怖に直面していた。最後の巨大ネズミとの対面では粗相をしてしまっていた。足元にできた水たまりはダンジョンの消滅とともになくなった。春日井君に気づかれなかったのが幸いだった。
「………………ありがとう」
霧野さんは小さく呟いて、私からパンツを受け取った。
「じゃあ、私は行くから。誰にも言わないからね。春日井君には気づかれてないから、大丈夫だよ」
霧野さんがどんな顔をしていたのかはわからない。私はトイレを出て、湊ちゃんと春日井君のもとへと向かった。
◆ ◆ ◆
今は2年1組の教室に戻り、私の席で話をしている。クラスメイトたちは緊急ゲート速報が出たため、校庭に避難している。教室にいるのは私たち3人だけだった。
窓際の後方、右側は春日井君の席だったが、今は間にミリアの席が置かれている。そのミリアは不在だ。代わりにその席には湊ちゃんが座っていた。
湊ちゃんは自分のダンジョンデバイスを操作していた。そのデバイスはアイテム相場が高騰しているため、急いで買ったものだ。湊ちゃんが買った時は25万DPしたが、今後はもっと相場が上がっていくものと思われる。
「報酬が振り込まれるのが早い。事務局から、もう200万DPが振り込まれている」
湊ちゃんは自分のデバイスの画面をこちらに向けた。クエストクリアの報酬は難易度にかかわらず一律で100万DPとなっている。これは今だけの暫定措置だ。
「俺はゼロ。1DPも振り込まれていない」
「私もゼロ。つまり、私たちは貢献度ゼロってことだね」
「待って、待って。私だけが報酬をもらっちゃったってこと?」
「そういうことになるね。今回は湊の総取りだね」
「なんでそんなことになってんの? 私が全部もらっちゃっていいわけないじゃない」
「湊はゴブリン200匹を倒して、〝鼠の犬歯〟を3つ全部獲得したからでしょう」
「じゃあ、この200万DPも装備を揃える費用に回そうよ。春菜の3,500万に足してもらって」
「その件についてはあとで話そう。今はもっと大事なことがある」
今は報酬よりも、先に話すべきことがあった。春日井君も頷いていた。
「そうだな。ゲートのことだろ?」
「この学校に2つも出現したこと? 春菜はどう思う?」
「明らかにおかしいよね。私たちはイタリアのゲートにも巻き込まれたし、ここでも私たちがゲートをクリアすることになった」
「何か出現条件とかがあるとか? もしくは、出現場所かな?」
今はわからないことが多すぎる。ゲートの出現場所だってランダムだと思い込んでいた。しかし、とてもそうは思えない。春日井君も同じように思っているようだった。
「ゲートの難易度についてはどうなんだ? 今回のゲートは簡単だったけど、イタリアのゲートのような高難易度だった場合、装備なしに対応は無理だぞ」
「急いで装備を買わなきゃいけないね。今週末にでもと思っていたけれど、授業をさぼってでも買いに行かないといけないかもしれない。
ゲートの謎についてはタブさんとか瑞稀社長に調べてもらうとして、私たちはできることをやっておこう」
私は窓の外を見た。校庭には学校のほとんどの生徒が避難して列を作っていた。先生たちは、生徒をクラスごとに並ばせていた。
今後の計画を慎重に考えていた私だったが、湊ちゃんはすでに立ち上がっていた。
「幸いなことに、ゲート出現のタイミングと難易度はわかる。問題は出現場所だよね。
警戒レベルが低いうちはまだいいんだけど、他の生徒を巻き込んだりするのはまずいよね。装備だけ急いで揃えたほうがいいかも」
机に手をつきながら、立っている湊ちゃんは私と春日井君を交互に見た。
今すぐ行動したほうがいいというのが湊ちゃんの意見のようだ。私と春日井君は無言で頷き、同時に立ち上がった。




