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【悲報】レベル1の妹。兄の装備でダンジョン配信を始める。(84億円相当の激レア装備で最下層スタート、未確認ドラゴンに遭遇した模様)  作者: 高瀬ユキカズ
始まる人類領域への侵攻

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第329話 間一髪

 ゴブリンの棍棒が振り下ろされ、霧野さんの頭を打ち砕こうとしたその刹那――。


 突然、ゴブリンたちは消えた。


 教室は一気に明るくなった。窓の外には晴れた空が見える。

 教室の廊下側は薄暗いダンジョンになっていたが、元の廊下に戻っていた。


 霧野さんは床に尻をついたまま呆然としている。目の前にいたはずのゴブリンが突然消えてしまったのだから当然だ。


 2年4組の生徒たちもすぐには動けず、霧野さんに近づけなかった。生徒たちは霧野さんが死ぬものと思っていた。その時、みんなの視線はゴブリンに襲われる霧野さんに集まっていて、その場にいる全員の脳裏には最後の光景が焼き付いていた。生徒たちは生まれて初めて、目の前で人が死ぬ場面を見せられるはずだった。


 ところが、間一髪でゴブリンが消えた。

 起こったことの状況に生徒たちはすぐには対応ができない。みんながその場で固まってしまっていた。


 一番何が起こったのかわかっていないのが霧野さんだ。口をあんぐりと開け、呆けた表情をそのままに動けないでいた。


 そんな中、場違いに届いた声は湊ちゃんのものだった。教室の外から声が響いてきた。


「ただいまあ。ゴブリン退治が終わりましたー。扉を開けてもらってもいいですか?」


 掃除のごみ捨てから帰ってきたかのような、気の抜けた声だった。

 湊ちゃんはロックが掛かった扉を廊下側から開けようとしていた。ロックはかかったままなので、ガタガタと音を立てていた。


 生徒たちがロックを外すためには扉の前に積まれた机を崩さなければならない。積まれたままの机が湊ちゃんから見えたのだろう。湊ちゃんは廊下に面した窓に向かった。そこはゴブリンが教室に入ってきた割れた窓だった。


 湊ちゃんは「よっこいしょ」と、年寄りじみたセリフで窓枠に足をかけて乗り上がった。「ほっ」と軽く息を吐きながら、スカートがめくれないように押さえて床に飛び降りた。


「あ、霧野さん。手、治ったんですね。よかった」


 湊ちゃんは床に座り込んだままの霧野さんに近づいた。


 霧野さんは2度ゴブリンに襲われている。

 最初は霧野さんが扉を開けてしまったためにゴブリンに襲われた。その時に湊ちゃんは霧野さんを押し倒して助けたのだが、どうやらその時のままだと思っているようだ。実際はそのあと5匹のゴブリンに襲われた。湊ちゃんは2度、霧野さんを助けている。


「立てますか?」


 湊ちゃんは優しく声をかけ、霧野さんに手を差し出した。何も言わず、動こうとしない霧野さんに微笑みかける。


「怖いですよね。ゴブリン。私も初めて遭遇した時は恐怖で足がすくみました。大丈夫ですよ。初めての時は私も腰が抜けちゃうと思ったくらいですから」


 湊ちゃんは霧野さんが腰を抜かして、立ち上がることができないと思っているようだ。床に尻をついたまま動けない霧野さんを気遣っていた。


 霧野さんは湊ちゃんの目をじっと見ていた。霧野さんに見つめられ、湊ちゃんは困った様子だった。差し出した手を引っ込めるわけにもいかず、反対の手で頬を軽く掻いた。


「ええと……。大丈夫ですか?」


 湊ちゃんの少し苦笑じみた顔を見て、霧野さんは急に「わっ」と声をあげた。涙を流しながら、湊ちゃんの胸へと飛び込んで抱きついた。


 霧野さんは湊ちゃんを強く締め付けるように抱きしめた。声にならない声をあげ、涙と鼻水を流した。湊ちゃんの制服は鼻水で汚れてしまったが、湊ちゃんは嫌そうな顔をすることなく、霧野さんの頭に優しく触れていた。


 霧野さんは何かを言っていた。たぶん、「怖かった」とか「死ぬかと思った」とか、そういったことを言いたかったようだ。だが、泣きじゃくる霧野さんの言葉は聞き取れなかった。


 湊ちゃんはまるで聖母のような慈愛に満ちた笑顔を湛(たた)えながら、霧野さんといっしょに立ち上がった。


 しばらくそのまま泣いていた霧野さんだったが、湊ちゃんは思い出したように言葉を発した。


「あ、そうだ。廊下に春日井君がいるんだった」


 2人が抱き合っている間に、生徒たちは教室を片付け始めていた。

 扉の前に積まれた机はすでに撤去され、扉も開いていた。何人かの生徒はすでに教室の外に出ていた。


 春日井君という言葉に反応したのか、霧野さんは湊ちゃんを振り払い、ぱっと離れた。湊ちゃんが顔を見ると、霧野さんは顔を紅潮させていた。


 恥ずかしそうな、あるいは悔しそうな、なんとも言えない表情を浮かべたあと、霧野さんは湊ちゃんから逃げるように廊下に向かった。


「あ……」


 湊ちゃんは霧野さんへ手を伸ばすが、霧野さんはすでに教室から廊下に出てしまった。

 廊下を駆ける霧野さんは、自分がとった行動の意味をわかっていなかった。


 霧野さんが走る先にはゲートの入り口がある。


 そのままゲートに入り込み、こちら側へ――。


 私たちが巨大ネズミ(ジャイアントラット)と戦っている世界へと飛び込んできた。


 霧野さんと巨大ネズミ(ジャイアントラット)が対面する。

 自分の身長に迫るほどの大きなネズミ。ネズミ型のモンスターは威嚇するように口を開け、目を吊り上げている。


「ひゃぁあああ!!」


 私は戦闘の様子を配信していた。ダンジョン配信には霧野さんの叫び声が轟くことになった。


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