第327話 湊の配信
私は湊ちゃんに電話をかけた。すぐに湊ちゃんは電話に出てくれた。
「湊、そっちは大丈夫?」
「大丈夫だよ~。春菜はどこにいるの? ここには来るの?」
「実はさ、この学校内で2つゲートが出現したんだよ。私たちは別のゲートに取り込まれちゃった。だから、そっちには行けない」
「え!? そうなの!?」
「うん。びっくりだよね」
「春菜は大丈夫なの? そっちのモンスターは強くないの?」
「大丈夫だよ。湊より楽かもしれない。春日井君もいるし」
「あ、春日井君もいるのね」
気のせいか湊ちゃんのトーンが少し下がった。
「ところで、湊は1人で大丈夫なのかな? 急いでこっちを片付けて、そっちに向かったほうがいい?」
「私は大丈夫なんだけど、この学校で2つもゲートが出現するなんて偶然なのかな?」
「偶然でしょう。たまたまだよ」
「この広い世界で? まだゲートの出現は日本に制限されていないはずだよね? それなのに私たちの学校だけに同時に出現したの?」
「まあ、そう言われるとおかしいのかもね」
「おかしいよ、絶対」
今は音声通話のみだから湊ちゃんの様子はわからない。私は湊ちゃんにダンジョン配信を提案した。
「ねえ、湊。ダンジョン配信に切り替えない?」
「私、アカウント作ってないよ。すぐに配信は無理だよ」
「あ、そうか。そうだね。じゃあ、この電話をビデオ通話にしてさ、こっちの配信でビデオ通話の画面を映してもいいかな?」
「いいよ。ちょっと待って」
湊ちゃんはデバイスを操作し、画面にあちらのゲートの様子が映った。
「こっちはゴブリンばかりがたくさんいるよ。200匹倒さなきゃいけないみたい」
湊ちゃん側のゲートのクリア条件は200匹の討伐なのだろう。湊ちゃんはデバイスを自分に向けてしゃべりながら、ろくにゴブリンのことは見ていなかった。話しながらも、ゴブリンを1匹、また1匹と倒していく。
それは私たちも同様だ。私も春日井君も画面だけを見て戦っている。レベル的にはよそ見をしていても倒せるモンスターだった。
「こっちのクリア条件はアイテムの獲得。でもまだ1個も手に入れていない」
「そうなんだ。こっちはゴブリンのほうから向かってくるから、ただ倒していけばいいだけ」
「湊のほうが早くクリアしてしまうかもね」
「それで、話を戻すけど、千の宮中学校に同時に2つのゲートが出現したっておかしくないかな? どう考えても、とんでもなく低い確率だと思うんだけど」
「そうだね。春日井君はどう思う?」
私はすぐ隣にいる春日井君に声を掛けた。
「確かにな。明らかに不自然だよ。タブさんはなんと言っている?」
この件に関してタブさんは何も言ってこなかった。私が尋ねなかったということもあるが、タブさんから何か言ってきてもよかったはずだ。
『申し訳ないが、我でもわからないことはある。今は調査中だ。デバイスリンク・テクノロジーズ社の藤井社長とも連絡を取っている。総力を挙げて調べてくれるとのことだ。今は結果を待とう』
幸いなことに、どちらのゲートも弱いモンスターだった。危険も緊急性もないため、タブさんは何も言ってこなかったのだろう。
私は湊ちゃんに話しかける。
「まあ、いろいろ考えられるかもしれないけれど、今はとにかくゲートをクリアしようか?」
私が湊ちゃんの戦いぶりを見ながら声を掛けると、湊ちゃんは明るい声で返してきた。
「私はもうすぐ終わるよ〜。終わったらそっちに行くね~」
湊ちゃんの戦う様子がダンジョン配信を通じて世界中に流れている。同時に私たちの戦いも流れているのだが、おそらくこれは日本における初めてのゲート出現だ。警戒レベルは「1」ともっとも低い数値であるが、注目度は高かった。視聴者も多かった。
湊ちゃんは軽快にゴブリンを倒していき、危なげなくその数は200匹に到達しようとしていた。




