第325話 2年4組
見えるのはごく一般的なダンジョンの風景。
私と春日井君はデバイスを操作して装備を実体化させた。
私は初級用革鎧に薄布の小手、ぼろ革のブーツを装備した。
木のヘルムはかぶると頭がつるつるになる。お寺の小僧のように見えるので装備していない。
武器はミスリルの大剣だ。
一方で春日井君はショートソードに簡素な金属鎧。
私たちはまだ武器と防具を十分に揃えていない。だが、このゲートでは問題とならないだろう。
ここで出現するのは巨大ネズミ。
クエストの内容は巨大ネズミを倒して得られる鼠の犬歯と呼ばれるアイテムを3個獲得することだ。
現実世界のネズミには犬歯がない。ここでも同じように巨大ネズミには犬歯がないのだが、特殊個体として犬歯を持つモンスターが出現する。それは100匹に1匹程度だ。
アイテム獲得は正直なところ運次第だった。それでも、制限時間までには集まるだろう。
問題は、湊ちゃんがいる2年4組の状況だった。
クラスが丸ごと呑み込まれたようで、机や椅子、黒板だけでなく、床や天井など教室そのものがゲート内に入っていた。
ゲートの様子は2年4組の誰かが始めた配信で知ることができる。イタリアのゲートでもそうだったが、今後はこうして配信を通して助けを求めたり、外に情報を伝えたりすることが主流になっていくだろう。
私と春日井君は、配信で2年4組の映像を見ることにした。
「扉を開けるな! 絶対に!」
教室では生徒たちが騒いでいた。扉に鍵をかけ、籠城していた。
「教室の外にゴブリンがいる! なにがあっても中に入れるな!」
「扉を塞ぐんだ! 机を積め!」
男子たちは大きな声を出しながら、入り口の前に机を積み上げていた。
女子たちも怯える中、1人の生徒が周囲に呼びかけていた。
「誰か。誰かハンターはおりませんか? このクラスにハンターはいないのですか?」
声は震えていて、勇気を振り絞ったのがわかった。普段はおしとやかでお嬢様らしい性格なのだろう。胸の前で手を組んで、周りに問いかけていた。その姿はまるで病人が出た飛行機で「機内にお医者様はいませんか?」と問う客室乗務員を思わせた。
「俺たちのクラスにダンジョンハンターはいねえよ!」
叫ぶ男子生徒。
問いかけた女子生徒は大きな声に萎縮してしまっていた。
配信画面の隅に4人の女子生徒が固まっていた。湊ちゃんと、それを取り囲む霧野さんたちだ。
動画から会話が聞こえてくる。
「私、行かなきゃ」
湊ちゃんの声だ。
「まだ、話が終わってないよ」
「そうだよ。春日井君とのこと」
湊ちゃんの前に3人が壁のように立っていた。
「だから、春日井君とは付き合っていないって言ったでしょ?」
「でも、好きなんだよね? 春日井君のこと」
「今はそんなこと言っている場合じゃない。教室の外のゴブリンをなんとかしないと」
「それなら大丈夫。春日井君がいるし」
「そうそう、春日井君が来てくれるし」
私たちは別のゲートに入ってしまっていた。私も春日井君も助けに行くことはできない。
「でも、私もダンジョンハンターなんだし……」
「南波さんはろくな装備を持っていないって言ってたよね? 春日井君が来る前にいいところを見せようとしている? でも、装備がないんじゃ無理しないほうがいいよね?」
湊ちゃんが俯いた時だった。教室の扉がバンバンと叩かれた。
「あ、春日井君が来たんじゃない?」
「私たちの春日井君が、助けに来てくれたんだ」
「さすが剣道部の副部長。頼りになるね」
霧野さん、水嶋さん、藍沢さんの3人が同時に扉のほうへ向かった。湊ちゃんは手を伸ばしながら叫んだ。
「だめ! 行っちゃだめ!」
湊ちゃんは危険を知らせようと叫んだのだが、3人は違う解釈をした。春日井君を取られたくないという意味で言ったと思ったのだ。
水嶋さんと藍沢さんが積み上げられた机を崩し、霧野さんが扉のロックを解除した。




