第324話 ゲートの出現
授業が終わり、高峰先生が教室を出るとすぐに、春日井君は大きく伸びをした。
「うーん、相変わらず数学は難しいぜ~」
思わず苦笑いを浮かべてしまった。
私の記憶だと、授業の開始から終了までずっと寝ていた気がする。きっと夢の中で難問と格闘していたのだろう。
私はスマホの画面を春日井君に向けた。
「緊急ゲート速報だってさ」
「緊急ゲート速報?」
春日井君は自分のスマホのスリープを解除し、ネットを検索し始めた。
「どれどれ? どこにゲートが出現したんだ?」
「まだみたい。とりあえず地下2階で虹色の発光現象が観測されたってニュースサイトにはあった。でも、ゲートの出現報告はまだ」
春日井君はスマホを置き、もう一度伸びをした。
「よし、体調は万全だし、近くにゲートが現れたら向かうか。準備だけはしておこう」
「近ければいいけれどね。外国だったら無理」
「確か、クエストをクリアしたら国から報奨金が出るんだよな?」
「まあ、そういう話になっているみたいね」
報奨金の額についてはまだ正式に決まっていない。今は一律100万円もしくは100万DPとなっている。
今回のような地下2階の場合は難易度が低い。レベルも10程度で余裕があるはずだ。この程度の警戒レベルであれば、報奨金は今後数万円程度に下がるだろう。今はボーナスタイムだと言えた。
「SNSをチェックだな。いつでも行けるようにダンジョンデバイスを持っていよう。南波にも声を掛けとかなきゃだな」
私は肩をすくめながら春日井君に返す。
「だから、そう都合よく近場で出現するとは限らないって」
「準備しておくに越したことはないだろ」
「まあ、そうだけどね」
私はダンジョンタブレットが机の引き出しにあることを確認し、次の授業の準備をしようとした。
「ところで、南波は? 席にいないみたいだな」
春日井君の声で顔を上げると、湊ちゃんは自分の席にいなかった。同じクラスの子が近づいてきて教えてくれた。
「南波さんなら霧野さんに呼ばれて教室を出ていったよ。たぶん4組に行ったと思う」
私は、しまったと思った。春日井君と話している間に湊ちゃんは呼び出されていた。
その時、私たちの教室の扉が勢いよく開かれ、男子生徒が叫んだ。
「大変だ! ゲートが出現したぞ!」
直後、校内放送が流れる。
――校舎内にアビスゲートが出現しました。生徒の皆さんは直ちに校舎の外へ避難してください。繰り返します。校舎内にアビスゲートが出現しました。生徒の皆さんは直ちに校舎の外へ避難してください。
私と春日井君は目を合わせ、同時に立ち上がった。
学校内でゲートが出現することは想定していなかった。他のクラスメイトたちも慌てて教室から出ていく。
私と春日井君も教室を飛び出す。
「いったいどこでゲートが現れたんだ?」
「わからない。でも、すぐに対処しないと」
「この学校にはハンターが何人もいる。先を越される」
「そこ!? そこを気にする!?」
廊下に出ると、みんなとは反対方向へと向かう。走りながらすれ違う生徒に声をかけた。
「ゲートがどこに出現したか知っている人、いる?」
逃げながら教えてくれる生徒がいた。
「2年4組だ! クラスが丸ごと取り込まれたらしい!」
「4組!?」
湊ちゃんが呼び出されたのが4組だ。湊ちゃんもゲートの中に入ってしまったのだろうか?
「急ごう! 春日井君!」
「おう! 南波に先を越されるぜ!」
「違うでしょ!」
私は春日井君と一緒に廊下を走るが、足元がぐらりと揺れた。
直後、タブレットに通知が入る。
――緊急ゲート速報:警戒レベル1――
春日井君もダンジョンデバイスを見ていた。
「あれ? また通知か? 俺のデバイスだけ通知が遅れて入ったのか?」
「違う! 別の速報!」
廊下に出現したゲートに、私と春日井君は取り込まれる。湊ちゃんがいると思われる4組とは異なるゲートだ。
足元の廊下が消えたためバランスを崩し、倒れ込んだ先はレンガ状の石でできた床だった。
クエストを完了するまではこのゲートから出ることはできない。湊ちゃんとは別々のゲートに入ってしまった。
幸いなのは、ゲート内でもスマホの電波が通じることだ。
通話もできるし、ダンジョン配信も可能だった。




