第322話 教室を覗く3人組
朝日が眩しい。空気はちょっと冷たくて気持ちいい。
いつもより早く学校に着いて、校門をくぐる。知ってる顔はまだ見かけない。廊下にもほとんど誰もいなかった。久しぶりの登校だけど、学校は平和な空間で落ち着く。
足音だけが廊下に響く中、教室の前に着いた。
扉に手をかけて――動きが止まる。
一番乗りかと思ったら、すでに中には人がいた。
春日井君と湊ちゃんの2人だった。
思わず身を隠してしまい、扉のガラスからそっと中を覗き込む。湊ちゃんは私の机に座って足をぶらぶらと揺らしている。時折、楽しそうに笑う顔が見える。春日井君は机に肘をついて湊ちゃんと話している。会話の内容は聞こえてこないが、親しげな様子だった。
しばらく中を見ていたが、登校してくる生徒が増えてきたので覗き見することができなくなった。なんとなく教室に入りづらくて、廊下の窓際で外を見ていた。友だちも登校してきて「おはよう」と挨拶してくれた。
2年1組に近づいてくる3人組がいた。同じ学年の霧野さんと水嶋さんと藍沢さんだ。3人は扉のガラスから私たちの教室を覗き込んだ。
彼女たちは春日井君の取り巻きだ。春日井君は剣道部の副部長をしており、女子からの人気が高い。ファンクラブもあるそうだ。
霧野さんたちは抜け駆けしないようにグループを作っていると聞いた。春日井君の顔を見るために私たちの教室に来たのだろう。ただし、今日は湊ちゃんと仲良く話す姿を見ることになった。中を見ると、すぐに顔を歪めていた。3人は教室の様子を窺いながら、こそこそと話しだした。
「あいつ、南波じゃん。春日井君と話してる」
「確か、いっしょにダンジョンに行ったんだよね?」
「春日井君に興味なさそうなふりしてたけど、猫かぶってたね」
「実はダンジョンでさ、うちの元カレが矢を打ち込まれたらしいんだよね」
霧野さんの言葉に、水嶋さんと藍沢さんが驚いたように目を丸くした。
「なにそれ? だって装備もろくに持っていない初心者なんでしょ?」
「初心者だから、人に向けて撃っちゃったんじゃないかな? 武器の扱いもろくにできないんだよ」
「そんな初心者なのに、春日井君といっしょに行こうと思ったの?」
「もしくは、春日井君の前で格好つけたとか?」
霧野さんの元カレは、いつだったか私たちにゴブリンメイジをけしかけてきた茶髪のハンターのことだ。最後は私が6発の矢を打ち込んで懲らしめてやった。
3人はまだ教室の前から離れない。
「それにしても仲良さそうじゃん。春日井君と」
「いっしょにダンジョン行ったら、まあそうなるよね」
「どうする? あいつ。気に食わないね」
「まさか、告ったりしないよね?」
「すでに告ったあとだったり?」
「え!? 春日井君と付き合っているってこと?」
「やだよ。あんな芋と付き合うなんて。私たちの春日井君なのに」
「でも、なんかあいつ、以前と雰囲気変わってない?」
「春日井君と距離を縮めて調子に乗っているんだよ」
「あの雰囲気はちょっと親しすぎるよね。とりあえず、呼び出して聞いてみないと。告ったのかどうか」
「だよね」
「ところで、羨香の元カレに頼んで恥かかせるって言ってたのはどうなったの?」
藍沢さんの言葉に、霧野さんは首を振る。
「あいつ駄目。ヘタレ過ぎ。使えない。とにかく、南波に手は出すなって言うんだもん。絶対に構うなって」
「え、それって……」
藍沢さんが口ごもったところに、水嶋さんが尋ねた。
「すでに2人は付き合っているからとか、そういう意味じゃないよね?」
「わかんねえよ。あいつ、とにかくビビってんだよ。なんか知らねえけど、手を引けって言うんだ」
「じゃあ、そういうことなんじゃ? そうだったら、ほんと、やだよね?」
「呼び出すか。南波のやつ」
「うん」
「そうしよう」
私は窓際でこっそりと会話を盗み聞きしていたが、これ以上は聞いていられず、わざと3人の間を通って教室の扉に手をかけた。
「ごめんね~。通してね~」
教室の扉を横にスライドして開ける。
がらがらと音を立てながら全開にすると、霧野さんたちはさっと身を引いて春日井君から見えないように隠れた。
私がばんっと大きな音を立てて閉めると、ばたばたと上履きの音を立てながら3人は教室から離れていった。




