第314話 5枚チェンジ
2勝2敗で迎えた5回目の勝負。泣いても笑っても、これで最後だ。
ミリアに配られた手札――
とんでもない結果となった。
フォーカード以上の奇跡が起こった。それは神をしても「嘘だろ」と言わしめるほどの最強の手札だった――。
[10♥] [J♥] [Q♥] [K♥] [A♥]
驚異のロイヤルストレートフラッシュが完成していた。
ミリアは男に向けてにやりと笑う。
私と湊ちゃんは画面を見ながら抱き合って喜んだ。
「やったー! ミリアがロイヤルストレートフラッシュを引き当てた!」
「すごい! すごいよ! ミリアちゃん!」
勝利を確信したミリアの表情に、マフィアの男たちは全員が動揺していた。
「ご、ご、ご、5枚チェンジだ!」
すべての手札を場に放り投げ、代わりのカードを受け取ると、男は誇らしげに宣言した。
「先に俺の手を見せてやる。いやあ、運がいいぜえ」
震えながら、場に5枚をさらした。
[10♠] [J♠] [Q♠] [K♠] [A♠]
スペードのロイヤルストレートフラッシュ。
同じ役の場合はマークの強さで勝敗が決まる。ミリアの手札はハートだから、この手には負けてしまう。
しかし、完全なイカサマだった。すでに使われたカードがここにある。後ろからマフィアの仲間が渡していたのだ。
私と湊ちゃんは画面を見ながら憤る。
「ちょっと待って! あからさまなイカサマだよ!」
「許せない! 絶対に! これじゃミリアちゃんが負けちゃうよ!」
しかし、ミリアは平然と宣言した。
「ミリアも5枚チェンジ」
一切の躊躇なく、ミリアはロイヤルストレートフラッシュの手札を場に捨てた。5枚の新しいカードを受け取り、しれっとした顔で軽く告げる。
「ミリアの勝ちなのです」
ミリアが静かにテーブルの上で開いた手は――
[7♠] [7♥] [7♦] [7♣] [JOKER]
ファイブカード。
マフィアの男が驚愕の表情で立ち上がった。
信じられないものを見るようにカードを見つめている。
ミリアは椅子の上に立ち、腰に手を当てた。上から男を見下ろす。
「ミリアの作戦勝ちなのです。最初に『ろいやるすとれえとふらっしゅが一番強いのです』と言ったのは、ミリアの誘導だったのです。すべてはこの展開のための布石なのです。勝負の結果は最初からミリアの手のひらの上にあったのです」
マフィアの男たちはどよめいている。
画面のこちら側では、私たちもはらはらしながら見ていた。
唯一、ディーラーの男だけが冷静だった。物静かに、サングラスをくいっと上げていた。
おそらくサングラスの向こう側では、目がピカピカと光っている。ミリアの魅了が発動している証拠だ。一番のイカサマ師はミリアであった。神がかった手札も、すべてこのディーラーが渡していたのだ。
しかも、ミリアは最強の手がファイブカードだと知っていて、わざとロイヤルストレートフラッシュを狙っていた。
マフィアが最後のイカサマを仕掛けてくることも想定していて、それがスペードのロイヤルストレートフラッシュになるように誘導し、それを上回るための布石を敷いていた。私と湊ちゃんも含め、この場にいる全員がミリアの手の上で転がされていた。
3勝2敗。
これでミリアの勝利が確定した。
「では、約束なのです。ミリアが勝ったのでパンツを脱いでいただきます。そして、ミリアの命令に従うのです」
「う、うるせえ! イカサマだ! こんなこと、あり得るはずがねえ!」
「イカサマとは、ミリアの手を後ろで見ておじさんに伝えることですか? おじさんにこっそりとカードを渡すことですか? ミリアはそんなことをしていないのです。ミリアはまったく何もしていないのです」
「お、お前……。俺たちのイカサマのこと、知って……」
「ミリアは目がいいのです。全員の動きが見えているのです」
男は立ち上がり、他のマフィアたちに向かって叫んだ。
「おい、やっちまえ! 殺したっていい。銃を出せ! 装備を解除してりゃあ、ただの人間だ。撃て。撃ち殺せ!」
その場にいた全員、ディーラーを除いた11人が一斉に銃を構えた。
今のミリアはワンピース姿だ。銃弾を防ぐことはできない。
その時、倉庫の扉が勢いよく開いた。
「やかましい。何事だ」
「ボス!」
ボスと呼ばれた男は白いスーツを着ていた。威厳のありそうな顔で、まだ三十代くらいだと思われる。仲間の男を2人連れていた。葉巻のようなタバコを咥えている。
「監視カメラを見てたら面白れえことになってるからよ。来てみたら、なんだ? 女1人、しかもこんな子どもに銃を向けてんのか?」
「し、しかし……。こいつは俺らに舐めた態度を」
「お前らが手玉に取られたんだよ。こんなガキに。おい、ガキんちょ。名前はなんて言ったか?」
「ミリアなのです」
「ミリアか。面白いガキだ。うちの組織に入らねえか? 優遇するぜ。毎月いくら欲しい? 1万ユーロか? 2万ユーロか?」
「1万ユーロ? ミリアはわからないのです。それは甘いですか?」
「甘い? ユーロはヨーロッパの通貨単位だ。味はしねえ」
「じゃあ、いらないのです」
「そうか、甘いものがいくらでも買えるっつうのによ。ケーキなら何千個、チョコレートなら何万個、バナナなら何十万本もよ」
それを聞いてミリアはゴクリと喉を鳴らした。
「その話、もう少し詳しく聞かせてほしいのです。ミリアはちょっとだけ、組織に入ろうかなとか思い始めているのです。でも、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、なのです……」




