第311話 ポーカー勝負
「まずいことになったよ、湊。突入準備」
「うん。わかった。すぐに行こう、春菜」
『待て。様子を見るのだ。ミリアはお主たちが思うより高い知性を持っている。ミリアに任せてみるのだ』
ミリアはエンジェル装備を身に着けていた。マフィアは当然警戒する。
「手を上げろ!」
ミリアの座るテーブルを取り囲み、全員が銃を手にしていた。ミリアは片手を上げる。
「両手だ!」
言われるがままに、ミリアは両手を上げた。
「装備を解除しろ!」
「両手を上げているので無理なのです。それよりも、これはなんですか?」
ミリアはテーブルに広がったカードを1枚手に取った。
「手を下ろすんじゃない! それはトランプに決まってるだろう!」
「なにをしていたのですか?」
「ポーカーの勝負だ」
「これで戦うのですか?」
「そうだ」
「ミリアと戦いませんですか? ミリアはどんな勝負でも、絶対に勝ちまする、です」
「絶対だと? ほかの2人はどうした? いっしょじゃないのか?」
「まだ来ません。来るまでにミリアと勝負をしましょう。ミリアが負けたら全部脱ぎますのです」
「なぬ……脱衣ポーカー……だと……」
「お姉様方はまだ来ませんよ」
「お前1人か?」
「はい、なのです」
男は顎に手を当てて少し考えた。
「まあ、よかろう。残りの装備を持ってくるまでの余興にいいかもしれない」
「それで、ミリアが勝ったら言うことを聞いてもらうのです。なんでも聞いてもらうのです」
「だが、俺たちが勝ったらお前のその装備をもらう。それだけじゃなく、全部脱いでもらうぞ。なにせ、脱衣ポーカーだからな」
「どのようなルールなのですか?」
「先に3勝した者の勝ちでどうだ? 3敗したら負けが確定だ。1回負けたらその装備を脱ぐ。2回で下の服を脱いで下着姿になってもらう。3回負けたら全部脱ぐんだ」
「おじさんが負けたら? どうなるのです?」
「1回負けたら上を脱ぐ、2回でズボンを脱いでパンツ姿になる。まあ、3回負けることはないだろうが。負けたら全部脱いでお前の命令に従ってやろう」
ミリアとマフィアで、ポーカー勝負が始まろうとしていた。
ミリアに指示を出すことができたら、こんなバカバカしい勝負はやめさせていた。私たちの声が届かないため、どうすることもできない。
『あやつらは負けたとしても、約束を反故にするであろうな』
タブさんの声は抑揚がなく、至って冷静だった。私と湊ちゃんはいつでも飛び込めるように準備をしていた。
湊ちゃんが画面を見ながら心配そうに言った。
「ところで、ミリアはポーカーのルールを知っているのかな?」
「どうだろ? 知っているとは思えないけれど」
ミリアはトランプを知らなかったのだ。当然のようにポーカーなんて知らないはずだ。
マフィアの男が1人テーブルについた。ほかの10人がテーブルをぐるりと取り囲んだ。残りの1人はプレハブの前で見張りに立っている。
ディーラー役の男はテーブルに散らばったトランプを集めてまとめた。そのまま手に取り、軽く2、3回シャッフルする。ディーラーはサングラスを掛けていて表情が読み取れない。口を引き結んでおり、中立公平を装ってはいるが、マフィアの一味であることには変わりない。
「よし、始めるとするか。カードチェンジは1回。ベットはなし、ドロップもなしだ」
ディーラーは手際よく、5枚ずつカードを配った。男は自分のカードを手に取って、扇状に広げた。
ミリアはテーブルに置かれた裏返しのカードを見つめていた。
「ミリアはよくわからないのです。これでどうやって戦うのですか?」
「お、お前……。ポーカーを知らないとか言わないよな……」
「ミリアは知らないのです。でも、大丈夫なのです。ミリアにはこれがあるのです。タブレットでルールを調べるのです」
ミリアは左腕に装着されていたタブレットを外し、ブラウザを起動して高速で指を動かし始めた。すごい勢いでサイトを検索していく。
「難しいのです。全部を覚えるのは無理なのです。ろいやるすとれえとふらっしゅ? が一番強いのです。これを出せばいいのですね。一番強いものだけを覚えればいいのです。ミリアは勝ち方が分かってしまったのです」
マフィアの男は鼻を鳴らす。
「はん。わざとらしい。初心者のふりをして、本当は自信があるんだろう?」
その様子を見ていた私は画面に食いつきながら、ミリアに訴える。
「ミリア、気づいて。このポーカーはジョーカーが入っているの。ファイブカードが一番強い。ロイヤルストレートフラッシュよりもさらに強い役があるの」
「春菜。そこじゃないと思う」
湊ちゃんから冷静なツッコミが入った。
映像の向こうにいるミリアは少し目を回しかけていた。あまりにもたくさんの情報に触れたためだろう。
「かなり難しいのです……。でもまあ、ミリアには強い味方がいるのです。お姉様がいつでも助けて……」
ミリアは手のひらを耳に当てて、音を聞き取るような仕草を取る。
「きっとお姉様が助けて……。助けてくれる……。……くれない……のです……。…………応答がないの、です……」
イヤホンは壊れてしまっていた。そのため、こちらの声はミリアに届かない。ミリアのため息が映像越しに伝わってきた。
「自力で勝てとおっしゃるのですね。お姉様……」
ミリアはあきらめた様子で、テーブルの5枚のカードを手に取った。不器用な手つきで扇状に広げていく。
ミリアが必ず勝つと言っていた理由は、私からのサポートにあったのだろう。配信を通して私たちからの助言を得る。イヤホンが機能していれば、カードの手を見てアドバイスを送ることができた。だが、今はこちら側の声を伝える手段がない。
マフィアたちはテーブルを360度取り囲んでいた。スマホを操作している者もいた。ミリアの背後にもマフィアは立っている。
『奴ら、イカサマをするつもりのようだ』
タブさんの声はここでも無感情で冷静だった。




