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【悲報】レベル1の妹。兄の装備でダンジョン配信を始める。(84億円相当の激レア装備で最下層スタート、未確認ドラゴンに遭遇した模様)  作者: 高瀬ユキカズ
始まる人類領域への侵攻

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第306話 ミッション達成

   ◆   ◆   ◆


 なんだかノリの良い店員さんだった。ロン毛にピアスをした年齢不詳の男性店員だった。

「これ、新品ですか?」と聞いたら「新品だよお。うはあ。君かわいいねえ。小学生かい?」「中学2年です」「趣味いいねえ、うはあ。わお」みたいな感じだったので、支払いを済ませて早々に店を出た。


 運転手に着替えられる場所を探してもらい、私はスクール水着を中に着込んだ。これで安心して装備を解除し、制服姿になれる。


 運転手が車を走らせながら、私に話しかけてくる。


「その姿を見ると、とてもデビルズ・マスターを倒した方だとは見えませんね」


 バックミラー越しに見えているのは制服になった私の姿だ。


「倒したのは、私の召喚モンスターですけどね」


 正確には、召喚した戦闘機のミサイルで撃ち落としたのだ。しかも私はデビルズ・マスターの姿すらまともに見ていない。なんとなくシルエットを覚えている程度だった。


「ところで、何をお買いになられたのですか?」


 運転手は店内に入らなかったので、私がスクール水着を買ったことは知らない。もちろん制服の下に水着を着ていることも知らなかった。


「どうしても身につけておかなければならない装備を買いました」


 運転手は頷く。


「なるほど。ダンジョンのアイテムは地下で取引されていると聞きます。あそこはいかにもアングラっぽい店でした。あ、今日のことは誰にも言いませんので、ご安心ください。私、こうみえても口が堅い方なので」


「そうしてもらえると助かります」


 運転手は気さくに話しかけてくる。

 よく喋るし、どう見ても口は軽そうだったが、話されて困るようなことは何もなかった。


「ところで、買われた装備品はぴったりでしたか? 筑紫春菜様に合いましたか?」


「怖いくらいにぴったりでした」


 本当にジャストサイズだった。


 さすがデバイスリンク・テクノロジーズ社が誇る最先端のAIだ。タブさんの『主(あるじ)の体型にぴったり』発言は完璧な計算のもとに導き出されたものだろう。こっそり3Dスキャンでもしたのだろうか? 瑞稀(みずき)社長が惜しみなく資金を投じて開発しただけはある。最高の頭脳と最高の技術の結晶だ。


――もちろん、皮肉だけれど。


「そろそろ会場に到着いたします」


 車が速度を緩めた。目的地は近いようだ。


 運転は丁寧だったし、会話も礼儀正しかった。

 一方で、私はぶっきらぼうな対応をしてしまったかもしれない。そうだとしたら、運転手には悪いことをしたなと思った。


 服の下にスクール水着を着るなんて、小学生以来の経験だ。ノーパンほどの羞恥心ではないとはいえ、中学生にとっては恥ずかしい。図太い神経は持ち合わせていないから、居心地の悪さしか感じていない。


 だから、運転手への返事もぞんざいになってしまったかもしれない。

 そうだとしたら本当にごめんなさい。


 運転手がドアを開けてくれて、私は車外に出た。

 運転手へお礼の言葉を述べる。


「ここまでの運転、ありがとうございます」


 最後くらいは丁寧に応対しようと、車を降りて深々と頭を下げた。

 顔を上げると満面の笑みを返してくれたから、気を悪くはしていないようだった。


「筑紫春菜様。今後のご活躍を期待しております。それでは私はこれで失礼いたします」


 私の何倍も丁寧な礼を返して、運転手は車に乗り込んだ。

 イタリアってチップは渡すのかな? と考えている間に車は走り出した。

 チップを受け取るような素振りはなかったから、余計な考えだったのだろう。


 WDAの用意した会場は見上げるほど立派なビルだった。警備が物々しく、中に入るとすぐに私だと分かったようで、スタッフが待合室となる部屋まで案内してくれた。


 先に待っていたのは湊ちゃんだった。春日井君とラビちゃんはまだ到着していなかった。


 湊ちゃんも装備を解除しており、私と同じ制服姿だった。


「湊が一番遅いかと思ったよ」


「私も、自分が一番遅くなると思ったから急いだんだよ。乾燥機から出したばかりだから、まだ温かい。ほかほか」


 そう言って自分のスカートの上からぽんぽんと叩いた。


「春菜は無事にゲットできたの? 獲得ミッションは達成?」


「うーん……。まあ、一応……。達成と言えば達成なのかなあ?」


「なんだか曖昧な答えだね。パンツは買えたの?」


「買えなかった。でも代わりの、濡れても大丈夫なやつ」


「え? なにそれ?」


「スクール水着。しかも小学生用」


 私がおどけたように言ったから、湊ちゃんはつられて笑っていた。


「え、嘘。ほんとうに?」


「本当」


 湊ちゃんは私のスカートをじっと見ている。じりじりと近づきながら、スカートの裾へ手を伸ばしてきた。


「ちょっと見ていい?」


「え、だめだよ。恥ずかしい」


 湊ちゃんの手がスカートにかかる。ゆっくり、すごくゆっくりとスカートの裾を持ち上げ始めた。私が本気で嫌がるような素振りを見せたら、途中でやめるつもりだったのだろう。


 ところが私は湊ちゃんを止めることもなかったので、スカートは持ち上げられた。水着が見えたところで、湊ちゃんの手が止まった。


「本当にスクール水着なんだ」


「うん。これでラビちゃんが溺れかけても、いつでも助けに行ける」


「春菜さ、無人島でパンツをなくしたって言ってたけど、やっぱり昨日のあれ。おねしょ……だったんだよね? 濡らしちゃったんだよね?」


 湊ちゃんは急に声のトーンを下げてきた。ぎりぎり聞こえるくらいのとても小さな声だ。


「違うよ!」


 私は頬を膨らませながら、湊ちゃんに持ち上げられていたスカートを一気に下げた。


「大丈夫。私、口は堅いよ」


 唇に人差し指を当てて真剣に言うものだから、私も本気で反論する。


「水着でおねしょは防げないからね! したことないから、わからないけれど!」


 ふたたび湊ちゃんは私のスカートを持ち上げて中を覗き見る。


「じゃあ、これは単なる春菜の趣味かあ。このスクール水着は」


 私はスカートを押し下げながら反論する。


「趣味でもないから! これしかなかったの! デバイスリンク・テクノロジーズ社の高性能AIが導き出した選択がこれだったの!」


「タブさんがこれを提案したの?」


「そう!」


「じゃあ、しかたないか。世界最高のAIだもんね」


「そう! しかたないの! 世界最高のAIがこれを着せたんだから!」


 冷静な湊ちゃんと、必死に弁解をする私。


 そのとき、部屋の扉がノックされた。


「会議の準備が整いました。会議場へご案内いたします」


 扉の外から声がかけられる。

 私と湊ちゃんは顔を見合わせてしまった。


「春日井君とラビちゃんがいないけど……」


 2人はこの場にいない。まだ到着していなかった。


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