第306話 ミッション達成
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なんだかノリの良い店員さんだった。ロン毛にピアスをした年齢不詳の男性店員だった。
「これ、新品ですか?」と聞いたら「新品だよお。うはあ。君かわいいねえ。小学生かい?」「中学2年です」「趣味いいねえ、うはあ。わお」みたいな感じだったので、支払いを済ませて早々に店を出た。
運転手に着替えられる場所を探してもらい、私はスクール水着を中に着込んだ。これで安心して装備を解除し、制服姿になれる。
運転手が車を走らせながら、私に話しかけてくる。
「その姿を見ると、とてもデビルズ・マスターを倒した方だとは見えませんね」
バックミラー越しに見えているのは制服になった私の姿だ。
「倒したのは、私の召喚モンスターですけどね」
正確には、召喚した戦闘機のミサイルで撃ち落としたのだ。しかも私はデビルズ・マスターの姿すらまともに見ていない。なんとなくシルエットを覚えている程度だった。
「ところで、何をお買いになられたのですか?」
運転手は店内に入らなかったので、私がスクール水着を買ったことは知らない。もちろん制服の下に水着を着ていることも知らなかった。
「どうしても身につけておかなければならない装備を買いました」
運転手は頷く。
「なるほど。ダンジョンのアイテムは地下で取引されていると聞きます。あそこはいかにもアングラっぽい店でした。あ、今日のことは誰にも言いませんので、ご安心ください。私、こうみえても口が堅い方なので」
「そうしてもらえると助かります」
運転手は気さくに話しかけてくる。
よく喋るし、どう見ても口は軽そうだったが、話されて困るようなことは何もなかった。
「ところで、買われた装備品はぴったりでしたか? 筑紫春菜様に合いましたか?」
「怖いくらいにぴったりでした」
本当にジャストサイズだった。
さすがデバイスリンク・テクノロジーズ社が誇る最先端のAIだ。タブさんの『主の体型にぴったり』発言は完璧な計算のもとに導き出されたものだろう。こっそり3Dスキャンでもしたのだろうか? 瑞稀社長が惜しみなく資金を投じて開発しただけはある。最高の頭脳と最高の技術の結晶だ。
――もちろん、皮肉だけれど。
「そろそろ会場に到着いたします」
車が速度を緩めた。目的地は近いようだ。
運転は丁寧だったし、会話も礼儀正しかった。
一方で、私はぶっきらぼうな対応をしてしまったかもしれない。そうだとしたら、運転手には悪いことをしたなと思った。
服の下にスクール水着を着るなんて、小学生以来の経験だ。ノーパンほどの羞恥心ではないとはいえ、中学生にとっては恥ずかしい。図太い神経は持ち合わせていないから、居心地の悪さしか感じていない。
だから、運転手への返事もぞんざいになってしまったかもしれない。
そうだとしたら本当にごめんなさい。
運転手がドアを開けてくれて、私は車外に出た。
運転手へお礼の言葉を述べる。
「ここまでの運転、ありがとうございます」
最後くらいは丁寧に応対しようと、車を降りて深々と頭を下げた。
顔を上げると満面の笑みを返してくれたから、気を悪くはしていないようだった。
「筑紫春菜様。今後のご活躍を期待しております。それでは私はこれで失礼いたします」
私の何倍も丁寧な礼を返して、運転手は車に乗り込んだ。
イタリアってチップは渡すのかな? と考えている間に車は走り出した。
チップを受け取るような素振りはなかったから、余計な考えだったのだろう。
WDAの用意した会場は見上げるほど立派なビルだった。警備が物々しく、中に入るとすぐに私だと分かったようで、スタッフが待合室となる部屋まで案内してくれた。
先に待っていたのは湊ちゃんだった。春日井君とラビちゃんはまだ到着していなかった。
湊ちゃんも装備を解除しており、私と同じ制服姿だった。
「湊が一番遅いかと思ったよ」
「私も、自分が一番遅くなると思ったから急いだんだよ。乾燥機から出したばかりだから、まだ温かい。ほかほか」
そう言って自分のスカートの上からぽんぽんと叩いた。
「春菜は無事にゲットできたの? 獲得ミッションは達成?」
「うーん……。まあ、一応……。達成と言えば達成なのかなあ?」
「なんだか曖昧な答えだね。パンツは買えたの?」
「買えなかった。でも代わりの、濡れても大丈夫なやつ」
「え? なにそれ?」
「スクール水着。しかも小学生用」
私がおどけたように言ったから、湊ちゃんはつられて笑っていた。
「え、嘘。ほんとうに?」
「本当」
湊ちゃんは私のスカートをじっと見ている。じりじりと近づきながら、スカートの裾へ手を伸ばしてきた。
「ちょっと見ていい?」
「え、だめだよ。恥ずかしい」
湊ちゃんの手がスカートにかかる。ゆっくり、すごくゆっくりとスカートの裾を持ち上げ始めた。私が本気で嫌がるような素振りを見せたら、途中でやめるつもりだったのだろう。
ところが私は湊ちゃんを止めることもなかったので、スカートは持ち上げられた。水着が見えたところで、湊ちゃんの手が止まった。
「本当にスクール水着なんだ」
「うん。これでラビちゃんが溺れかけても、いつでも助けに行ける」
「春菜さ、無人島でパンツをなくしたって言ってたけど、やっぱり昨日のあれ。おねしょ……だったんだよね? 濡らしちゃったんだよね?」
湊ちゃんは急に声のトーンを下げてきた。ぎりぎり聞こえるくらいのとても小さな声だ。
「違うよ!」
私は頬を膨らませながら、湊ちゃんに持ち上げられていたスカートを一気に下げた。
「大丈夫。私、口は堅いよ」
唇に人差し指を当てて真剣に言うものだから、私も本気で反論する。
「水着でおねしょは防げないからね! したことないから、わからないけれど!」
ふたたび湊ちゃんは私のスカートを持ち上げて中を覗き見る。
「じゃあ、これは単なる春菜の趣味かあ。このスクール水着は」
私はスカートを押し下げながら反論する。
「趣味でもないから! これしかなかったの! デバイスリンク・テクノロジーズ社の高性能AIが導き出した選択がこれだったの!」
「タブさんがこれを提案したの?」
「そう!」
「じゃあ、しかたないか。世界最高のAIだもんね」
「そう! しかたないの! 世界最高のAIがこれを着せたんだから!」
冷静な湊ちゃんと、必死に弁解をする私。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「会議の準備が整いました。会議場へご案内いたします」
扉の外から声がかけられる。
私と湊ちゃんは顔を見合わせてしまった。
「春日井君とラビちゃんがいないけど……」
2人はこの場にいない。まだ到着していなかった。




