第304話 インタビューを受ける
「私、知ってるー。このウサギさん、ライブ配信していたよ。撮影担当かな?」
群衆の一人がラビちゃんに近づいた。まだ小学生くらいの女の子だった。「触っていい?」と聞かれて、ラビちゃんはちょっとだけ首を傾げたが、すぐにこくりと頷いた。
「柔らかいー。ふわふわしているー」
女の子はラビちゃんの毛をとかすように指を差し入れる。ラビちゃんはくすぐったそうに体をくねらせた。
「俺も、俺も」
「わたしもー」
子どもたちがラビちゃんの周りに集まってくる。すっかり人気者になっていた。乱暴にラビちゃんの背中をまさぐる子もいた。
「チャックがないよー」
「大人が中に入ってるん?」
「顔みせろよ」
ラビちゃんのことをバシバシ叩く子まで現れる。
子どもは容赦がない。ラビちゃんはもみくちゃにされてしまう。
たまらずラビちゃんはボールのように体を丸めた。
私はラビちゃんと子どもたちの間に割って入った。
「こらこらー。ラビちゃんが困っているよ。叩いちゃだめ。優しく触ってあげて」
何人かの子どもたちが「ごめんねー」と言いながらラビちゃんを撫でた。ラビちゃんは丸まった状態から起き上がった。そして、触られるがままに棒立ちになった。
たくさんの子どもたちがラビちゃんの毛に触ろうと群がってくる。
子どもたちは人間が中に入っていると思っているようだ。まるでウサギの着ぐるみのようなラビちゃんは大人気だった。
ラビちゃんと子どもたちの交流は終わる気配がない。
この隙に買い物に行こうとしたが、鎧姿では目立ちすぎる。群衆から逃れることなどできなかった。
豪華装備に注目が集まっているが、さすがにラビちゃんのように触られることはない。近づいて声をかけられるくらいだ。それでも群衆はずっと先まで続いている。いつここを抜けられるのか、見通しがつかなかった。
テレビカメラを担いでいる3人組がいた。1人が手持ちマイクを私たちに向けて話しかけてきた。
「すいません。イタリアダンジョン情報局の者ですが、インタビューよろしいでしょうか?」
ダンジョン情報局というのはどうやら番組名らしい。彼らは地方のテレビ局のようだった。
「少しなら……」
断りたくても逃げ場がなかった。インタビューを受けてしまった方が早いので、3人で応じることになった。
長い棒の先についたガンマイクが私たちに向けられた。
「今回はダンジョンの一部が地上に出現するという異例の事態が起こりました。モンスターが地上に出たら大変なことになるところでした。討伐ありがとうございます。そして、おつかれさまでした」
「あ、いえ。どういたしまして」
私は軽く頭を下げる。
「さっそくですが、視聴者の方から質問が来ておりまして。お答えいただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
湊ちゃんと春日井君は一歩下がっており、私が代表して答えることになった。
「では、視聴者からの質問です。ダンジョンハンターはたくさん稼いでいると聞きます。今一番欲しいものはなんですか? 稼いだお金で何を買うのですか? これは10歳のお子様からですね」
いや、それはもうパンツです。私は早くパンツを買いに行きたかった。でも、そんなことは言えるわけもなく――
「今一番欲しいものですか? この装備は借りているものですので、強い装備がほしいですね」
「なるほど。2番目の質問はまさにうってつけですね。次に狙っている装備などはございますか?」
パンツです。私の頭の中はパンツでいっぱいだった。
「狙って装備を獲得するのは難しいので、強い敵に挑んでいくだけですね」
「ではこちらの質問です。日本から来ているそうですね。イタリアではどこへ行ってみたいですか? 買いたいものなどはありますか?」
パンツです。早くパンツを買いたいです。
「ゆっくり観光したい気持ちはあるのですが、今は緊急事態だと聞いています。これから会議があるので、それどころではないかもしれません」
「そうですよね。忙しいところ申し訳ございません。未曾有の事件が起こったわけです。ダンジョンハンターは危険が伴います。ハンターとして心がけていることなどはございますでしょうか?」
パンツです。
「身を守ることでしょうか。自分の身と仲間の安全です。死んでしまっては元も子もありませんから」
「では、守りたいものはやはり仲間ですか? 何を一番守りたいですか?」
パンツです。
「仲間ももちろんですが、危険を冒さなければならない場面もあります。敵に立ち向かう気持ちはなくさないようにしなければなりません」
「なるほど。そのようなことを考えているのですね。では、この質問です。視聴者の方からです。いつも戦いでは何を考えていますか? 戦闘が終わった今は何を思っていますか?」
パンツです。とにかくパンツです。今はパンツのことしか考えていません。
「戦闘中は必死なので、夢中で目の前の相手のことばかりを考えています。戦いが終わった今は、まずゆっくりしたいですね」
「では次に行きたい場所などはありますか? 何を目指しますか?」
パンツです。目指すはパンツです。
「まずは緊急会議があるそうですので、それから考えようと思います」
「では、最後に。今の心境は? 今後の抱負をお聞かせください」
「パンツです」
まずは会議に出てからです。世界で何が起こっているのか、情報を共有しなければなりません。
「は? パンツ? は……?」
インタビュワーは私の言葉を繰り返し、きょとんとしていた。
「あ……」
間違えた。心の声と実際の声が逆になってしまった。
「まずは会議に出てからです。アビスゲートという未知の現象が起こりました。世界で何が起こっているのか、私たちは情報を共有しなければなりません」
「そ、そうですよね……。インタビューありがとうございました」
「では、私たちは忙しいのでこれで。緊急会議に出なければなりませんから」
胸を張り、威厳を保ちながらふんぞり返って歩き始める。鎧ががしゃんがしゃんと音を立てる。
湊ちゃんと春日井君も後ろからついてくる。
群衆は私たちの道を開けるように2つに分かれていく。
時々周りから囁きが聞こえてくる。「パンツ……」「パンツって言った?」「聞こえたよな? パンツって」などと漏れてくるが、耳に入らないふりをして私は歩き続けた。




