第303話 港に人が集まる
港に人がひしめき合っている。イタリア語で書かれた横断幕を広げている人もいる。スマホで配信している人もちらほら見える。
アビスゲートでの戦いはテレビでも放映されていた。戦闘機が突如現れ、最後のボスであるデビルズ・マスターを葬る様子が放送された。
私はそのモンスターの姿を見ていないし、気絶していたので、目が覚めたときにはすべてが終わっていた。
デビルズ・マスターという名前には馴染みがないし、その姿もまったく記憶にない。でも、私のタブレットに表示されている召喚可能リストには入っている。だから、まあ、倒した扱いになっているのだろう。
私が召喚した戦闘機が倒したのだから、私の貢献なのだと思う。たぶんね……。
「すげえ人だな。これ全部、俺たちを出迎えてんのかな?」
船の上では上半身ハダカだった春日井君も、この群衆を前にして制服を着ていた。
小型船は港に停泊しようとしていた。
私の鎧姿を見て「ハンターの鑑」だと言った軍人が、ここでも褒めてくれる。
「さすが筑紫春菜さんですね。この状況を見越しておられた。まるで英雄の凱旋のようです。それで、その鎧姿なのですね」
「はは……。まあね……」
さっきまで制服姿だった春日井君は、いつのまにかミスリル装備に身を包んでいた。
神王装備の私、オリハルコン装備の湊ちゃんと、3人で立派なダンジョンハンターの姿になった。もちろんラビちゃんはそのままだ。私と同じくらいの身長で、全身を真っ白な毛で包んだウサギの姿だ。
春日井君は手すりから身を乗り出して群衆に手を振っている。群衆はイタリア語で声援を送ってくれる。
私と湊ちゃんは小さく、とても小さく、手を振るだけだ。
ここにいる2人の女子中学生がノーパンだと知ったら……。
いや、別にパンツを履いていないからといって、気にするようなことではないのかもしれない。
履いていない本人は気にしているが、赤の他人はそんなことはまったく気にしないものだ。
「それに、いざとなったら私のスキルで……」
長瀞ダンジョンを召喚して日本に帰ってしまえばいい。そう考えたのだが――
軍人が私に注意を促してきた。
「筑紫春菜さん。イタリアの法律では、正当な理由なくダンジョン外で魔法やスキルを行使することが禁じられております。違反すると懲役および1万ユーロ以上の罰金となりますので、注意してください」
ダンジョンに関する法律は国によって異なる。イタリアは厳しいらしい。さらに厳しい国であれば、鎧の着用も禁じられるだろう。日本は平和な国だということもあって、法律は甘いのかもしれない。
私の逃げ道は封じられ、なんとしてもパンツ獲得ミッションを成功させなければならなくなった。
「上陸したらまっさきにコンビニに駆け込みたいけれど、これだけ人が多いと恥ずかしいね」
湊ちゃんに話しかけたつもりだったが、同じ軍人から返事がくる。
「イタリアには日本のようなコンビニはありませんよ。代わりに雑貨などを扱う商店がございますが、何をお求めでしょうか? 私でよろしければ購入いたしますが」
彼は無精髭を生やした40がらみの男性だ。当然、頼めるはずもなかった。
「あ、いえ。たいしたものではないので。あはははは」
から笑いをして平然を装っている間に、下船の準備が整っていた。
港にかけられた細い板を渡ると、たくさんの群衆に取り囲まれた。
意外にも人気があったのはラビちゃんだった。
タブレットがイタリア語を翻訳して日本語に変えてくれた。言葉はイヤホンを通して聞こえてくる。
「なにこれ、かわいい。うさぎの着ぐるみ?」
「このうさぎもパーティのメンバーか?」
「触りたいな。でも触ったらまずいよな」
「もしかして、この兎がツクシハルナ?」
「ダンジョン配信では顔が見えなかったからわからない。ツクシハルナは誰?」
幸か不幸か、配信では私の顔と名前は一致していなかった。砂煙で視界が悪かったこともある。ラビちゃんは撮影している姿がわずかに映っていたが、ほとんど記憶に残るようなものではなかった。
視界が悪かったことが、これだけの群衆を集めたのかもしれない。映像でははっきり見ることができなかったダンジョンハンター。その姿を一目見ようと、たくさんの人が集まったのだ。




