第299話 洗濯します
湊ちゃんにはおねしょをしたと思われたが、さすがにその誤解は解いた。
「ありがとうね。私につきあって、湊まで鎧姿になってくれて」
「いいよいいよ。友だちだもん」
無人島に2人の女子中学生。黄金とブルーメタリック。
全身フル装備の姿で浜辺を歩いている。
「湊まで巻き込んじゃったね」
「いいんだって。私も興味があったし」
「興味?」
「うん」
心なしか、湊ちゃんの顔が火照っていた。
「湊までおんなじ格好をさせちゃったね」
「春菜はいつ気がついたの? 自分がパンツを履いていないこと」
「昨日の夜中……」
「うわあ、それまでずっと気がついていなかったのかあ……」
「そうだよ……。春日井君もいたのに……」
私は両手で顔を覆い、その場に座り込んだ。時間を巻き戻せるものなら戻したい。
湊ちゃんが私の肩に手を置く。
「まあ、事故が起こらなくて良かったよ」
「本当だよ。スカートがめくれていたら大惨事だよ」
「でも、知らなくて良かったのかもね。私だって、鎧を着ていても恥ずかしくてむずむずするもの。見られないと分かっていても、変な背徳感があるね」
「ん? 湊……。いったい何を言って……」
そういえば、湊ちゃんはオリハルコン装備を着る前、なんだかもぞもぞと動いていた。
「つい、無意識に内股で歩いちゃうね。これ、慣れるのかな? 癖にならなければいいけれど」
「湊!?」
「なぁに?」
「もしかして、履いてない!?」
「うん」
湊ちゃんは鎧の腰に装着してある収納ボックスをぽんぽんと叩く。本来なら、そこはポーションなどを格納する場所だ。
「春菜と違って、なくしてないから大丈夫。ここにある」
「うわあー。湊が変態になっていくー」
私は両手で頭を抱えて嘆いた。
湊ちゃんは口をとがらせて反論する。
「ずっとノーパンだった春菜がそれを言う? 春菜に合わせて私も脱いだんだけど?」
「合わせなくてもいいよ……」
「本当のことを言うと、昨日はお風呂にも入っていないし、洗いたいなって思ってたの。毎日洗濯しないと嫌なんだよ、私」
「あ、そっち? てっきりそういう趣味に目覚めてしまったのかと」
「目覚めませんよー。春日井君もいるしね。戻ってくるまでに洗って履けばいいでしょ?」
「ああ、じゃあ私に合わせたというより、元々脱ぐ予定だったんだ」
「ついでってことだね」
湊ちゃんはかなり綺麗好きらしく、同じ下着を2日間、洗わずに着るのが嫌だそうだ。
でも、脱いで洗濯するのは恥ずかしいと思っていた。諦めていたところに、私の話が舞い込んできた。これを口実にして、脱いで洗うことができる。
「まあ、湊が変態じゃなくてよかったか」
「うん、春菜も変態じゃなくてよかった」
「私たちは変態じゃない!」
「ノーパンだけどねー」
そう言って、湊ちゃんはくすくすと笑った。
「さて……」
湊ちゃんは鎧の上から腕まくりをする仕草をした。
「12時にはこの島を出るわけだけど、洗濯しましょうか」
「でも、ここには洗濯機がない。洗剤もない。だから、水洗いしかできないね」
「春菜は石鹸の作り方を知っている?」
「知らない」
「私も知らない」
「タブさんに聞いてみる?」
「うーん。聞いたら面白くないんじゃない? 石鹸って油とかで作るんじゃなかったっけ?」
「そうだっけ? ええと、昨日食べた魚の残りを焼いたら、油が出るんじゃない?」
「それと、アルカリ。私、知ってるよ。灰がアルカリ性なんだよ」
「さすが、湊。頭がいい」
「よし、これで石鹸を作ってみよう」
「おー」
2人して気合を入れて腕を上げた。
こうして私たちは石鹸作りを開始し、見事に大失敗した。
湊ちゃんのパンツは洗濯してきれいになるどころか、魚臭くなった。
重苦しい空気に包まれた。
湊ちゃんは砂浜に体育座り。
膝の上に頭を伏せている。
そこに海から春日井君が戻ってきた。
「ん? どうしたんだ? 今度は南波か? どうしてオリハルコン装備なんだ? しかも、朝の筑紫みたいに落ち込んでんな」
湊ちゃんの落ち込みようは半端ではない。
「ほっといて。私が馬鹿だったの。余計なことをしてしまったの」
「いったい、何があったんだ?」
春日井君は助けを求めるように、私に視線を向ける。
だが、私には何も言うことができない。
無言で肩をすくめながら、首を振ることしかできなかった。




