第298話 無人島生活 2日目 島の朝
あれからずっとパンツを探したが、見つからなかった。
仕方なく、私は少し離れた場所に座っていた。
砂浜で体育座りをして、頭を膝につけて突っ伏している。
空が白み始めてきた。もうすぐ朝日が顔を出すだろう。
最初に起きてきたのは春日井君だった。
「筑紫、こんなところで何しているんだ?」
「1人になりたかったの……」
「それはまあいいとして……その格好は……」
私は全身を鎧で包んだ完全防備。黄金の神王装備だった。
スカートでいるのは心細い。風の吹くこの島で、私の秘部を守る方法はこれしかなかった。
私は立ち上がった。鎧が、がしゃりと音を立てた。
腕を振り上げながら、春日井君に熱く語る。
「ダンジョンハンターたるもの、いつでもこうして備えておくべきじゃないのかな? 春日井君もミスリル装備を身に着けたらどうだろうか?」
「なんでだよ……」
私がノーパンだからだよ、なんてことを言うわけにはいかない。
1人でこんな姿だと浮いてしまうじゃないか。
「ほら、ラビちゃんが行方不明になったら探さないといけない。森には危険な動物が潜んでいると思う」
「ラビならそこにいるぞ」
後ろを振り向くと、森の入り口にラビちゃんが座っていた。近くには3匹の兎がいる。
人間ほどもある巨大なラビちゃんを恐れることもなく、兎たちは戯れていた。
「ラビも仲間ができたみたいだな。危険な動物もいないぞ?」
「じゃあ、ええと……。湊が急に襲われたりしたらどうするの? 危機に直面したら!?」
私があたふたしながら答えると、背後から声がかかった。
「私がどうかしたの?」
振り向くと、湊ちゃんも起きてきたところだった。
「おはよう……。早いね……。湊……」
湊ちゃんは私の全身を上から下までくまなく見てきた。
「春菜、どうしたの? その姿。なんで鎧なんて着てるのよ?」
「なんでだろうね……」
パンツをなくしたからです。
「それに心なしか、落ち込んでいるような……」
「そうかな? 私は元気だよ」
その場で手足を動かして、おどけて見せる。鎧ががしゃがしゃと音を立てた。
「元気ならいいけれど……」
よく考えたらノーパンでも問題はないのだ。今日の12時になれば帰れるからだ。時間が来るまで鎧を着ていればいいだけだと考えれば、気分も落ち込まない。
「じゃあ、俺は朝飯のマグロを捕りに行くぜ。今度こそマグロをゲットしてやる。待ってろよマグローーー。俺のマグローーー!」
そう言いながら、春日井君は長槍を銛のごとく振り上げて、海へ走っていった。
「筑紫は来るなよー! 鎧だと溺れるぞーー!」
ばちゃばちゃと音を立てながら、すでに腰の深さまで海に入っていた。
私は春日井君の後ろ姿に小さく手を振って見送る。
湊ちゃんが腕組みをしながら、私に疑いの目を向けた。
「おかしい。いつもの春菜と反応が違います……」
湊ちゃんは探偵よろしく私のことを見てくる。
すぐに私の胸元まで顔を近づけ、下から見上げてきた。
「なにか隠してるね? 春菜?」
湊ちゃんに追及され、私は白状してしまいそうになる。
「実は……パン……」
「待って、言わないで」
湊ちゃんは私の口元に人差し指を当て、その先を言わせない。
「当ててみる。ええとね。うーんと。今、パンと言いかけたからわかっちゃった」
「わかったの!?」
「春菜、今パンツ履いてないね?」
「ええ!?」
驚く私に、湊ちゃんはしたり顔だった。
「私にはお見通しです。春菜のことなら何でもわかるよ」
「湊……」
「大丈夫、春菜。春日井君には内緒にしてあげるから」
「ありがとう。湊……。まあ、そうだね。できれば……」
「あ、そうだ」
「ん? なに?」
「私も同じになればいいんだ。いっしょにパンツを脱ぐ……というのはさすがに無理だから……」
湊ちゃんはスマホを操作し、装備を実体化させた。ブルーメタリックのオリハルコン装備が出現した。
「私も春菜といっしょに鎧を着るよ。これで誤魔化そう」
「湊ぉおおお……」
私をかばって、いっしょに鎧を着てくれるというのだ。
私は青く光る鎧の胸元へと飛び込んだ。湊ちゃんは私を優しく抱きとめてくれる。優しく頭を撫でてくれた。
「よしよし、誰でも失敗はあるよ。春日井君には内緒にしてあげるからね」
「ありがとうー、湊ぉーー」
「粗相しちゃったんだね、春菜。昨日の夜、おねしょしてパンツを脱いだんだね。大丈夫だよ。私だって小学3年生までおねしょしてたんだから。誰でも失敗はあるよ。中2だっていいじゃない。これを最後のおねしょにすれば」
「ありがとうー、湊ーー」
「よしよし」
「本当にありがとうー、湊ーーーー」
「よしよし、大丈夫だよ」
「ん?」
私は湊ちゃんの胸から顔を上げる。
湊ちゃんの中では、私が夜中におねしょをしてパンツを濡らしてしまったことになっているらしい。
「春菜のことだから、洗わないで捨てちゃったのかもね。もうこの島に来ることはないかもしれないから。でも、洗って持ち帰ったほうがいいよ」
湊ちゃんは私の頭をよしよしと撫で続けている。
「ああ、かわいいなあ、春菜。中2にもなっておねしょしちゃうなんて」
私は両手を振り上げて叫ぶ。
「違ぁーーーーうーーーー!!」
私は粗相なんてしていない!
おねしょなんてしていない!
中2にもなって、ただパンツをなくしただけだ!




