第297話 判明
目の前には満天の星。砂浜がひんやりと心地いい。静かな波音が聞こえてくる。
3人で川の字になっていた。
真ん中に春日井君。右が私で左が湊ちゃん。
ラビちゃんはそこら辺にいるのだろう。お腹が苦しくて探す気にならない。
「すごい星の数だね」
湊ちゃんが空を指さしていた。
都会では見ることのできない、溢れんばかりの星だ。地球に降り注いでこないことが不思議なくらいだった。
「すごい数だよね。あれ、全部太陽なんだよね?」
「恒星ってことだろう?」
私の太陽という発言は、春日井君に突っ込まれてしまう。そもそも太陽と恒星は違うのか? 同じじゃないのか?
しかし満腹で苦しいので、反論する気が起きない。
「春菜は、太陽みたいに燃えているって言いたかったんでしょ?」
「ごめん、俺が無粋だったな」
私の代わりに湊ちゃんが弁明してくれた。そう、日本語は難しい。
暗黙の了解として「みたいに」という言葉が省略されていることがある。
私は「太陽なんだよね?」と言ったが、「太陽みたい」という意味が含まれていることもある。
考えれば分かるけど、全部、満腹なのが悪いのだ。私から思考力を奪っていたのだ。
「無人島だと、星空もすごいことになるんだね」
「幻想的だね」
私は半分目をつぶりながら、湊ちゃんに返答していた。睡魔が忍び寄っていた。
「眠くなってくるな」
春日井君の声も眠そうだった。
3人で砂浜に直接、横になっていた。
春日井君が真ん中だ。
この配置は私と湊ちゃんが2人で森の中で却下した並びだ。本当なら春日井君には1人で離れて寝てもらうはずだった。でも、お腹が一杯で苦しくて動けない。
たくさんの星が上空でまたたいていた。
星が流れた。
見ていると、数分ごとに流れ星がみつかる。
考える力も湧かないから、ただ視界に入った星を見ているだけだ。そのまま星空だけを眺めていたら、一気に睡魔が襲ってきた。
いつの間にか3人とも眠ってしまった。
私たちは浜辺で夢を見ている。
私の夢の中では春日井君は隔離中だ。1人さみしく離れた場所で寝ている。
――……むにゃ、春日井君は隔離ね………………
すると、向こうから春日井君が声を掛けてきた。
――……筑紫、忘れ物だぞ………………
なにやら布らしきものを振っている。
――ありがとう………………
私は春日井君のほうへ取りに行く。横になっていた湊ちゃんの上をひょいと跨いでいった。跨ぐ時にスカートが翻った。なぜだか、湊ちゃんの顔が真っ赤になっていた。スカートの中が見えたくらいで、そんなに顔を赤くしなくても。
――ほら、……落ちてたぞ………………
春日井君から白い布を渡された。
――え、これ……パン……………………?
ここで目が覚めた。
私は夢を見ていた。今は真夜中だった。
星空と砂浜。打ち寄せる波。
横にいるのは春日井君と、その向こう側に湊ちゃん。
「そうだ、ここ。無人島だったんだ」
砂浜に波が打ち付ける。波音が心地よい。
「お花を摘みに行ってきまーす」
私は立ち上がって、スカートに付いた砂をはらった。
花を摘む――それはトイレへ行くことの隠語だ。
私は2人から離れ、1人で森の中へと入った。
女子の花摘みについては省略させていただく。詳しく語るのは無粋だろう。
寝ぼけていたので、行動は半自動的だった。
違和感に気がついたのは、履こうとした時だった。
「あ、あれ……?」
本来あるはずの布に指がかからない。
スカッと空振りし、何事かと視線を向けても、そこには何もない。
どこかで落としたのかとキョロキョロ見回すが、そもそも落とすような物ではない。
ない。
どこをどう探しても、ないのだ。
スカートの中身が――ない。
これがまだ夢の中ならばよかった。
しかし、現実だ。
一気に眠気が覚めた。
口元に手を当て、一生懸命に考えてみる。
いったい、いつから履いていなかったのだろうか?
夕食の時は?
湊ちゃんといっしょに海水を沸かした時は?
森に入った時は?
時間を逆に辿っていく。
海に入って制服が濡れていた。
そのちょっとあとだ。
春日井君から濡れたTシャツを渡されたが、私は海に放り投げ、その隙に……
パンツを脱いで絞ったのだ。
そこからだ……。
履いた記憶がない……。




