第290話 フライング・デビル討伐のための作戦
イタリア側のハンターたちとは別れ、私たちはフライング・デビル討伐のための作戦を立てていく。
この場にいるのは4人。
もりもりさんと私、湊ちゃんと春日井君だ。
ラビちゃんは相変わらず行方不明だった。
今はライブ配信を行っていないが、もりもりさんは顔をスカーフで隠したままだった。
「南波さんは私以上に春菜さんのことを熟知しておられます。作戦の概要は私ではなく、南波さんにお願いしたいと思います」
湊ちゃんは少しだけ首を振る。
「その前に、春菜が投げた剣についての見解をみんなに共有しておいたほうがいいと思います。もりもりさんにはお考えがあるのですよね?」
もりもりさんには思い当たるところがあるようだ。
軽く頷いて、話を続けた。
「はい、そうですね。これはあくまでも私の推測に過ぎないのですが、あのスローラビット、みなさんがラビちゃんと呼んでいる召喚モンスターがいますよね? あのラビちゃんが鍵になっているのだと思います」
「え、ラビちゃん?」
私は思わず繰り返してしまった。
「はい。あのスローラビットです。私もみなさんに合わせてラビちゃんと呼びましょうか。ラビちゃんは春菜さんによって召喚されました。召喚されたモンスターは召喚主のステータスの影響を受けるのではないかと考えています」
自分を指しながら聞き返す。
「私のステータスですか? レベルは76ありますけれど、他に特筆すべきことはなさそうですが。メタル魔法が使えることですか?」
「メタル魔法は関係ないと思います。関係あるのは覚醒レベルですね」
「あ……」
そうだ。ラビちゃんはロサンゼルス・ダンジョン、地下172階の虹の壁を通り抜けている。あの壁を抜けられるのは覚醒レベルを獲得した者だけだった。
「ラビちゃんはおそらく覚醒レベルが上がっています。通常のスローラビットではないはずです。そのことが今回の件と関係しているはずです」
「私が投げた剣ですか?」
「剣もですが、ミスリルカッターもです。魔法を放つ場合、有視界内に敵の姿を捉えていることで命中率が上がります。つまり、春菜さんとラビちゃんは知覚を共有している可能性があります」
「知覚を共有?」
「ラビちゃんが体の一部のような扱いになっているのかもしれません。あくまで推測に過ぎませんが、ラビちゃんが春菜さんのサポーターになっているのではないでしょうか?」
湊ちゃんと春日井君を見ると、2人に驚いた様子はなかった。おそらく2人とも同じようなことを考えていたのだろう。だから、私の結果にも納得していたのだ。
「とりあえず、ラビちゃんと剣についてはこのくらいでいいでしょうか? では、作戦の概要を。南波さん、お願いします」
「わかりました」
湊ちゃんは頷いて、もりもりさんから話を引き継いだ。
「まず、フライング・デビルの残数は1,464体。かなりの数がいる。春菜はあと3体のモンスターを召喚できるよね?」
「うん」
「フライング・デビルはドラゴンに一気に飲み込んでもらう。一掃しよう」
湊ちゃんはあっさりと言い放った。
私は口をあんぐりと開けてしまう。そんなことができるわけがない。
「ちょっと待って、湊。ドラゴンってフレイムドラゴンのことだよね? 確かにフレイムドラゴンを召喚すれば、何体かは飲み込めるかもしれない。でも、さすがにあの数は無理だよ」
横にいた春日井君が、私の肩をとんとんと叩いた。
「筑紫、俺にだってそのくらいはわかるさ。でも、いるだろ? 飲み込める召喚モンスターがさ」
春日井君はにやりと笑った。
私は考え込む。そんなモンスターがいただろうか?
したり顔で春日井君は答えを口にした。
「奥多摩ダンジョンの地下220階。階層主その2の偽装扉だよ」
その言葉で思い出した。初めてのダンジョン。そこからの脱出劇。
最後の階層で私が倒した階層主の1つ。それが偽装扉だった。
「恐ろしいよな、あの扉。扉の中が亜空間になっていて、吸い込まれるんだろ?」
「そうだけど、扱いが難しいよ。うかつに開けると吸い込まれるから、危なくてしょうがない」
ただし、危険物の処理には有効ではある。ロサンゼルス・ダンジョンに仕掛けられた放射性物質は偽装扉で処理した。
「俺が思うに、南波の作戦は偽装扉をドラゴンの口にくわえさせる。その状態で空を飛び、フライング・デビルを一掃しようというんだろう?」
「そう、正解」
湊ちゃんは誇らしげに告げた。
私は呆気にとられてしまう。湊ちゃんはとんでもないことを考えるものだ。
モンスターを飲み込んでしまうドラゴンを作り出そうというのだから。
「飛び抜けた発想だね、湊は。敵に回したら怖そう」
「魔王みたい、とか言わないでね」
「言わないけれどさ」
「でもさ、ひとつ問題があって」
「問題?」
「たぶん私たちの行動は世界中に配信されてしまう。春菜の圧倒的な強さをみんなが知ることになる。私が気になるのはそこだけかな」
ゲート内にはたくさんの市民がいる。彼らの行動を縛ることは難しい。
「別にいいんじゃない?」
私が軽く答えると、
「あ、そう?」
湊ちゃんは拍子抜けしたようだった。
ただ1点だけ、湊ちゃんの作戦には穴があった。
偽装扉は万全ではない。欠点がある。
欠点は1つではない。
まず、偽装扉は自力では動けない。あくまでも罠なのだ。
それに、何でも吸い込めたら、それこそ無敵になる。実際、私は吸い込まれなかった。フレイムドラゴンのような巨大なものを吸い込むのは無理だ。
今回、この作戦が有効なのは、フライング・デビルが人間と同程度の大きさであること、そして上空にいることだ。
この条件が崩れなければ、クエストの完了は揺るがない。
しかし、想定外のことが起こる可能性はある。
湊ちゃんはそのことを考えているだろうか?




