第288話 2つのグループが合流
洞穴の中では安堵のため息をつく者もいれば、目の前の光景が現実だとは受け止められない者までいた。雷光のごとく降ってきた剣がフライング・デビルを両断したのだから、状況を把握できないのも無理はない。
討伐されたモンスターはたった1体。
1,480体のモンスターのうち、1体が倒れただけにすぎない。だが、強い勇気を与えてくれる大きな奇跡だった。
「助かった……。助かったぞ……」
「やった。倒せる相手なんだ……」
「帰れるよ……。絶対。俺たち帰れるって……」
「みんなで生きて帰りましょう。ねえ? 諦めちゃだめよ。ちゃんと希望はあるのだから……」
生き残った7人の市民は男女かまわず抱き合うように体を寄せ合っていた。
一方で、彼らを盾にして戦いながらダメージすら与えることのできなかったハンターたちは皆うつむいていた。
特にリーダーの男は、何かを諦めたように目が虚ろだった。
ずっとこの場所にとどまるわけにはいかなかった。安全ではない以上、ここから動かなくてはならない。それは誰もが共通意識として持っていた。全員で洞穴を出る。
女性が前方を指差しながら、小さな声で呟いた。
「あれ、何? あの白いの……」
赤い砂煙で視界が悪い中、前方になにかが見えた。豊満な体をしていて人のようにも見える。だが、白い毛皮に覆われていて不自然に耳が長い。
「モンスターか!?」
身構えるハンターだったが、リーダーの男がそれを制した。
「兎の着ぐるみを着ている。俺達を撮影しているようだ」
兎はスマホを持ち上げ、反対側の手でちょいちょいと手招きをする。
「ついてこいと言っているようだ。おそらくは俺達を助けてくれたハンターの仲間だろう」
あたりには人間の残骸が散らばっていた。砂煙で視界が悪いことが幸いだった。血で染まった地面がハンターや市民の目に入ることはなかった。
彼らにとって目の前の兎は希望への道しるべ。ただ前だけを向いて亡霊のように従っていく。
時々強く砂が舞い、ほとんど前が見えなくなることもあった。
ハンターと市民は兎と一定の距離をあけていた。理由はないが、なんとなくそうしないといけない気がしていたからだ。
「リーダー。力の差を見せられてしまいましたね」
1人のハンターがリーダーに声を掛けた。
リーダーはうめき声とも取れる、地響きにも似た声を絞り出した。
「力の差なんてものじゃない。俺らとは違う世界の住人だ。到底、到達することのできない遥かな高みにいる」
兎と距離をあけて歩いていた理由がここにあるのかもしれない。前を歩く兎は自分たちとは別世界の住人なのだと。神とまでは言わないが、立っている場所が違う、一段上にいる存在たち。
だからこそ、隣に並んで歩くことすらおこがましい。後ろに付き従うことこそが自分たちにふさわしい立場なのだ。
――格上に対して立場をわきまえる。
本当ならば、頭を垂れて従うべきだった。見た目で判断せず、実力者に判断を委ねるべきだった。そうすれば被害はもっと少なかったはずだった。
配信画面に映るリーダーの姿はそう物語っていた。
◆ ◆ ◆
生き残ったハンターが5人。市民が7人。
私たちのグループと合流した。
対面してすぐに、リーダーが頭を下げてきた。90度に腰を折り、謝罪の言葉を述べた。
「申し訳なかった。助けていただき、感謝する」
短い言葉で気持ちのすべてが伝わってきた。相手を見下す態度を改め、生き残るために最善の行動を取る。その決意が伝わる。
手には私の大剣を持っている。ここまで持ってきてくれたのがリーダーだった。
リーダーはもりもりさんに向かって頭を下げていた。この中では年長者であるし、私たちの引率者でもあるからだろう。
「ちょっと待ってください。あなたがたの命を救ったのはこちらの春菜さんです。その剣は春菜さんの物なんです」
もりもりさんが慌てて説明すると、男は私に向き直った。
「春菜さん。本当にありがとう。あなたが剣を投げてくれなかったら、ここにいる皆は死んでいた。あなたは命の恩人だ」
私は大剣を受け取りながら、どうしたものかと考えていた。
適当に放り投げたらたまたまモンスターに当たっちゃいました、なんて正直に言えるような状況ではなかった。
しかし、それにしても、たまたま当たるものなのか? そんなことが起こり得る?
私は複雑な気持ちを抱えたまま、剣を受け取った。
「私の剣がお役に立てて何よりです。私のできることは剣を投げることくらいで、大したことはやっていないのですが」
私はリーダーの目をまっすぐに見ることができなかったのだが、向こうはこちらを強く見据えてくる。
「何をおっしゃる。それで我々の命が救われたのです。やはり強者ともなると強さだけでなく、人間性も高められておられるのですね。その謙虚な姿勢には感服いたします」
「いや、ええと……。はあ……」
私は頭を掻きながら、湊ちゃんと春日井君に助けを求めた。だが、視線を向けても2人は笑いながら肩をすくめるだけだった。
「ところで兎の姿をしたお仲間はおられないようですね。途中までついてきたのですが、あなたがたと合流する直前にはぐれてしまいまして」
リーダーはきょろきょろとあたりを見回す。
もりもりさんが問い返した。
「兎の姿をした仲間?」
「あなたがたの仲間なのですよね? スマホで私たちの様子を配信しておられました。白い着ぐるみの御方です」
「あ、ああ……」
ようやく、もりもりさんは理解したようだ。
私たちはすぐにラビちゃんのことだと気がついたが、もりもりさんはわからなかった。私たちはラビちゃんといっしょに戦ってきた。ラビちゃんもパーティメンバーなのだ。もりもりさんにとっては仲間意識が希薄らしい。
「そうですね。そうなんですね。仲間なんですね。なるほど――」
なにかに納得したように、もりもりさんは1人で頷いていた。




