第284話 モンスターを倒す……
向こう側の映像が映っている。ハンターにライブ配信を禁止されていたが、気づかれないように撮影は続けられていた。
『――ぎゃー!!』
デバイスから悲鳴が聞こえ、血しぶきが画面に映った。隠しながらの撮影のため、足元と地面ばかりで、モンスターの姿は一瞬しか見えなかった。
》襲われた!
》モンスターだ!
》誰かが攻撃を受けたぞ
》こ、殺された……
ハンターたちは洞穴の奥にいたため、すぐに対処ができない。そもそも倒す気があるのか。入り口にいる市民を壁にして、自分たちだけ生き延びようとしているのかもしれない。
「私たちも急ぎましょう」
もりもりさんの言葉と同時に、4人でその場を飛び出した。私たちについてきてくれた10人の市民には固まってもらっている。
4人はそれぞれ別方向へと駆けた。打ち合わせも何もなかったが、デバイス上にはモンスターの推定位置が表示されていた。私たちを監視している15体のモンスターたちだ。
地形に関してはラビちゃんの視覚情報から構築したのだと推測できる。だが、モンスターの位置情報までが正確にわかっていた。
私たちはお互いに耳につけたデバイスで会話ができる。
最初に聞こえたのは湊ちゃんの声だった。
「これって絶対ラビちゃん、レベルが上がっているよね?」
私たちはパーティメンバーとして登録している。もりもりさん以外のレベルはお互いに知ることができる。その中にラビちゃんも含まれるが、レベルは1のままだった。
湊ちゃんが言いたいのはそのレベルのことではない。
覚醒レベルのことだ。
「あの暗い虹の壁を通れたんだから、そういうことなんだろう」
春日井君が言ったのはロサンゼルスダンジョンの地下172階でのことだ。
「覚醒スキルが使えるってことは、春日井君。先を越されちゃったね」
「うるせ」
話しながらも、私たちはそれぞれのターゲットに近づいていた。
春日井君と湊ちゃんが会話を続ける。
「赤外線モニターに近いんだと思う。ラビちゃんが持っている覚醒スキルのおかげで正確な場所がわかる」
「この近くにいるんだな、ラビが」
私たちはそれぞれの機器のカメラを通してライブ配信用に映像を提供していた。私たちの戦いは世界中に配信されている。
敵は15体。1人およそ4体のモンスターを倒すことになる。
赤い砂が舞う中、私たちはモンスターに対して奇襲をかける。
》そ、空を飛んだぞ……
映像に映っているのは、地面を階段状に踏みつけるようにして登る春日井君の姿。春日井君が使える魔法はフレイム属性。足の裏から、まるでロケットの噴射のごとく火が噴いていた。
》フレイムバーストの魔法だ
》足の裏から魔法を? それで空へ飛ぶ?
》へー、そんなことができるんだ
》無理。普通は無理。明後日の方向へ飛んでいくだけ。コントロールなんてできない
春日井君は気合の言葉もなしに、静かにモンスターを両断した。刀が残す青い閃光が煌めく。
モンスターは人間の監視のために、低空にいた。もしこれがもっと上空なら、私たちでは届かない。
両断されたモンスターの黒い肢体が落下して地面に落ちる前に、早くも2体目を斬っていた。
湊ちゃんは地面からエンジェル・ボウを構え、一斉掃射。無数のピンク色の矢が扇状になって広がった。
》2体撃破……
》はや……
》闇討ちとはこのこと……
》いやいや、弓の女の子もえぐい。確実に仕留めるためか、大量掃射
》ハリネズミ状態のモンスター
》次々、モンスターが倒されていく……
もりもりさんも負けていない。プランツ属性の魔法を発動させ、渦巻き状のツタを発生させる。それを足場にし、しかもサタンの大鎌が伸びていた。
『武器延長です』
静かに、抑揚のない声で告げながら、もりもりさんは大鎌を振る。
》赤い砂が舞って、その向こうにいたモンスターが串刺し。
》2体を倒したと思ったら、返しの攻撃でまた1体
》往復の1振りでモンスターを3体倒した!?
》待って、待って。いくら相手に気づかれていないからって……
》強すぎない?
》まあ、完全な奇襲だしな
》いや、それにしても……
》この大人の女性だけ、別格な気も……
もりもりさんは3体のモンスターを攻撃しつつ、さらに魔法を放っていた。静かに飛んだ薔薇回転棘は回転しながら飛ぶ円錐状の小さな槍だ。画面には映らなかったが、砂煙の向こうでは1体のモンスターが葬られていた。
私だって負けていない。
ミスリルの大剣を振り上げ、上空に飛ぶ。
……いや。
飛ぼうと思った。
鎧が重たくて飛べない。
50センチくらい離れた足は、すぐに地面についてしまう。
ならば、と放った魔法。
「ミスリル・カッター」
ミスリル製の刃が生み出され、回転しながら空へと飛んでいく。
命中精度が高いはずのこの魔法だが、砂煙で敵を目視できていない。
デバイスに表示された情報だけを頼りに、目算で放つカッターは遥か彼方へ、どこまでも飛んでいく。簡単に言うと、外したのだ。
》なんか、1人だけ変わったのがいる
》まず金髪の大人の女性が4体倒して……
》青い装備の女の子が2番手、弓で4体撃ち抜いた
》青い剣の男の子が続けて、4体を両断
》残りはこの子のとこにいる3体なんだけど……
》何やってんだ? 大丈夫か?
》素人を連れてきた?
》1人だけ規格外?
》いやいや、このゲートのモンスターは別格なんだって。それだけ大変なんだよ
》なかなか倒せないんだ。ダメージを与えることも困難
》そもそも、攻撃が当たっていないから、それ以前の問題
》待て。お前なら当てられるのか? 見えていないんだぞ、砂煙で
》そうそう。俺たちは安全な場所でのほほんと見てるだけ。現場は必死なんだ
》全力だよ。この子も。さっきから「ミスリル・カッター」を何発くり出したことか
》そう、一生懸命にやっている。モンスターに悟られたら奇襲が成立しない。だからこそ、難しい
》あれだけの手数を打ちながら、向こうに気づかれていない。これってある意味すごいこと
》お、その通りだ。この子は相手に気づかれないよう、わざと大きく外している
》なるほど、それはわからなかった
》相手に気づかれないという、高度な作戦なわけね
》ふむふむ。その考えはなかった
》で? どうするの? この先?
「ミスリル・カッター」「ミスリル・カッター」「ミスリル・カッター」
「ミスリル・カッター」「ミスリル・カッター」「ミスリル・カッター」
「ミスリル・カッター」「ミスリル・カッター」「ミスリル・カッター」
「ミスリル・カッター」「ミスリル・カッター」「ミズリル・ガッダー」
「ミズリル・ガッダー……」「ミズリル・ガッダー……」「ミズリル・ガッダー……」
私は半泣きになりながら、魔法を連発する。本来なら「ミスリル・カッター」は正確無比、高い精度で命中する。だが、それは私が視覚で敵を捉えている場合に限る。見えないのだから、自動追尾機能は働かない。自力で当てなければならない。
幸いなことに、15体いたモンスターのうち、私の担当は3体だった。もりもりさんと湊ちゃんと春日井君が4体ずつ。
えっと、4+4+4+3で15。計算間違っていないよね? そんな足し算をしながら、私は「うりゃあー」と小さな掛け声を上げ、ミスリルの大剣を空へ投げた。適当に投げたわけではない。モンスターを串刺しにしてやろうと思ったからだ。
》なぜに武器を捨てる
》何十発も撃った刃が全部はずれたのに、剣だけが命中すると思ったのか?
》仮に倒せたとして、残りの2体はどうする?
》後先考えない行動
》お子様だな
》残ったモンスターは3体
》先にモンスターを仕留めて、手が空いたハンターが3人
》ちょうど3人。なんという偶然
》奇跡だな
》まあ、そういうことになるよな
》残ったモンスターが3体、ハンターが3人
》あ、大鎌で串刺しにされた。1体死亡
》矢でハリネズミ状態。あれは死んだな
》真っ黒い体が真っ二つに一刀両断された。青い閃光だけがきれいに残像として見える。見事
私のミスリルの大剣は大きく弧を描き、離れた場所で落下した。
その間に私が担当するはずだった3体のモンスターは、もりもりさん、湊ちゃん、春日井君が倒していた。
これで私たちを監視していた15体のモンスターはすべて倒された。
3人が私の元へとやってくる。
「お疲れ様。さすがです。春菜さん」
「見直したよ、春菜。やっぱり春菜はすごい」
「ほんと規格外だよな、筑紫は」
なぜだか3人とも、私のことを褒めてきた。
》何いってんの? この人たち
》わけがわからんのだけど
》武器を捨てた女の子がなぜか称賛され
》ハンターの思考は俺ら凡人にはわからないということか?
》お前ら、向こうの映像を見てみろ……




