第283話 忍者の存在
なるべく早く2つのグループを合流させてしまいたい。
私はロサンゼルスでダンジョンシミュレーターをフル稼働させてしまった。おかげで今は使用制限がかかっている。20時間の戦いの中ではまともに機能しないだろう。
今の私たちにできるのは、モンスターを倒せるということの証明。
実力をイタリアのハンター側に見せつけることだ。
湊ちゃんは敵を全滅させるつもりでいるらしい。何か作戦があるのかもしれないけれど、今は目先のことだけを考える。
「もりもりさん。まず敵と接触するべきなのでしょうか? 私たちがモンスターを倒せることを証明するために。でも、いつ向こうが攻撃してくるのか、相手がどこにいるのか、私たちにはまったくわかりませんよね?」
「春菜さん。私たちは敵の監視下に置かれていると考えるのが妥当です。おそらく、この砂煙の向こう、もしくは上空にモンスターが潜んでいます」
私は空を見上げた。
赤い砂で覆われ、空は暗かった。
モンスターの影らしきものは見えない。動画で見たモンスターは人間と変わらない大きさだった。黒い肢体に大きな羽があった。
「おそらく、集団から離脱しようとする者がいたら襲ってくるはずです。向こうもこちらの全滅を狙っているようですから」
「では、どうしましょうか? もりもりさんには何か考えが?」
「私より、南波さんにいい考えがあるようですね。今は南波さんの指示に従ってみましょう」
もりもりさんは湊ちゃんを信頼しているようだった。透き通る目でまっすぐ彼女に視線を送った。
湊ちゃんは顔色一つ変えず、平然と言い放った。
「まず、私たちを監視しているモンスター。15体。これを一気に倒しましょう」
私はその言葉に慌ててしまう。湊ちゃんが具体的な数字を出したからだ。
「ちょ、ちょっと待って。湊はどうして正確な数を知っているの?」
「秘密――」
湊ちゃんはいたずらっぽく笑って、口元に人差し指を立てた。
「なんてね。春菜もわかってるんじゃない?」
私はもちろんわかるはずもなく、春日井君に助けを求める。
「ちょっと、春日井君。どういうこと?」
春日井君は口の端を少し上げていた。笑っているというか、苦笑いに近い表情だった。
「まあ、あれだよな。敵を欺くには味方からって」
「欺くとまでは考えていないけれどね」
湊ちゃんは素直に教えてくれようとしない。
「もう……教えてくれてもいいじゃない……」
代わりに答えてくれたのは春日井君だった。
「俺たちには味方がいるだろ? 敵に察知されない、忍者のような」
忍者? 私がイメージしたのは、真っ黒な忍び装束に身を包んだ目つきの鋭い男性。それはラビちゃんとは正反対のイメージで――。
あまりにも正反対だから、理解するのが少し遅れた。
「そういうことか……」
「私のスマホは春菜のタブレットと接続されているからね。視覚共有のデータをAIで解析し続けていたの。このゲート内はほぼ把握できている。ラビちゃんとAIのおかげでね」
ラビちゃんとはパーティ設定をしたままだ。湊ちゃんはずっとラビちゃんの動きを監視していたわけだ。
「砂煙がスローラビットを隠していたというわけですね。都合よく、いくらでも動けた……」
そう言いながら、もりもりさんは武器を実体化させた。私とダンジョンで手に入れたサタンの大鎌だ。悪魔のような形相のモンスターを狩るには、これ以上ない武器だろう。
「それではみなさん、まずは私たちを監視している奴らを殲滅しましょう」
その言葉に、春日井君が剣を抜く。日本刀をモチーフとした青白く光る武器。JPソード。細い刀身ながら、鋭い切れ味で敵を断つ。
「いつでもいいぜ。心の準備はできている」
湊ちゃんが長弓を手にした。ピンク色に輝くエンジェル・ボウ。
「速攻です。敵の知能が高いのは、おそらくリーダーだけ。他はリーダーの指示待ち状態でしょうから、連絡を取られてしまう前に仕留めます」
ハンターになってもっとも日が浅いのが湊ちゃん。それなのに、この場の誰よりも頼もしかった。ふと、マスター候補という単語が頭をよぎったが、頭を振って思考から追い出す。今はそんなことはどうでもいい。
私はミスリルの大剣を鞘から抜いた。ちょっとした木の幹ほどもありそうな太い刀身だが、すっかり扱いには慣れていた。
軽々と持ち上げ、意気揚々と掲げる。
「私もいつでもいいよ。15体ね。速攻で決めよう。こちらの動きを察知される前に終わらせよう」
その時、イタリアのハンター側でも動きがあった。
洞穴の前に1体のモンスターが現れた。隠れていた場所が見つかってしまったのだ。




