第280話 グループに接触する
ライブ配信をしていた女性がカメラをこちらに向けてきた。
『――みなさん! 別のハンターと合流しました。4人います。子供のようです! 大人の女性が1人います! 少しだけ生き延びる可能性が出てきました!』
》見た目は強そうだけどねぇ。わからん……
》デコ装備?
》既存の装備をデコレーションしているということ?
》僕らでは強さがいまいちわからないね
》イタリアではダンジョン配信が盛んじゃないからな
》日本にまで行かないとダンジョンに潜れない
》イタリア人ハンターは100人前後と言われている
》彼らはどこの国? 派遣されてきたのかな?
配信のコメントはイタリアの人が多いのだろう。私たちのことを知っている様子はなかった。配信者のアカウントがイタリア人のもので、国が異なるためにコメントを書きにくいのだと思われる。
このグループのそばには7人のダンジョンハンターがいた。7人とも屈強な男性ハンターで、少し距離を取っている。
彼らはこちらをちらりと見るだけで、近づいては来ない。
『――お話をしてみたいと思うのですが、どこの国の方でしょう? 東洋の方のようですが』
ライブ配信をしていた女性より先に、別の女性が近寄ってきた。年齢は30歳前後で、小さな子どもの手を引いている。声を掛けてきたのは母親のほうだ。
「あの……。日本のハンターの方ですよね。私はダンジョンハンターには詳しくないのですが、日本語を話されていたので」
私たちの会話が聞こえていたようだ。女性はミラノへ観光に来ていて、アビスゲートの出現に巻き込まれてしまったらしい。
子どもはまだ幼稚園に上がるか上がらないかの年齢だ。子どもがぐずったので、母親は抱きかかえた。
「家族で観光に来ていたんです。私とこの子だけが巻き込まれてしまって。主人とこの子の姉は外にいます。私はどうなってもいいので、この子だけは何とか外に出してあげたいのですが……」
母親はまだ若いが、すっかりやつれてしまい、疲労感がにじみ出ていた。子どもは今にも泣きそうになりながら、母親の胸に顔を埋めていた。
もりもりさんが子どもの頭を優しく撫でた。
「大丈夫です。私たちがきっと外に出してあげます。この子だけでなく、あなたもいっしょに」
「本当にありがとうございます。救助に来てくれて」
子どもを抱えたまま、母親は深く頭を下げた。
「実は、私たちも知らずに入ってしまったのです。日本政府から派遣されたわけではありません」
その声が聞こえていたのか、少し離れたところから「ちっ」と舌打ちが聞こえてきた。イタリア語で何かをしゃべっている。
「救助に来たわけじゃないのかよ。単なる巻き込まれじゃねえか」
男が放った言葉は配信に乗っていたため、自動翻訳されて私たちに聞こえた。
離れたところにいたハンターの中から、リーダーらしき男が私たちに近づいてきた。6人のハンターをその場に残し、やってきたのは1人だけだ。
「おい、お前ら。どこから来た。ハンターならこっちのグループに加われ」
高圧的な命令口調だった。私たちが日本人だと分かっているようで、日本語で話してきた。
「どうして一般市民と行動を共にしないのですか?」
もりもりさんは動揺を見せず、冷静に返した。
「戦うのに邪魔だろう。近くでうろちょろされたら」
「守らないのですか?」
「守る?」
男はふんと鼻を鳴らした。
「お前らは1匹でも倒せたのか? 敵の強さを知らないから言えるんだ。視界が悪いから、やりにくくて仕方ない。あいつら民間人は、勝手についてきているだけだ。それを許しているだけでも感謝してもらいたい」
「守る義務があるでしょう。ダンジョンハンターであれば」
「いったいどこにそんな義務があるんだ? どのみちクエスト達成は絶望的だ。時間切れまで粘るしかない」
やれやれといった様子で、ハンターは手のひらを上に向けてため息をつく。
「実は身を隠せそうな場所を見つけたんだ。やつらを囮にして、モンスターの目を欺く。その隙に俺たちは息を潜めて隠れる。こちら側につけば、生き残れる可能性が上がるぞ。こっちにこい」
「ダンジョン内に安全地帯がないように、この地にも安全な場所なんてないと思います」
もりもりさんは相変わらず淡々と返していた。
「わかった、わかった。なら、お前らとは別行動を取る」
そして男は、26人いる一般市民に向けて声を張り上げた。
「俺たちについて来たい者はこい。お子様ハンターと心中したいやつは勝手にしろ」
そのままハンターは6人の元へと戻っていった。
あちらは男性7人の屈強な戦士だ。一般市民の何人かがぞろぞろとハンターたちについていった。
一方、こちらは女性のもりもりさんと中学生が3人だ。お子様ハンターとは私たち3人のことだろう。
「まずいですね……」
もりもりさんが口元に手を当てて悩むような仕草をすると、母親が抱いていた子どもが手を伸ばしてきた。もりもりさんの腕をペタペタと触る。無垢なその表情に、もりもりさんの目元が緩む。
「仕方ないですね。春菜さん、南波さん、春日井さん。私たちの力を見せつけましょう。それが一番早いです」
周囲には赤い砂が舞い、先が見えない。7人のハンターも、それについていった人たちも視界から消えていた。砂煙の向こうを、もりもりさんは鋭い目で見つめていた。




