第279話 生存者のグループを探す
私たちは配信されているライブ映像を見ながら生存者を探していく。アップロードされた映像をもとに、AIが自動的にマップを生成していた。生成されたマップは3D画像に変換され、誰もが見られるように共有されていた。
アビスゲートの内部は広大だった。現時点でマップ化されたエリアは一部のみだ。生存者がいると予想される方向へ向かっても空振りだった。
デバイスにはライブ配信の映像がずっと流れている。
『――私たちは今、強力なハンターたちのグループについて回っています。そのため、なんとか生き延びられています』
イタリア語は翻訳されて聞こえている。視聴者からのコメントも日本語に翻訳されていた。
》あきらめないで
》なんとか残り20時間を生き抜くんだ
》彼らの近くにいれば大丈夫
》視界が悪いということは、モンスターからも見えない
映像は赤い砂が巻き上がっていて視界が悪い。
砂嵐の中で、時々モンスターが襲ってくるが、すべて上空からだ。黒い体にはコウモリのような羽が生えている。体はやせ細っていて、顔は悪魔のような形相をしていた。
攻撃は単発だった。視界の悪い中、突然舞い降りてきてハンターに攻撃を加える。ランスのような槍でハンターを突こうとするが、ハンターもそれなりのレベルなのだろう。軽くいなされ、モンスターは砂煙の中へと戻っていく。
私たちは走りながらその映像を見ていたが、もりもりさんは怪訝そうな顔をしていた。
「単発攻撃なのが気になりますね」
私はダンジョンタブレットの画面を点灯させる。
「そうですね。クエストの達成条件にモンスターの全滅とあります。残りモンスターは1,480体。これだけの数がいるのに、襲ってくるのが1匹ずつとは……」
私たちのデバイスにはクエストに関する情報が表示されていた。
さきほどから1体も減っていないのは、誰もモンスターを倒せていないからだ。
「ハンターたちはモンスターを倒せていません。追い払うのが精一杯のようです」
「一斉に襲いかかられたらまずいですよね。一般市民も守れないですし」
「それなんですよ。モンスターを倒すことも大変ですが、守らなければならない人が多すぎますね」
「クエスト達成は諦めて、生き延びることだけを考えるのが最善策なのでしょうか?」
「普通ならそうですね」
「普通なら……」
もりもりさんも、含みを持たせたことを言う。まるでタブさんみたいに。
私の考えを読んだように、タブレットからAIの音声が流れた。
『主よ。何を考えている? また馬鹿なことを考えているんじゃないだろうな?』
あいかわらずなタブさんの対応に、私は皮肉っぽく言った。
「確かAIって会話を通してチューニングされていくんだよね?」
『その通りだ』
まったくチューニングされているとは思えない。私専用に改良されていくのだとしたら、もう少し可愛げがあってもいいものだ。
「じゃあ、タブさんに命令。1人の犠牲者も出さずに、クエストを完了するにはどうしたらいい? あの数のモンスターをゲートの外に出したら、ここの何倍も大きな被害が出る」
『主よ。すでにその前提で計算は終えている。だが、1人の犠牲者も出さないというのは無理だ。今もなお、どこかで犠牲者が生まれている。犠牲を最小限にするということで全面的に協力しよう』
私は軽くため息を吐く。
「わかったよ。それで妥協する。で? どうすればいいの? 私たちは」
『モンスターがすぐに人間を殺さないということは、知能があるということだ。視界が悪い中でバラバラに逃げられると都合が悪い。だから、敵は間引きをしながら、人間が集まるのを待っている』
「相手は知能がある存在ってわけね」
『だからこそ、我々の勝利は確定している。知能で勝負して我々に負けはない。心配があるとしたら、不確定要素だ』
「不確定要素?」
『一つは相手側にAIが味方した場合。もう一つは我々の側に愚かな選択をする者がいた場合』
「〝A〟がモンスターをハッキングする場合だよね?」
横を走っていた湊ちゃんが深く頷く。
「それは私が防いでみる。覚醒スキルで――」
湊ちゃんが言うのは、ダンジョン・リバース&リゾルブのことだ。構造を解析し、異変があれば元に戻すことができる。
私はタブさんに聞き直す。
「あと一つ。私たちの側に愚かな選択をする者がいる? それはないと思うけれど……」
『主のパーティの話ではない。大勢の人間がいると、愚かな選択をする者が必ず含まれる。それに足を引っ張られず、確実に切り捨てることだ。大丈夫。そうした冷酷な判断は我に任せろ。AIの仕事だからな』
走りながら、がくっと力が抜けるようだった。
「なんだか、冷酷な方向にチューニングされていない? 私はもっと親しみのあるAIがいいのだけれど。ミリアのター君のように」
『逆だぞ、主。欠けているものをAIが補っているのだ。主は冷酷さを持つことができない。だから、私が補完するのだ』
そう言われ、確かにと頷く。私が望むようにチューニングされるのではなく、私に必要な方向へチューニングされるのだ。
「そういう考え方もあるかもね」
『そういう考え方だ』
やがて私たちは最初のグループと合流することができた。26人の一般市民と、少し離れて別行動をとっている7人のハンターだ。




