第274話 お兄ちゃんからの鉄槌がくだる
問題となる現場まで6人で歩いていく。
横を歩いていた湊ちゃんが、こっそりと話しかけてきた。
「お兄さんの弔い合戦にはならなそうだね……」
声のボリュームを抑え、私だけに聞こえるようにささやいてきた。
私はちょっとだけ、こくんと頭を下げる。
「うん。かたきを討つ相手がいない」
「戦いではなくて調査だもんね。春菜のお兄さん、今ごろ天国で見ているかな?」
「うん。見てるよ。きっと」
「お墓を作ったこと、喜んでいるよ。春菜、元気だしてね」
慰めようとしてくる湊ちゃんに、私は明るく返答した。
「落ち込んでいるように見えた?」
湊ちゃんは私の顔を覗き込んでくる。
「うーん。正直に言うと、そんなには見えないかな?」
「そうなんだよね。私も実感があまりない。猿が死んだところしか見ていないからね」
春日井君は私の肩をぽんと叩く。
「まあ、筑紫は笑顔でいたほうが筑紫らしいよ」
「だよねぇ」
私は春日井君に笑って返した。
お兄ちゃんが死んだのに笑っているのもおかしいけれど、実感がないのだから仕方がない。
「お墓の前で記念写真でも撮っておけばよかったね。湊と春日井君と」
「不謹慎かもしれないけれど、もう戻って来ないだろうからな」
春日井君は軽く頷いていた。
「じゃあさ、ここでもいいかな? みんなで記念に写真でも撮っておこう。どう? 湊、春日井君」
「いいよ」「俺もいいよ」
2人は同時に頷いた。
前を歩いていたエリ先生が振り向いた。
「あ、それじゃあ、私が撮りましょうか?」
私は手を振りながら、その申し出を断る。
「いえ、簡単に撮ってすぐに行きますので。先生たちは先へ行っていてください」
「わかりました。では先に行っていますね」
そう言って、エリ先生、大統領、ミリアは先へ歩いていった。
私と湊ちゃん、春日井君は写真を撮るために横一列に並ぶ。
「じゃあ、いくよー」
私は腕を伸ばしながら、ダンジョンタブレットを前に突き出した。画面には私たち3人が映っている。カメラを起動し、撮影ボタンに指を伸ばした。
「はい、チーズ」
パシャッ。
暗いダンジョンを背景に、私を中心とした千の宮中学の3人が撮影された。
しかし、その背後には男性の人影が見える。
そこに映り込んでいたのは、兄の姿。
亡霊のように、ぬぼっと現れていた。
まさか、幽霊……。
「死んだはずじゃ……」
ブルーメタリックの装備を見ながら、湊ちゃんがか細い声を絞り出した。
「誰が死んだって?」
墓標として立ててきた木片を、お兄ちゃんは持っていた。それをバチコーンと振り下ろす。
――湊ちゃんの頭に向けて。
「いたーい」
湊ちゃんは頭を抱えながらかがみ込んだ。
「おい」
お兄ちゃんは湊ちゃんの頭越しに、叱りつけるように言った。
「春菜! 俺の墓を作って遊んでんじゃねえ!!」
幽霊になる前。
お兄ちゃんが生きていた頃、私はオリハルコン装備を着ていた。今、湊ちゃんが着ているブルーメタリックの装備だ。
幽霊となったお兄ちゃんは、私と湊ちゃんを間違えていた。
「お兄ちゃん!!」
私は幽霊のお兄ちゃんに向かって叫ぶ。
「え? あれ?」
お兄ちゃんは困惑しながら、私と湊ちゃんを交互に見ている。
「それ、湊! 私はこっち!!」
私は自分の顔を指で差した。黄金の神王装備を身に着けた私自身だ。
お兄ちゃんは慌てて頭を下げてくる。
「す、すまん! 春菜と間違えた!」
そこへ、前を歩いていたミリアが走って戻ってきた。
「お姉様! お姉様に危険が迫っているのです! ミリアの鼻が幽霊を感知したのです!」
お兄ちゃんの姿を見て、ピタッと立ち止まる。
「ゆ、幽霊!! 幽霊なのです!」
ミリアはお兄ちゃんに向かって、ビシッと指を突き出す。
お兄ちゃんは呆れたような声を出す。
「お前たち……なあ……」
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!! 幽霊になっても会いに来てくれたんだ!」
「俺は死んでねえ!」
大きな声を出すお兄ちゃんの足元に視線を向ける。
「あ、ほんとだ。足がちゃんとある……」
「当たり前だ」
顔を上げると、眉をひそめたお兄ちゃんの顔がそこにあった。
「生きていたの!?」
「生きている」
「猿にされたんじゃ!?」
「されていない」
「どういう……こと?」
私は戸惑いながら、次の言葉が出ないでいた。
「逆に、こっちが聞きたいさ」
白銀の装備を身に着けたお兄ちゃんは、凛とした姿で立っている。
そんなお兄ちゃんの体を、私はぺたぺたと触った。
「生きていたんだ……」




