第273話 地下172階
護衛のハンター60人をその場に残し、私たちは地下172階へと降りてきた。ここが依頼の目的地だ。
現在のパーティ構成は以下のようになっている。
まず、ドラゴンをモチーフにしたような装備が大統領。グリーンに光る見事な鎧に、腰には大剣をぶら下げている。
エリ先生は地味な青銅装備だ。青みがかった鉄が錆びたような見た目で、武器は携帯していない。おそらく戦闘時に実体化するのだろう。
この2人のレベルは不明だ。情報が開示されていないからだ。
私はお兄ちゃんの神王装備を身に着けている。黄金に光り輝くこの装備は相場で84億円。よくぞまあ、こんな高価なものをお兄ちゃんは貸してくれたものだ。そして私のレベルは76。
クラスメイトの湊ちゃんは青く輝くオリハルコン装備。ブルーメタリックと白のアクセントパーツがかっこいい。レベルは58。
同じくクラスメイトで、席が隣の春日井君。レベルは60で、ミスリル装備を身に着けている。金色が鈍くなり、灰色がかったような色だ。
私を含めた3人が千の宮中学校からやってきている。
ミリアは全身がピンクシルバーに輝くエンジェル装備だ。天使を思わせる可愛らしい羽根がアクセントになっている。レベルは規格外の173。この数字は人間なら桁違いだが、ミリアはモンスターだ。
サキュバス・クイーンと呼ばれるモンスターで、男性を魅了するスキルを使うことができる。しかし、私たち女性に対しては何もできない。特別な攻撃力があるわけではなく、男性を操って配下にしてしまうのがサキュバスだ。戦いは全部男にやらせる、そういう存在なのだ。
この6人に加えて、私が召喚したモンスターのラビちゃんがいる。
ラビちゃんのレベルは1。
そして勝手にこの階層に来てしまい、今は行方不明。
本来であればダンジョン・ポジショニング・システム、通称DPSにより、正確な位置がマップアプリ上に表示される。
だが、この階層ではおかしなことが起こっているようで、ラビちゃんの位置がわからない。
そう――。この地下172階では異常な事態が起こっているようなのだ。
この階層の調査、それが大統領からの依頼だった。
大統領が私たちに話しかけてくる。
「君たちのデバイスでも同様の症状が起こっているはずだ。マップアプリ上で、この階層の一部が虹色に歪んでいることだろう。そして、この領域に立ち入ることができない。入ろうとすると跳ね返される」
湊ちゃんが大統領の言葉を聞きながら頷いていた。会議でちゃんと話を聞いていた湊ちゃんは、私と違って内容を覚えている。
「見えないゴム風船がそこにあるような感じなんですよね? もしくは水風船のような空気の泡のような。ぽよんって跳ね返されてしまうって言ってました」
入れないのはおよそ半分のエリアだ。
残りは通常通りで、本来なら強力なモンスターが存在する。
この階層のモンスターたちはあらかた倒されていた。護衛の60人のハンターで一掃しておいたのだろう。
エリ先生はなごやかな感じで私たちに語りかけてくる。
「そうなのよ。そこを突破する手段がないの。別にこのエリアに入れないからといって、支障があるわけではないのだけれどね。無視をして下の階層に行くこともできる。でも、大統領としては、何かあってから対応するのでは遅すぎる。だから、あなたたちに依頼を出したということなのよ」
春日井君は腕を組みながら渋い顔をする。
「俺たちにどうにかできるのでしょうか? 俺もやっとレベル60になったばかりですし、筑紫だって俺より上だけどレベルは76なわけだし」
春日井君が言いたいことも分かる。現在トップを走るのはワールドランク1位のミランダさんだ。ミランダさんのレベルはそれまで人類未踏であったレベル90に到達している。
今はもりもりさんがこのダンジョンにいる。だからミランダさんがいてもおかしくないし、彼女に依頼を出したほうが解決は早い気もする。
「ははは……」
大統領は乾いた笑いを漏らした。
「レベルの問題ではないのだ。私たちはこの現象の正体を調べる必要がある。マップ上で虹色に変化するこの領域が何を意味するのか。モンスターを退治することが今回の目的ではない。あくまでも依頼内容は調査なのだ」
だからといって、ただの中学生である私たちに依頼する理由は謎でしかない。
ふいに、ミリアが私にしがみついてきた。
「ミリアは嫌な予感がするのです……。ラビちゃんの行方なのです……」
ここにいない唯一のパーティメンバー。スローラビットのラビちゃん。行方不明なのだ。
地下172階に降りてきたところまではデバイスで確認していた。
それが今はどこにも表示されない。
だからといって死んでしまったわけではない。
HPの表示は100%のままだし、死んでしまったらデバイスが通知してくる。
なにより、召喚が自動的に解除されるわけだから、私がまっさきに察知することができるはずだ。




