第272話 大統領と合流
ようやく大統領と合流することができた。本当に長い道のりだった。
大統領たちは大所帯だ。総勢で60人もいる。どのハンターも重厚な装備に身を包んでいて、鎧越しでも屈強な肉体であることが分かる。全員が男性であり、女性は私たちしかいない。
大統領の装備は、モスグリーンに光り輝く鎧だ。随所にはドラゴンの鱗や角を連想させる装飾が施されている。私が召喚できるフレイムドラゴンは赤い色をしているが、こちらはグリーンドラゴン。まさにドラゴンを鎧として着込んでいるような姿だった。
緑系の鎧は初めて見た。私はハンター経験こそ未熟だが、小さい頃からお兄ちゃんの動画を見続けている。その動画の中でも、緑の鎧というのは見たことがなかった。
湊ちゃんが横でうっとりとした顔をしていた。
「大統領、かっこいいね……」
大統領がかっこいいのか、鎧がかっこいいのか。
大統領自身も若々しくて彫りの深い顔立ちをしている。そのまま映画俳優としてデビューしたら、たちまち人気が出ることだろう。
でも、大統領はエリ先生の恋人。
迂闊にかっこいいと言ってしまうのもどうかと思う。
「うん、かっこいい……」
しかし、私も湊ちゃんにつられて言葉が漏れた。
それほどに、カリスマ的で魅力的だということだ。
エリ先生の気分を害さないかと思ったけれど、先生は横で誇らしげな表情を浮かべていた。先生も褒められてまんざらではないようだ。
「アーノルド・ノア大統領、お出迎えありがとうございます。筑紫春菜さん、南波湊さん、春日井隼さん、そしてミリアさんをお連れしました」
エリ先生は他人行儀に大統領へ握手を求めた。恋人だということは秘密のはずだ。大統領もそれを分かっていて対応している。
「ご苦労であった、エリ・スメラギ。大変だったな。予定外の事態が起こったようだ」
この2人が恋人同士だと知っているのは私たち生徒だけだろう。
当然、私たちもそのように振る舞う必要があった。
「お気遣いありがとうございます。それではここからは予定通り、地下172階へ向かわれますね。すぐ行きますか?」
「もちろんだ。ここからは私とパーティを組んでいただく。春菜さんたちもよろしいか?」
大統領は私たちに顔を向けた。パーティを組むことは事前に聞かされている。断る理由はなかった。
ここから先は私たちだけで向かうことになる。60人いる護衛のハンターたちは、この階層に残る。
ダンジョンデバイスを操作して大統領とパーティ設定をしたのだが、デバイスを見ながら怪訝な顔をしているのが気になった。
「私とエリ、君たち4人。そしてもう1人いるな……。これは誰だ? なぜこの場にいない?」
それはラビちゃんのことだった。
レベル1のモンスター。私が召喚したスローラビットだ。
不審そうな顔で私たちを見るが、なんと言って弁解したらよいものか。
「大統領。ラビちゃんは害になることはないと思います。ねえ、春菜さん?」
急に話を振られ、私は少し慌てる。
「え、あ、はい。大丈夫だと思います。むしろ、他のモンスターに攻撃されてあっさり死んでしまわないかが心配です。なにしろ、ラビちゃんはレベル1なので」
「レベル1……」
大統領は私の言葉を繰り返した。
「このスローラビットは本当にレベル1か?」
パーティ設定していてもステータスを開示していなければレベルは不明だ。だが、ラビちゃんの場合はステータスが開示されている。そこにある表示は間違いなく「レベル1」だった。
ただし、私の覚醒レベルのような裏ステータスが開示されることはない。また、非開示に設定すると、どのステータスも見ることはできない。
実際にエリ先生も大統領も非開示だ。
大統領のレベルも分からない。
「ラビちゃんはレベル1ですよ……。間違いなく……」
私はそう答えたのだが、大統領は軽く首を振る。
「まあ、そういうことにしておこうか。ふふ……。春菜さんに依頼をして正解だった」
大統領は含みをもたせたような言い方をして笑った。
「とりあえず地下172階へ。さあ、行こう。私についてきてくれ」
そう言って、大統領は大股で力強く歩き出す。緑に光り輝く鎧は頼もしい。まるで王者のようなオーラを纏っているようだった。




