第271話 ラビちゃんはどこに?
「ところで、ラビちゃんはどうされました?」
エリ先生が私に聞いてくる。
「地下169階に置いてきました」
「そうですか。大丈夫でしょうか? ほかのモンスターに襲われたりしませんか?」
「たぶん大丈夫だと思います。あの子、抜け目のないところがありますし、意外と機動力がありますから。パーティ設定にしてありますから、タブレットで位置もわかりますし……」
そう言いながらダンジョンタブレットでラビちゃんの位置情報を検索していると……。
「ふぇぁっ!?」
自分でも驚くほどの変な声が出た。
「どうしましたか?」
エリ先生が私のタブレットを覗き込んでくる。私は検索結果をエリ先生に見せた。
「ラビちゃん、地下172階にいます……」
私は額を手で押さえた。
地下172階は、当初の目的地としていた場所だ。ここは171階だから、ラビちゃんは下の階層にいることになる。
「なんと……」
エリ先生は言葉が出ないようだった。タブレットを持ったまま、私は頭を抱えてしまった。
「うわあ、ほんと、大丈夫かな? ラビちゃん。心配になってきた。子どもじゃないんだからさ。動きすぎでしょ……。じっとしていられないの!?」
横にいる湊ちゃんは苦笑し、春日井君も困ったような顔をしていた。
「まあ、行ってしまったのは仕方ありません。私たちはまず大統領と合流しましょう」
「そうですね……」
私に抱きついていたミリアが顔を上げた。
「そうなのです、お姉様。大統領と合流なのです」
ミリアの装備はピンク色のエンジェル装備だ。
女子の私から見ても、華やかで可愛らしい。おまけにキュートで幼い顔立ちだから、どうしてもミリアには甘くなってしまう。お姉様と慕ってくれているからなおさらだ。
抱きつかれても引き剥がさなかったのはそのためだ。
「お姉様、お姉様。お姉様の考えていることを当てましょうか?」
「ん?」
「ずばり! ミリアのエンジェル装備がうらやましいと思っていますね! お姉様は湊と装備を交換しました。なら、次はミリアと交換なのです! 湊が羨ましいのです。……はあはあ……。お姉様……お姉様の……じゅるっ」
ミリアはよだれを垂らしかけ、慌てて拭っていた。
「逆に、ミリアの考えを当ててみようか?」
私がいたずらっぽく言うと、ミリアはちょっと目を大きくする。
「な……、ぬぁ、そんなの、お姉様でも無理なのです。ダンジョンにはそんなスキルは存在しないのです」
「私の匂いがついた装備が目的だね!」
「ぬ、ぬぁ!?」
「なんて……ね」
冗談で私は言ったのだが、ミリアは心の底から驚愕しているようだった。
「お、お姉様は……。そんな能力もおありなのですか……!?」
どうやら、当たってしまったようだ。
「ミリアは思ったのです。お姉様の匂いとぬくもりに包まれ、はぐはぐ、くんくんすることができ、ずっとお姉様といっしょにいる気分でいられる。それはまさに天国でしかないのです。この上ない至福の極みなのです。せめて、ブーツだけでもいいのです。お姉様……。交換を……」
「やだよ。逆に、ブーツだけピンクって恥ずかしいよ」
「なら、全身を交換……」
「お兄ちゃんの装備だから無理だよ」
「では、お姉様の兄様に許可を……」
ミリアに言われ、私の脳裏には殺された猿の姿がよぎった。
「ごめん、お兄ちゃんは死んじゃったんだ」
私は困った顔でミリアに返す。
話を聞いていたエリ先生が驚いた様子を見せた。
「そうなのですか、それは……」
言葉が出ないエリ先生だったが、ミリアは私の鎧に鼻をつけて匂いを嗅いでいた。
「くんくん。確かに、お姉様とは別の男の匂いが。これが兄様の匂いなのですね。でも、兄様は死んでしまった……」
そして、ミリアは顔を上げ、別の方向へと鼻を向けた。
「くんくん……。ミリアは幽霊の匂いも嗅げるようになってしまったのです。兄様があちらに……」
そんなことがあるわけがない。幽霊に匂いがあるとは聞いたことがなかった。きっと、幽霊の痕跡のようなものをミリアは感じ取っているのだろう。
ミリアの反応とは逆へ行けば、お兄ちゃんの幽霊とばったり遭遇することはない。
私はミリアの腕を取って、ミリアの鼻の方向とは逆方向へ歩き出した。
「先生、大統領と合流しましょう」
「そうですね。お兄さんのことは大変残念ですが、ダンジョンから帰還したあとで手を合わせてあげましょう」
「はい」
やがて、大統領の側でも私たちを探していたこともあって、無事に合流することができた。




