第264話 伸びてくるツタ
春日井君は次々にMP回復ポーションを飲ませてくる。小瓶に入ったポーションは青い液体だ。私は両手が塞がっているので、哺乳瓶のように咥えることになる。
「まるで赤ちゃんにミルクをやっているみたいだ」
「湊と代わってよ……」
飲みながら喋ったので、青い液体が口からこぼれた。
「南波は忙しいんだよ。リゾルブ処理とやらも、魔法と一緒で集中力がいるんだろう」
「わたしだって、ぼほっ、集中力が、べほぉっ、いるんだよっっ」
「飲みながら喋るな」
私が飛ばした雫が春日井君の頬にかかる。それでも嫌な顔もせず、次のポーションを実体化させていた。
「俺のは残り30本。念のため、買っておいてよかったよ」
「これって、低級ポーションでしょ? 回復量が少ないからがぶ飲みしないといけない」
「文句言うなって」
「私のポーションを使ってよ。そうすれば、もっと飲む回数が減る」
「両手が塞がってるじゃねえかよ」
「春日井君にちょっとだけ我慢してもらえば……」
「やだよ。俺のポーションがなくなるまではこれを飲めよ」
「別に死ぬわけじゃないんだし」
「いや、死ぬし」
「さっきの苦しかった?」
「今だって苦しいままだ。首を絞められた状態なんだから。見えない手で首を絞められているのを想像してみろ。そんな感じだ」
「見えない手、ねえ……」
私は湊ちゃんのスマホを覗き込む。リゾルブは残り1分を切っていた。これでボスを倒す糸口や呪いを解除するきっかけが掴めるといいのだが。
「とりあえず、私のMPは少し余裕ができた。しばらくは保つよ。あとは湊の……」
その時だった。
中央の大木から何かが飛んできた。
私はとっさに魔法を発動させる。
「――金属身体!」
金属身体は体の一部を金属化することができる。自分の両手を鋼鉄に変え、強い磁力を帯びさせる。
湊ちゃんの神王の鎧、春日井君のミスリルの鎧にも磁力を発生させ、そのまま3人で後方へと飛んだ。
「攻撃か!?」
春日井君が叫びながら、周囲を見回す。
私の両手は2人の胸にぴたりと張り付いている。ちょっとやそっとでは外れないはずだ。
「とりあえず、湊はリゾルブ作業を続けて。私と春日井君で……」
私の言葉を待たず、春日井君は私と湊ちゃんをいっしょに抱きかかえて走り出した。
「筑紫は何もできねえだろうが。そのまま酸素供給を続けてくれ。とにかくこの場を離れるんだ」
腰に強い力がかかる。
「変なとこ触らないでね!」
私の訴えに、春日井君は一言だけ返してくる。
「知るか!」
その直後、湊ちゃんが黄色い声を上げた。
「今、お尻触った!?」
「触ってねえ!!」
耳をつんざくほどの大きな声で春日井君は否定した。
飛んできたのはツタだった。ツタがムチのように何本も飛んできて襲ってきたのだ。そのツタが湊ちゃんのお尻を直撃していた。
「湊のお尻を叩いたのはイビル・プラントだよ!」
「エッチ!」
おそらくイビル・プラントは湊ちゃんのリゾルブを邪魔しようとしているのだろう。
私たちを襲うために次々とツタが飛んでくる。春日井君は一生懸命に走っているが、2人を抱える状態だ。どうしても遅くなる。
ツタが湊ちゃんの左足首に巻き付いた。
「あ! 足に!」
「ブーツを捨てて!」
湊ちゃんはブーツを脱ぐのをためらったが、私は蹴り上げて脱がせた。
神王のブーツはツタが巻き取って持っていってしまった。
「春菜のお兄さんから借りているのに……!」
「あとで、取り返せばいいって! 今はリゾルブの完了が優先!」
「ごめん、残り90秒。今ので30秒ロスした!」
「仕方ないよ。とにかく、今は逃げよう!」
視界が一瞬真っ暗になり、直後、判断ミスだと悟った。
違う……。そうじゃない…………。
「春日井君、止まって!! 緊急停止!!」
私の叫びに、春日井君は即座に従った。
「どうした!?」
私は顔から血の気が引く思いで声を絞り出した。
「2人の首が落ちるビジョンが見えた……。ダンジョンシミュレータでは記憶が残らないはずなのに……」
2人は呪いで首を絞められた状態だが、私は手で絞めらている姿を想像していた。
だが、そうではなかった。
それは金属の首輪のようなものかもしれない。
首輪をした状態で強い力が加わったらどうなるのか? ギロチンのように首が切断される。
湊ちゃんが神王装備の空間収縮を使ったら、大惨事になっていただろう。
逃げてはだめなのだ。
ボスに立ち向かわなくてはならない……。
「ごめん、本当に。2人を巻き込んだことを深く後悔してる」
「もう、それはいい。倒すしか道はないんだ」
「そうだよ、春菜。気持ちだけは落とさないでいこう」
ボスはわざと私たちが逃げるように仕組んだ。それは2人の首を落とすためだ。
一手を間違えるだけで窮地に陥るとタブさんは言った。窮地どころではない。2人を永遠に失ってしまうところだった。
今なお、私は両手が塞がったままだ。
この状況であっても、私たちはボスを倒さなければならなかった。




