第263話 ボスの解析
どういうわけか、ボスの討伐確率は上がっていた。しかし、それでも5%前後だ。
私は2人の正面に立って、それぞれの胸の上に手を置いている。魔法陣は常に点滅していた。
「とりあえず、ほら。これを飲め。俺が飲ませてやるから」
春日井君は自分のデバイスを操作し、MP回復ポーションを実体化させた。そのまま私に飲ませようとしてくる。両手が塞がっている私は口を開け、それを受け入れた。
「それにしても、ピンポイントで肺胞を狙って召喚してるのか? これはAIによる補助があるのか?」
「だと思う。自分では絶対に無理だから」
私が使っているダンジョンタブレットはデバイスリンク・テクノロジーズ社の特注品だ。まだ市場には出ていない高性能のAIを搭載している。召喚に関してはAIが、スライムの大きさから形、出現位置までを完全にサポートしていた。
私は湊ちゃんの方へと顔を向ける。
「それで、湊。なにか分かったことは? ダンジョン・リバースってどんなスキル? ボスの情報が得られたの?」
私は早口でまくし立てたが、湊ちゃんは少し顔を赤らめてうつむき加減になっていた。
「あのさ……。なんだか、春菜にずっと胸に手を当てられていて……。恥ずかしいんだけど……。動かさないでよ、その手……」
湊ちゃんに言われ、私は自分の手を見る。私の手は湊ちゃんの胸に押し当てられている。こうしないと肺の中にスライムを転送することができないからだ。
「別に、おっぱいを触っているわけじゃないから大丈夫でしょ?」
「いや、思いっきり触っていない?」
「動かさなければセーフ」
そもそも鎧越しなのだ。押さない限り、感触は湊ちゃんに伝わらないはずだ。
まあ、召喚の関係上、少し鎧に押し当ててはいるのだが……。
「そういう問題?」
「先端の突起物に当たっていなければセーフ」
「じゃあ、セーフ……」
恥ずかしそうに言いながら、湊ちゃんはまだなお俯いていた。
「それで、わかったことは? 何か情報はない?」
「ええとね。ダンジョン・リバースって逆解析をするみたいなんだよね。ソフトウェアの完成品を解析してプログラム構造を解析することをリバース・エンジニアリングって言うんだけど、わかりやすく言うと、ボスがプログラムで作られているとして、そのソースコードを類推するの」
「うん、なるほど。1行で言うと?」
「わかってないでしょ、春菜? ボスの解析だよ。解析できるのはボスに限らないみたいだけどね」
「ちょっと待って。それって、驚異的な能力じゃない? これから向かう地下172階の謎現象も解析できるんじゃ……?」
「その前に、ここのボスをなんとかしないと」
「それで、何がわかったの?」
「元々ここのボスは通常のモンスターだったの。木のお化け。それを〝A〟が改造して、木の本体と木に宿っていた精霊を分離したみたい。肉体と魂を分離するような感じかな?」
「以前、〝A〟はモンスターを合成したキメラを生み出して襲ってきた。今回はもっと厄介だね」
「そう、厄介なの。本体と精霊を分離したことで倒すことが困難になったの。生きている存在は肉体を滅ぼせば死ぬんだけど、魂を分離しちゃうと死という概念がなくなっちゃう。精霊を攻撃できないのが問題なの」
「攻撃方法は? 何かないの?」
「リバースのスキルは逆解析だけだから分からない。でも、リゾルブの方で解決方法がないかと思ってる」
「リゾルブはどんなスキルなの?」
「それはまだわからないの……。今は処理の完了を待っているところ」
湊ちゃんは困惑したような顔をしていた。会話に集中していたため、私が胸に手を当て続けていることからは意識が離れているようだった。




