第261話 発動した呪い
召喚モンスターに伐採を命じ、中央の大木を弱らせていく。
その間に、私たちはボスについての情報収集をしていった。
「筑紫のダンジョンシミュレーターでは、何が起こったのかの結果まではわからないんだろう?」
春日井君が聞いてくる。
「うん。上手くいったか、失敗したかだけがわかると思ってくれたらいい」
「じゃあ、例えば、南波の弓で木に攻撃をしたらどうなるかとか、どこまで近づいたら猿にされてしまうかとか、詳しいことはわからないよな?」
「そうだね」
「仮に失敗するにしても、どういった結果になるのかは知りたいな。俺たちに被害が及ばない範囲で調べることはできるんじゃないのか?」
湊ちゃんが春日井君の横に来た。
「じゃあ、まず私のエンジェル・ボウで矢を打ち込んでみようか?」
「いやいや、待て。とにかく安全なことから試すべきだ」
春日井君が湊ちゃんを手で制し、私は考え込んだ。
「安全なことか。そうだね、安全なことから試してみよう」
私は考えてみる。直接私たちが行動するよりも、召喚モンスターにやらせてみる方がいい。
「春日井君は召喚を1体残しておけって言ったよね。モンスターにやらせてみよう」
「そうだな。試してみよう」
「スケルトン・アーチャーに弓を射ってもらったり、近づけて猿になるかどうかを調べよう。モンスターは猿になるのかどうか。ただし、猿になったモンスターを召喚解除できなくなったら厄介だけど……」
「そういうやり直しがきかないことこそ、筑紫のダンジョンシミュレーターの出番だ。あまりフル稼働させすぎるな。効率よく使っていこう」
「そうだね」
まずは、召喚解除ができるかどうかを確認する。これは問題ないようだった。そして、大丈夫だと分かれば、次々にモンスターを召喚して近づけていった。
実験の結果、中央の木に近づくとモンスターは猿になってしまう。召喚を解除すると猿は消える。猿からモンスターに戻す方法はわからなかった。
モンスターのレベルが低い場合は、木から離れていても猿になってしまう。レベルが高いほど木に近づけた。モンスターによって抵抗力が違うからだろう。しかし、木の幹まで到達できるモンスターはいなかった。
私が召喚できて命令通りに動いてくれるモンスターのなかで、もっともレベルが高いのはキメラだった。レベルはミリアの173を超える179にもなる。このモンスターは〝A〟による合成で作られたモンスターだ。
キメラであっても幹までは到達できなかった。ぎりぎりあと数センチで猿にされてしまった。
「いろいろわかってきたな。近づくと、モンスターであれ、何であれ、猿にされてしまう。どこで猿になるかはレベルによる。10mくらいまではぎりぎり安全圏か?」
「次は魔法や飛び道具による遠隔攻撃だね。相手がどう出てくるか?」
ここに来て、タブレットから警告する音声が流れた。
『主よ。ダンジョンシミュレーターはフル稼働させておくのだ。討伐確率は0.006%と変わっていない。敗北は確定的だ。このままでは大切な友を失い、主は命を落とす』
タブさんはそう言うが、簡単なことではない。
「タブさん。そうだけど、フル稼働は本当にきつい。春日井君の言う通り、効率を考えて使おうかと」
「俺もそれがいいと思う。筑紫の顔色が非常に悪い。今にも倒れそうだ。さっきからふらついている」
「ありがとう。でも、お兄ちゃんを助けなきゃ。なんとか踏ん張る」
それでもAIの判断は変わらなかった。
『主よ。気力でなんとかできるものでもない。そもそも勝てる相手ではなかったのだ。主は一手を間違えるだけで窮地に陥る。シミュレーターのフル稼働でも足りないほどなのだ』
「わかった。わかったよ、タブさん。でも、考えるだけでも疲れてて……。もう、朦朧としているんだよ……」
足取りはふらふらだった。
私はゴブリンメイジやスケルトンアーチャーを召喚して、攻撃を命じる。
結果としては何も起こらなかった。
それを受けて、春日井君と湊ちゃんも攻撃を試みた。
「俺のファイアーボールも、南波の弓も受けつけないようだな」
「デバイスで確認ができないから、ボスにダメージがあったかもわからないね」
「おそらくはダメージはないんだろうな」
春日井君の魔法攻撃も、湊ちゃんの弓による攻撃も、何も起こらなかった。
だが、シミュレーターで先の先まで読んでおくべきだった。
私は直後の結果しか見ていなかった。
「私のミスリルカッターも意味ないよね。一応、攻撃してみようと思うけれど……」
そう言いながら、私は魔法を発動させる。すでに限界を超えて活動していた私は魔法の発動に失敗する。出現しかけた金属の刃は、光の粒子とともに掻き消えた。
「だめだ、ごめん。集中力が保てない。頭がふらふらして、今にも倒れそう。ダンジョンシミュレーターを使いすぎたみたい」
そう話しかけながら、2人を見た。
2人はともに膝から地面に落ち、苦しそうに喉を押さえていた。呼吸ができないようで、声も出せずにいる。顔は真っ青になり、目を大きく見開いていた。
タブさんが冷静に告げてくる。
『緊急事態だ。ボスからの反撃として、呪いが発動した。呼吸困難に陥っている。今すぐ地上へ戻る必要がある。そうすれば自動的に呪いは解かれる』
「今すぐって! どうやって!?」
私は大きな声を出す。
『時間がない。すぐに窒息死してしまう。長瀞ダンジョンを召喚し、ダンジョンに放り込むのだ。すぐさま召喚を解除すれば、2人は長瀞へと転送される』
「わかった!」
私が召喚を実行しようとした時、湊ちゃんの手が伸びてきた。
「……ぐ、が……」
声を出せないでいるが、召喚を止めようとしているのは確かだった。
湊ちゃんは自分のスマホを手にしている。
そのスマホの画面を指さしながら、私に見せてきた。
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ダンジョンのリバースエンジニアリングに成功。
ダンジョンを逆解析しました。
現在、地下170階のボス『イビル・プラント』は〝A〟によりハッキングされています。
『イビル・プラント』の能力は改変されています。
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春日井君はすでに地面に転がり、泡を吹いていた。意識を失っている可能性もあった。
「すぐに、すぐに2人とも長瀞に飛ばすから!!」
叫ぶ私に、湊ちゃんは私が持つタブレットを叩き落とした。
湊ちゃんは首を振る。
スマホを向け、メモアプリに書かれたメモを見せてきた。
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私たちがいなければ勝てない!
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これは今入力したものではない。あらかじめ湊ちゃんが用意していた文章だ。
湊ちゃんのスマホに新しいメッセージウィンドウが表示された。
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メッセージ:
続けて、ダンジョン・リゾルブを実行。
ダンジョン・リゾルブ実行中。
進行度:0%
リゾルブ完了まで残り329秒……
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329秒。
そんな長い時間、待っていることはできない。
湊ちゃんには痙攣が始まっていた。両手で喉を押さえ、苦しそうに舌を出していた。大きく開けた目からは精気が消えかけていた。




