第260話 ボスの観察とモンスターの召喚
私たちは歩きながらボスの気配を探っていく。ダンジョンシミュレーターにより、まだこの場所は安全であることがわかる。それでも油断せず、なるべく気づかれないように行動していく。
「私は今、ダンジョンシミュレーターをフル稼働している。少しでも確率の高い方、高い方へと行動していこう」
湊ちゃんは私に合わせて声を潜める。
「春菜。私も覚醒レベルが上がったんだよ。しかも、ユニークスキルまで獲得した」
「どんなスキル?」
「スキル名はダンジョン・リバース&リゾルブ。でも、スキルの効果はまだよくわからない。使ってみないとわからないみたい」
横では、春日井君が悔しそうに口を開いた。
「俺はユニークスキルが手に入らなかったんだよな」
私は横目で春日井君を見る。
「たぶん、覚醒レベルが3にならないとスキルが与えられないのかも」
「そうか。仕方ないな」
「でも、私が覚醒レベル2だったとき、ダンジョンシミュレーターの元になる能力が使えていたような気がする。だから、春日井君もこれから獲得するユニークスキルに関係した能力が使えるかもしれない」
「それは自分で意識して使えるのか?」
「私の場合は無意識で使っていた。パッシブスキルのようなものかも?」
私の説明をタブさんが補ってくれる。
『覚醒レベルについて補足しておこう。各人はそれぞれ異なる覚醒形態を取ることになる。主は予測系。南波湊は解析系。春日井隼人についてはまだ不明だ。将来得るであろうスキルに従って、なんらかの能力が身についているはずだ』
「それは良かった……のかな?」
『どうであろうな。良いとも悪いとも言えない。いずれにせよ、使えるかもしれないし、使えないかもしれない。意識して使うためには覚醒レベルをさらに上げるしかないだろう』
「なるほど、そうか。レベルを上げるしかないか」
湊ちゃんがタブさんに聞いた。
「私のスキルだけど、解析に関係しているんだよね? どんな能力なんだろう?」
『残念ながら、我にはわからぬ。実際に使ってみることだ』
「使ってみろと言われても……。困っちゃうな」
湊ちゃんはスキルを発動させたようだが、何が起こっているのか、あるいは何が起こったのかわからないでいた。私のダンジョンシミュレーターと同じで、自分の記憶としては残らないのかもしれない。
「何か感覚は残っていないの?」
私が訊ねると、湊ちゃんは首を振る。
「何も……。でも、覚醒と呼ばれるくらいだからね。何かができるんだろうね」
「使いながら探っていくしかないか」
「そうだね」
私たちは中央にある大木のおよそ100mまで近づいてきた。これ以上の接近は私の脳が警告を出してくる。
「はっきりと断言できるわけじゃないけれど、ボスは目視で私たちを判断しているわけではないみたい。ボスに対してデバイス解析を行おうとすると、おそらく攻撃を受ける。相手の情報を得られないまま戦うしかない」
春日井君は目を凝らして大木を見ていた。
「情報を得られないというのは、デバイスを使ってということだろう? 俺たちが直接情報を得るんだ」
大木を指さしたのは湊ちゃんだ。
「ねえ、見て。あの木。少しずつだけど、細くなっていっているよね? エリ先生とミリアちゃんが弱らせているんじゃないのかな?」
「そうだね。おそらくは木の根のどこかに下へ降りる階段があるはず。ボスが弱れば近づけるようになるみたいだけれど、私たちの目的はあくまでもボスの討伐。ボスの情報と倒す手段を見つけないと」
「まずはボスの目視なんだろうけれど……」
私たちから見える範囲にはジャングルの木しかない。中央の大木がボスの本体であるとも思えない。
「見えない存在、ということも考えられないか?」
春日井君の言葉に、湊ちゃんは怖がるような声で反応した。
「幽霊……?」
「実は告白すると、俺も昔からお化けだけは苦手でさ」
私はお化けも幽霊も苦手ではないのだが、さっきから顔に血が通っていない感覚があった。貧血に近い感覚かもしれない。
湊ちゃんが心配そうに私に声をかける。
「ねえ、春菜? 大丈夫? さっきから顔色が悪いけど」
「うん。脂汗をかいている。スキルをフル稼働しているからね。でも、どんな攻撃をしても通用しない気がする。考えられる手段をいろいろ試しているんだけど、どれも悪い結果ばかり」
「こちらの攻撃が通じないのかな?」
「たぶん、そうだと思う」
「ねえ、春菜のどこでもドアみたいなやつがあったよね? 亜空間に吸い込むドア……」
「ああ、偽装扉のことだよね。これも手当たり次第使ってみたけれど、いい結果が出ない。吸い込むことはできないみたい」
「じゃあ、やっぱりボスは物理的な存在じゃないのかな。死霊や幽霊や精霊の可能性があるかも? 物理攻撃が通用しない相手」
「物理攻撃も、亜空間に飛ばすのも、無理そう」
「春菜はいままで倒したモンスターを召喚できるんだよね? どれくらい試したの?」
「ほとんど試してみた。考えられる限りは。フレイムドラゴンで階層ごと破壊しようともしてみた。思いつく手段はだいたい尽くしたのだけど」
「あとは戦闘機で攻撃するとか……。なんてね……。無理か……」
「戦闘機?」
「ロシアの戦闘機。あれは春菜が倒したことになるのかな? もしかして召喚できたりして」
「シミュレーション内で実行してみることは可能だけど。召喚してミサイルを打ち込むということ?」
「そう」
「たぶん、召喚はできる。でも、ミサイルも無効だという結果が出た」
「じゃあ、もう、物理攻撃は諦めて、それ以外の手段を考えるしかないね」
「敵の正体さえ知ることができたら……」
「私のダンジョン・リバース……。リゾルブ……。いったい何なんだろう? 何ができるんだろう?」
「それと、あとは春日井君の能力に期待か……」
私が春日井君の方へ顔を向けると、残念そうな顔で首を振る。
「今のところは何も変化がないように思う」
「そっか。何か感じるところがあったら教えて」
「わかった」
私たちは大木を観察するために、大きく円を描きながら歩いていく。ボスに気づかれないようになるべく音を消そうとするが、どうしても限界がある。さすがに察知されているはずだった。なのに、攻撃してくるような反応はなかった。
「敵の正体が何もわからないというのが厄介だな。エリ先生はおそらく外周から木を切って弱らせているんじゃないのかな? 俺たちもいったん離れて木を伐採していくか?」
「私は早く倒したい。弱らせることができても、倒す手段がわからないなら意味がない気がする」
「じゃあ、筑紫が召喚モンスターに伐採をさせながら、同時に俺たちはここでボスを探るのはどうだ?」
それはいい考えだと思った。
「春日井君、冴えてるね。その作戦でいこう」
「筑紫はあと3体召喚できるんだよな? 2体を召喚しよう。1体は万が一に対応できるように残しておこう」
「ラビちゃんの召喚解除はしないということだね?」
私が召喚できるモンスターは全部で4体。ラビちゃんを召喚しているから、残り3体だ。
「ラビは解除できないだろう? 筑紫の気持ち的に」
「まあね」
最初に選んだのは骨の戦士だ。私のダンジョンにいるモンスターだから、忠実に従ってくれると思った。
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ジェネラル・オブ・スケルトンファイター
LV 110
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地面の魔法陣からスケルトンが現れた。
骨の手には錆びた剣を持ち、肩当てやヘルメットで部分的に身を守っている。しかし、大半はむき出しの骨となっていた。
2体目の召喚に迷っていたら、春日井君が何かを思い出したように、その名前を口にした。
「あと1体は、あのモンスターはどうだ? エンシェント・ヴァンパイア」
私がかつて戦った吸血鬼。特殊能力として、噛みついた者のレベルを下げてしまうという恐ろしい能力の持ち主だ。覚醒レベルですら下げる能力を持つ。
「あの、覗き魔か……」
私ともりもりさんがシャワーを浴びようとしていたところを覗こうとしてきた奴だ。
もっとも、ダンジョンでシャワーを浴びるなんて誰も思わないだろうから、故意の犯行ではない。しかし、故意であるかどうかは関係ない。
「私に首を落とされたことを恨んでいなければいいけれど……」
魔法陣からヴァンパイアが現れた。
召喚されたヴァンパイアは膝をついて頭を垂れている。
「御主人様、召喚していただき恐悦至極にございます。我が全霊をもって、御主人様のために働かせていただきます」
仰々しい言葉で、私に語りかけてくる。
「ねえ、ヴァンパイア? 私に倒された時のことは覚えている?」
「いいえ、わたくしは御主人様に倒されたエンシェント・ヴァンパイアとは別個体となります。わたくしは、新しく生み出された存在です。記憶も引き継がれておりません」
なるほど、そうなのか。じゃあ、召喚を解除してしまったら別個体として生まれることになるのだろう。
私はラビちゃんのことを思い出す。すでに愛着が生まれており、ますます召喚解除できなくなってしまった。
それにしてもエンシェント・ヴァンパイアはとんでもなくレベルが高いようだ。MPが吸われていく感覚がある。
「ではヴァンパイアに命令。ジェネラル・オブ・スケルトンファイターとともに、この階層の外側から木を伐採しなさい」
「かしこまりました。御主人様」
ヴァンパイアは立ち上がり、骨の戦士とともにこの場から離れた。ものすごい速さで見えなくなった。




