第253話 猿の捕獲に向かう
作戦の詳細を詰める前に、ミリアは階段を降りようとしていた。手を振りながら、階段へ足を踏み出す。
「では、行ってくるのです」
私は慌ててミリアを引き止めた。
「待って、待って。ミリア」
ミリアの腕を掴んでなんとか制止する。
「1人で行く気? 無茶だよ」
「ミリアはエリ先生と2人で行くのです。エリ先生も行く気なのです。お姉様は待っていてください」
エリ先生を見ると、大丈夫といった様子で親指を立てている。自信がありそうな顔だ。「私に任せて」という意味のようだが、ラビちゃんにも負ける先生だ。任せるには不安がある。
先生とではなく、私とミリアの2人で降りるのがいいのではないかと思った。
私はミリアの耳にイヤホン型のカメラを着けた。
「とりあえず、耳に装着するカメラがあるから、これを着けて。イヤホンから声も聞こえるから、指示に従ってね」
「わかったのです、お姉様」
「私も同じものを着けて下に行くから。エリ先生には上で待機してもらって、指示役になってもらおう。私とミリアの2人で行こう」
ところが、エリ先生にこの提案を拒否された。
「それは駄目です、春菜さん。みなさんの中で一番レベルが高いとはいえ、春菜さんのレベルはたったの76しかないのです。私がミリアさんといっしょに行きますから。大丈夫、信頼してください」
エリ先生はすましていて、落ち着いた表情をしていた。
76はけっして低いレベルではない。それを「たったの」と言ってしまうエリ先生のレベルはいかほどのものか。あるいは、大統領たちとの比較なのだろうか。
「私はエリ先生よりは戦えると思うのですが……」
エリ先生は腕を組み、手を顎に当てて悩むように考え込んでいた。
「私自身のことについては、大統領命令で詳しいことを伝えられないんです。何も聞かずに、信用してくれとしか言えないのですが……」
「先生は大丈夫だという確信があるのですか?」
「もちろんです。私は生徒であるあなたがたを守らなければなりませんし、私には対応できる能力があります」
湊ちゃんと春日井君が近寄ってきた。
「先生、私は先生のことが心配です。みんなで行くのではだめですか?」
「南波さん。かなり危険なんです。私なら、まったく平気なので待っていてください」
春日井君も不安そうな顔だ。
「俺も心配だ。先生が戦えるようには思えないし、俺も行くよ。この中では唯一の男なんだし」
「春日井さん。お気持ちはありがたく思います。ですが、本当にあなたがたにとっては危険な場所なんです」
「それは、先生にとっては危険ではないということですか? 俺たちじゃ無理だけど?」
「心配してくれる気持ちは嬉しいです。ですが、ここは命がかかっている場面です。あなたたち生徒の3人はここに残っていてください」
エリ先生は私と湊ちゃん、春日井君を順番に見回した。「きゅん」という声がしてエリ先生が顔を向けると、ラビちゃんも心配そうな表情をしていた。
「ごめんなさい、ラビちゃんもいましたね。3人と1匹。ここに残って待っていてください。私とミリアさんで猿型モンスターを捕獲してきます。あなたたちにお願いしたいのは、カメラの画面を見て、何かあったら指示をお願いします」
私には、この判断が正しいのかどうかわからなかった。
ここは当然、ダンジョンシミュレーターを起動する場面だった。エリ先生とミリアの2人で行かせていいものかどうか。
結果は良好だった。なにも問題は感じられない。
……でも、ラビちゃんに負けるエリ先生なんだよな……。やっぱり心配ではある。
「どうですか? 納得していただけませんか?」
私たちを見回しながら問いかけるエリ先生に、ダンジョンシミュレーターの結果もあったから、私は了承の意思を伝えることにした。
「わかりました。先生。どうか気をつけて」
エリ先生はにこりと微笑んだ。
湊ちゃんは先生に配慮したのか、不安を声に出さないようにして言った。
「先生、ここで見てますから。画面を通して敵の動きに注意を払っておきます」
春日井君も不安を隠しながら、気丈に声を張った。
「俺もここで協力できることがあればします」
春日井君の言葉に頷いて、エリ先生はミリアの手を取った。
「じゃあ、行ってきますね」
ミリアは先に進み、エリ先生を引っ張るように歩き出す。
「行ってくるのです。お姉様たちは待っていてください」
2人は手をつなぎながら、地下170階へと降りていった。




