第252話 雄か雌か?
私たちと一緒に中学校に通うようになったとはいえ、ミリアの見た目は小学生。モンスターであり、人間や動物に関する知識は乏しい。
男女の区別を外見からどう見分けるのか? この場合は人間ではなく猿になるのだが、猿の性別をどう判断するのか?
そりゃあ、女子中学生ともなれば、見るべき点は一箇所。
ついているか?
ついていないか?
だ。
「さて、猿型モンスターを魅了できるということがわかったので……」
私は話題を変えようとしたのだが、ミリアはまだこだわっていた。
「お姉様、お姉様。まだ話は終わっておりません。ミリアは非常にもやもやしているのです。ミリアにはついていない、何かがあったように思うのですが、思い出せないのです」
「思い出さなくていいよ。あとでエリ先生に聞いて。先生なんだから、きっと教えてくれるよ」
話題を振られたエリ先生だが、さすがは先生だけあって赤面するようなことはない。
「ミリアさんはまだ保健体育の授業を受けていませんね。学校に帰ったら教えてあげましょう。今は教科書もないですし」
「エリ先生、ミリアは今知りたいのです。もやもやが、もやもやもやもや、にまで膨れているのです。もうすぐ、もやもやもやもやもやもや、になりそうなのです」
「ミリアさんはモンスターですから、言葉で説明するのは難しいですね。よい教材でもあるといいのですが……」
「ここにあるのです!」
ミリアは突然、春日井君の首根っこを掴んで持ち上げた。春日井君はぐぇと潰れたカエルのような声を漏らす。
「ちょ、ちょっと。ミリア……」
私はあわてて春日井君をミリアの手から下ろした。サキュバスの物理攻撃力は弱いのだが、レベル173の基本ステータスだけで成人男性の力をやや上回る。
「さあ、春日井。教材になるのです。ミリアに教えるのです」
脅迫するように春日井君へ迫るミリア。春日井君に対して魅了を使わなかっただけマシだった。もしも使われていたら、春日井君はこの場で服を脱がされていたことだろう。
「しょうがない、春日井君。向こうの陰に行って、ミリアに見せてきて。教材になってあげて」
「見せるわけないだろ!」
春日井君は恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。こんな春日井君は初めて見た。
私はミリアに言い聞かせるために顔を寄せた。
「駄目だって、ミリア。むやみに人に見せるようなものではないんだよ。勉強になったでしょ?」
「お姉様、ミリアは勉強不足だったのです。これからは保健体育の授業で寝ないのです」
私は兜の上からミリアの頭を撫でてやった。
「よしよし、今は地下170階の攻略が優先。どこまで話を進めていたかな? わからなくなっちゃったよ。どこまで話したっけ?」
「猿型モンスターにはついているというところまでです。謎の何かが」
「謎の何か……ね」
「お姉様がかつて春日井に見せてもらったであろう、謎の何かです」
これを私は即座に否定する。
「見たことないからね。私も湊も見たことはない。この話はもう終わり」
「見たことないのに知っている……。謎すぎるのです……。もやもやもやもやもやもや……」
ミリアはまるで目を回したように、その場でよたよたとしていた。
作戦の切り札はミリアだが、やる時はやってくれると信じている。さっきも春日井君に魅了を使わなかったし、今はこんな調子だが、作戦が始まればきっと期待に応えてくれるはずだ。
私は腰に手を当てて、高らかに宣言する。
「よし、作戦を告げます! まず猿型モンスターをこの階層に連れてくる。以上!」
「雑な作戦だな……」
春日井君が苦笑した。
ラビちゃんは短い前脚を懸命に伸ばし、なぜだか股間を隠そうとしていた。ラビちゃんの性別は不明だ。前脚はまったく股間に届いていないが、白くて長い毛に覆われていて判別できない。
ラビちゃんが雄なのか雌なのかは重要ではない。どちらでもいいことだと思う。




