第251話 エリ先生からの提案
ラビちゃんは言葉こそ喋れないが、賢い存在だった。
ボスの居る階層をぐるっと歩き回ってそのまま戻ってきたのは、私たちが作戦を練る必要があることを理解していたからだ。
引き続き、ラビちゃんに指令を出す。
今度は猿型モンスターたちの定点観測だ。ラビちゃんには1箇所にしばらくの間とどまってもらい、観察してもらった。
猿型モンスターは2つのグループに分かれていた。7匹と8匹のグループだ。
それぞれが中央にある巨大な木を中心として円を描いて移動している。7匹のほうをAグループ、8匹をBグループとすることにした。
AグループとBグループは大木を中心として、対角に位置している。回る方向は時計回りだ。動き続けているのは大木の警護のためと思われた。ハンターの侵入を察知するレーダーの役目だ。
ボスの居る階層に降りるための階段はいくつかあるようだ。判明しているだけで5箇所あった。ボスはどこから侵入してくるかわからないハンターに対して、広範囲に網を張っているのだろう。
戻ってきたラビちゃんの頭を撫でながら、湊ちゃんが発言する。
「問題は猿型モンスターが民間組織のハンターたちかどうか、だよね?」
「湊は猿型モンスターに変えられてしまったと考えているの?」
「可能性のひとつとしてはあるかもしれないよ」
「あと、判明していないのはボスについてだね。敵を知らない限りは戦えない。ボスについての情報があるといいけれど」
猿型モンスターは中央の木を守っているように思えた。とんでもなく太い幹の大木だ。
問題なのはその木自体がボスなのか、それとも木の内部に潜んでいるのかだった。
「……あの木がボスなのです」
小さな声でつぶやくように言ったのはエリ先生だ。エリ先生は大統領の恋人だ。私たちの知らない情報も持っている。
「私は戦闘要員として考えられていませんでしたから、それほど多くの情報があるわけではありません。ですが、あの人から聞いたことがあります。地下170階のボスは討伐不可能だと思われていて、枯らすことで下に降りる階段が現れます」
討伐不可能……倒すことができないということか……。
「あの猿型モンスターについては、なにか聞いていますか?」
「ごめんなさい、何も……。ただ、ラビちゃんが木の幹に近づこうとしませんでした。近づくと危ないのだと思います」
「そうですね。ラビちゃんに幹を調べてもらうのは難しそうですね」
「あの……。私からの提案なのですが……。猿型モンスターがハンターなのかを調べる方法があります」
エリ先生は自信なさそうに言ったが、私たちがまさに必要としている情報だった。
「そんな方法があるのですか?」
「はい。ダンジョンで生まれたモンスターであれば階層間の移動は絶対にできません。この階層に連れてくることができたら、民間組織のハンターで間違いないと思います」
「確かにそうですね。それはいい方法かも……」
私がミリアに顔を向けると、少し困ったような表情で首を振っていた。
「お姉様。あの猿たちは集団で固まっているのです。少ない方のAグループでも7匹なのです。魅了は3匹がやっとなのです。ボスに察知されてしまうのです」
「そうだよね……。難しいか。ミリアがもう1人いたらよかったんだけど」
「ミリアは1人しかいないのです。ごめん、なのです……」
申し訳なさそうに項垂れたミリアを見て、私は頭を抱きかかえるようにして撫でた。
「いいよいいよ。ミリアはサキュバス・クイーンというだけで、すごい存在なんだよ。ミリアみたいなすごいサキュバスなんて、そこらへんにいるわけないよ。なんとかAグループの猿を分断させるとか、方法を考えようか……」
私は慰めるようにしてミリアを抱いていたのだが、ミリアの手はエリ先生の鎧を掴んでいた。
「ミリアは先生と行くのです。先生と2人なら、できるような気がするのです」
ミリアがエリ先生を見上げると、先生には動揺が見られた。
「ま、まあ、仮に魅了ができたとします。次にボスを枯らす方法です。こちらが厄介なのです」
「枯らす方法も知っているのですか?」
「枯らすというより、正確には弱らせるということです。単独で挑んでどうにかなる相手ではありません。集団で立ち向かうのです。大人数で葉を落とし、枝を切り、木の成長より早く伐採していくのです」
「だから、15人では足りないとエリ先生はおっしゃっていたのですね」
「いえ、私もここに来るまでは人数の必要性がわかりませんでした。170階の光景を見てわかったことです」
「171階にいる大統領に助けを求めることはできないのですか?」
「それがですね。下から上がる時にもあの木が邪魔になるのです。後日、地上からの別働隊で伐採してもらい、それで上がる予定だったようです」
「じゃあ、それを待てば……」
「何日後になるかわかりません。私たちの食糧が持たないと思います」
エリ先生を掴んでいたミリアが口を開いた。
「もうひとつ問題があったのです」
「問題?」
私は聞き返す。
「あの猿モンスターの性別なのです。もしも、雌であったらミリアの魅了は効かないのです」
「ああ、それは大丈夫だと思うよ。雄であることは確認済みだから」
「!? !? お姉様、どのような手段で!?」
ミリアは目を大きく開き、心の底から驚いている様子だった。
「ええと……。それについては湊に聞いてみて……」
私は湊ちゃんに問題を押し付ける。
「どうして私に振るの! 春菜!」
突然話題を振られ、頬を赤らめる湊ちゃん。
「いいじゃない。ミリアに説明してあげてよ」
「やだよ。恥ずかしい。春菜が言いなよ」
口にするのが恥ずかしい説明のため、お互いに押し付け合っていた。
ミリアは不思議そうな顔で、私と湊ちゃんを見ていた。
「2人とも、もしかしてモンスターを見ただけで雄だとわかったのですか? なら、ミリアでもわかるはず……。確かあのモンスターにはどこか違和感があったのです。ミリアにはないものがついていたような……」




