第242話 春日井君のことを考える
私たちは地下169階で待機している。
民間組織のハンターたちは地下170階にいるボスに挑んでいた。ボスを倒さない限り、下へ降りることはできない。階段の前をボスが占拠しているからだ。
ここにいるのはエリ先生と生徒たち、全部で5人。この中で男性は春日井君1人だった。エリ先生と女子たちが話すことが多く、春日井君はなんとなく居心地が悪そうだ。
私だって、逆の立場だったら居心地が悪いだろう。ダンジョン部の部員たちとオーガに挑んだ時のことを思い出す。男子高校生の中に女子中学生が1人。あのときも気まずさがあった。
だから、春日井君の気持ちがわからないわけではない。はずだけど……。
ダンジョン部の部員が私を遠巻きに見ていたように、私もなんとなく春日井君に話しかけにくい。学校では隣の席だったので気軽に話していたのに、ここではあまり言葉を交わしていない。
エリ先生もミリアも湊ちゃんも、特に気にしている様子はない。なのに、私だけが春日井君のことを気にかけていた。
いや……? 湊ちゃんはどうなんだ?
春日井君のことが好きなのかと思っていたけれど、気にするようなそぶりは見せない。でも、学校では私と春日井君が話をしていると、視線を向けてきたり、会話に加わったりする。ダンジョンで戦っているときも、春日井君をよく見ていた気がする。
うーん、よくわからない。でも、もしかしたら……。
いや、湊ちゃんに限ってそんなことがあるのだろうか? うーん、どうなんだろう?
直接聞いてみたい気もするけれど、湊ちゃん自身も無意識の行動かもしれない。
もしかして、湊ちゃんは春日井君に好意があるのではなく、私と仲良くしている春日井君に関心があるのでは?
つまり、私と話している男子が気になってしまい、奪おうというつもりはないけれど、無意識に張り合ってしまっている……とか?
あるいは嫉妬心のようなもの?
逆の立場だったらどうだろうか? 例えば、湊ちゃんが隣の席の男子と楽しそうに話していたら? 私の席からは、2人の後ろ姿が見える。
そんな時、私は何を感じるのか?
うん、まあ、気になるよな。何を話しているのか、どれくらい仲がいいのか。つい見てしまうだろうし、さりげなく会話に加わるかもしれない。
つまり、そういうことか。
湊ちゃんが気にしているのは、男子としての春日井君ではなく、隣の席でよく私にちょっかいを掛けてきたり、からかってきたりする春日井君。そして、私との関係が気になっているのだろう。
あながちこの推論は外れていない気がする。
『異性というのは、とかく面倒なものだよな』なんて、大人びたことを考えてしまう。
ちらりと春日井君を見ると、タイミングよく彼もこちらを見た。目が合う。
だが、ここで慌ててはいけない。
意識しているとは思われないように、自然な感じで視線を外した。
春日井君のほうでも、気まずさがあるに違いなかった。
学校では気軽に話せる。夢中でモンスターに挑んでいるときも、男女の区別はなくなる。
でも、今は違う。理由がないと会話のきっかけがつかみにくい。
特にここまで、一度の戦闘もなく進んできたからなおさらだった。
そんなことを考えていたせいで、気がつくのが遅れた。
春日井君が、すぐそばまで来ていた。
「筑紫、ちょっといいか? 2人で話がしたいんだが」
みんなには聞こえないような、小さな声で耳打ちされる。私は、とっさに「え、あ……、うん」としか言えなかった。




