第240話 歩みが遅くなる
ロサンゼルス・ダンジョンは地下100階から先が封鎖されている。下へ降りる階段が1箇所だけで、封鎖するのに都合がいいからだ。そこでは複数の軍人が厳重に管理をしていた。地下101階へは許可を受けた者のみが降りることができる。
私たちはそこを越え、ずっと下へと降りていった。
110階、120階、130階……と順調に降りていく。
しばらく進んでいくと155階へ降りた付近から急に歩みが遅くなった。
モンスターの強さが跳ね上がってきたためだ。
民間組織のハンターたちは誰もが精鋭だった。強靭な肉体に加え、強い精神力を持っている。どんなモンスターが出てきてもひるまずに立ち向かっていた。
今はまだ民間組織の戦力がモンスターを上回っている。だが、いずれは私たちも戦闘に加わらなくてはならないだろう。
エリ先生によると、前衛のハンターたちは民間組織の中でも選りすぐりのエリートたちらしい。組織の名称までは知らないようだったが、トップクラスの組織だということだ。
湊ちゃんがハンターたちの戦っている姿を見ていた。なかなか先に進むことができないため、私たちの足は止まっている。
「ねえ、春菜。あの人たち『久々の稼ぎどきなのに、効率が悪いぜ』みたいなことを言っているね」
「湊は彼らの英語がわかるの?」
「全部はわからないよ。簡単な会話程度ならなんとか。でもなんか、私たちのせいにしているんだよね。『後ろのガキを守りながら戦っているから効率が悪い』とか、『やってられない』だとかさ」
「まあ、愚痴を言われても仕方ないよ。実際に私たちは何もしていないしね」
「私たちも戦闘に加わったほうがいいと思うんだけど」
「そうだよね」
前にいたエリ先生が後ろを振り返った。三角の赤い旗を振りながら私たちに向かって軽く首を振る。
「戦闘は護衛の方々に任せておきましょう。私たちには私たちの仕事があります。地下172階の問題を解決することが私たちの任務です」
「エリ先生がそう言うのなら……」
私の召喚スキルを使って強いモンスターを呼び出せば、敵を倒すのは容易い。でも、強いモンスターほどMP消費が激しい。エリ先生の言う通りに大統領の依頼を優先するためには戦力を温存しておいたほうがいい。
そういえば、このダンジョンで召喚したスローラビットがまだ生き残っているようだ。一度に召喚できるモンスターは4体に制限されている。今はスローラビットがいるから、残り3体だ。MPをほとんど消費しないので放置していたが、適当なタイミングで召喚を解除しておかなければならない。
ミリアも春日井君も暇そうにしている。
湊ちゃんが私に話しかけてきた。
「アメリカ政府の発表によると、それまでは地下160階が最高到達地点で、そこで足踏みをしていたらしいよね。でも春菜が奥多摩で地下220階まで降りて、それでロサンゼルスも攻略が進んだって」
「らしいね」
「地下180階まで到達したらしいけれど、きっと大人数だよね?」
「もちろんそうだよ。単独じゃあ絶対に無理」
「ミランダさんも単独では地下166階が限界なんだっけ?」
「お兄ちゃんはそう言っていたね」
「私たちが行こうとしている地下172階だけれど、前の民間組織の人たちは15人しかいないよね。あれで大丈夫なのかな?」
「私もちょっと不安には思っていた」
私たちの会話に口を挟み、エリ先生が説明をしてくれた。
「大統領たちが地下171階でキャンプを張っています。そこは60人体制です。民間組織の方々はそこまでの案内役なのですが、倍の30人くらいは欲しいですよね。私も気になってはいました。あの戦力ですと……」
エリ先生が口ごもったところに、前で戦闘を終えた民間組織のハンターの1人が振り返って言葉をかけてきた。
「おいおい、聞こえてるんだぜ。日本語がわからねえと思って、好き勝手に言いやがってからに。俺たちが弱いっていう口ぶりじゃねえか。女の癖に、細けえことにうるせえな」
「あら、言葉がわかっていたのですね。これは失礼いたしました」
エリ先生が頭を下げずに謝っていた。
「俺たちはトップ組織のオメガ・ベンチャーズだ。同じくらいの規模で別の組織も来るはずだったんだが、たいした稼ぎにならねえからってドタキャンしたらしいな」
「なるほど。大統領からは30人ほどの護衛がつくと聞かされていましたから、おかしいなとは思っていました」
「俺たちも死にたくはねえからな。無理だと判断したら引き返すぜ」
「それはちょっと……困りますね……」
エリ先生は腕を組みながら、困惑したような顔をしていた。




