第238話 地下172階層へ向かう
実際にロサンゼルス・ダンジョンに入ると、奥多摩ダンジョンとの違いに驚かされる。
ダンジョン自体に大きな違いはないのだが、どのハンターも屈強な戦士ばかりだ。奥多摩ダンジョンの場合は男女比が同じくらいだが、ここでは男性がほとんどを占めていた。
年齢層も高く、10代らしきハンターはいない。30代か40代くらいが多く、もっと上の年齢もいそうだった。聞いたところによると、退役軍人もいるらしい。
なんとなく想像するに、戦略を駆使して戦うタイプよりも、戦闘力でゴリ押しするハンターが多いように思えた。
地下172階へ向かうに当たり、民間組織のハンターたちが案内をしてくれることになった。
ダンジョン探査組織(DEO)にはいくつかの団体があるそうで、それぞれに名称が付けられている。案内してくれる民間組織もそのどれかなのだが、名乗りも挨拶も抜きに私たちを先導し始めた。
15人いるハンターたちはみんな強そうだ。アメリカ人ばかりで、黒人が6人含まれる。アジア系のハンターはいない。
ハンターたちは自分たちだけで会話しながらダンジョンを進んでいく。英語で話しているものだから、何を言っているのかまでは理解できない。
もちろんタブレットの翻訳機能を使えばわかるのだが、こちらに話しかけてくれれば自動的に翻訳してくれるわけで、わざわざ手動で翻訳することまではしなかった。
民間組織のリーダーらしき男が親指でくいっと下を指し示し、先に降りていく。次々と15人全員が降りたところで、私たちもシューターに入る。奥多摩ダンジョンと同じく、ここでもシューターによるショートカットが可能だ。
エリ先生を先頭に、エンジェル装備のミリアが続く。私はオリハルコン装備、湊ちゃんは神王装備、春日井君はミスリル装備だ。
エリ先生はといえば、地味な青銅装備だった。青みがかった鉄が錆びたような見た目の装備だ。しかも武器らしい武器も持っていなかった。
ミリアは全身がピンクシルバー、私は青く輝く装備、湊ちゃんは黄金色、春日井君は鈍い金色に輝く装備だ。
見るからに豪華な装備のはずだが、民間組織のハンターたちに驚く様子はない。自分たちの装備も負けず劣らず性能が高いからだ。さすがに大統領に提供された装備や神王装備ほどではないにしても、資金を提供してくれるパトロンが裏にいるらしい。民間組織のハンターたちが身につける装備の総額は数千万円を下らない。全員分を合わせたら数億円だ。
おまけに、ハンターたちにとっては装備だけではなく、屈強な肉体を持っているかどうかも実力を知る判断基準となっているようだった。中学生で、しかも3人が女の子である私たちに期待する方が難しいことだろう。
現在は地下80階を歩いている。この階層になると、討伐推奨レベルは70を超えてくる。それなりに強いモンスターも出てくるのだが、先を行く民間組織のハンターたちが倒していくので、私たちの出番はまったくない。
私たちの先頭を歩くのはエリ先生で、その後ろを私と湊ちゃんが並び、最後尾は春日井君とミリアが歩いていた。
「みなさん、ちゃんと着いてきていますね? 迷子にだけはならないように」
ここでもエリ先生は三角の赤い旗を持っている。
まるで小学生を引率しているかのようなその様子は、民間組織のハンターからしたら、完全な場違いにしか見えないだろう。
振り返るエリ先生に、私が控えめな声で応える。
「大丈夫でーす。4人とも、みんないまーす」
私は特に振り返りもせずに言った。声を潜めたのは、ダンジョンでやたらに声を出してモンスターをおびき寄せるべきではないし、前を歩く民間組織のハンターに届かないようにするためだった。
「モンスターは彼らが倒してくれますが、一番怖いのは迷子です。迷子にだけはならないように」
エリ先生の言葉で、ハッとした。
私は完全に油断して、隊列の順番を間違えていた。湊ちゃんの手を引き、そっと最後尾に回る。
春日井君とミリアが不思議そうな顔をして振り返った。
「お姉様、どうして後ろに?」
「うん、まあ。私と湊は後ろがいいのかなと。ほら、後ろからモンスターが来たらレベルの高い私が対処しなきゃでしょ?」
「それならミリアに任せるのです。ミリアはレベルが173なのです。お姉様より高いのです」
そうじゃない、そうじゃないよ、ミリア。
ミリアが迷子にならないように、後ろからちゃんと見張らなきゃと思って最後尾に来たんだよ。
もちろん、そのことを直接ミリアへ伝えるようなことはしない。




