第234話 レーダーに捕捉される
太平洋側からアメリカ大陸へ接近し、いざロサンゼルスへ、と思ったところにエリ先生から連絡が入った。
アメリカ軍で大騒ぎになっているそうだ。未確認の飛行体がレーダーにひっかかり、スクランブル発進する直前、大統領命令によりストップが掛かった。現在、私たちは太平洋上空で待機を命じられている。
「俺たち、危うく撃ち落とされるところだったんじゃないのか?」
春日井君がぼやくように、低い声で私に言った。
「いやあ、ロシアの戦闘機をお土産に大統領を驚かせようと思ったんだけど、到着前に捕捉されちゃったみたいだね。アメリカ軍のレーダーは優秀だ」
「まあ、そりゃあそうだろうな。ドラゴンだけでなく、戦闘機のおまけつきなんだから」
「春菜はレーダーをかいくぐるつもりだったの?」
湊ちゃんの声からは私を責めるような印象はなかった。普通に疑問に思っただけのようだ。
「なにも考えてない」
「そもそもどこが待ち合わせ場所だったの?」
「ダンジョンの場所はわからないから、適当に目星をつけて降りようと思った。ロサンゼルスに着いてからエリ先生に連絡すればいいかなと」
「ドラゴンで行くことも伝えてないの?」
「飛んでいくね、と言ってある」
「それって普通に旅客機で来ると思っているんじゃないのかな?」
「エリ先生はファーストクラスのチケットを取ると言ってくれたんだけど、全部こっちで手配するからと伝えたら、お兄ちゃんの口座に結構な金額が振り込まれていたね」
「それってチケット代なんじゃ?」
「なるほど、そうかも。ドラゴンで行くのに、どうしてお金が振り込まれたんだろうと不思議に思ってた。お金のことはもしかしたら依頼料かもしれないと思ったし、ロサンゼルスでエリ先生に聞けばいいかと考えた」
私たちの会話を聞いていた春日井君が、ちょっとだけ呆れたように肩をすくめていた。
「まあ、いいよ。とにかく俺たちはここまで来てしまったんだ。どうやって上陸するか考えよう。さすがにドラゴンで行くのは人目があるからまずいんじゃないか?」
「まずいかな?」
「うーん。私はまずいと思うよ」
湊ちゃんが否定し、ミリアも同じように言葉を重ねた。
「ミリアも、まずいと思うのです。ミリアがまずいと思うのであれば、これは本当にまずいことなのです。なぜなら、モンスターであるミリアですら分かることなのですから」
「だよね。どうしよう?」
ミリアの言葉に、湊ちゃんが首を傾けながら悩んでいた。
春日井君がこんな提案をしてきた。
「例えばさ、ロシアの戦闘機にみんなで乗りこむとか? 戦闘機で空港に着陸すればいいんじゃないか?」
「いいね。いい考えかも」
湊ちゃんが同意し、ミリアはなぜか私のことを褒めるようにこんなことを言った。
「お姉様はさすがなのです。この状況をお姉様の強運が引き寄せたのです。お姉様は戦闘機すら引き寄せたのです」
湊ちゃんはそれを信じたかのように、明るい声で返してきた。
「そっか、そのための戦闘機なのか。うんうん、すべては私たちに都合よく動いているね。幸先がいいかも。アメリカ軍の空港とかあるのかな? あればそこに降りればいいね」
「じゃあ、エリ先生に伝えておくのです。ロシアのパイロットと5人で窮屈なのですが、『B』ボタンで着陸できるよう、お姉様に改造をお願いするのです。ミリアが代表してコントローラーを操作するのです。これはミリアの仕事なのです」
そう言って、ミリアはコントローラーを強く握りしめた。
なんだか良くない流れになってきた。せっかく戦闘機に乗ることを回避したのに、まったく意味がなかった。
節約モードで燃料はギリギリ。空港に着陸するときには、ほぼ空になるだろう。
私は暗い気持ちで戦闘機の席を改造した。一番前には捕まえたパイロットの席。その後ろに春日井君。
女子の3人は最後尾に横並びになった。
私の両脇に湊ちゃんとミリアがぴったりとくっつけるよう、席を寄せた。
私は覚悟を決め、戦闘機に乗った。たぶん湊ちゃんは私が飛行機が苦手なことをわかっている。わかっていて、ちゃんとサポートしてくれた。
目をつぶって歯を食いしばっている間に、すべては終わっていた。ジェットコースターに乗り、目をつぶって景色をまったく見ないまま、暗闇の中で加速度の変化だけを感じて終わったようなものだ。
だから、ほんの少ししか、ごくわずかしか怖くなかった。と、ちょっと強がっているけれど、実際のところは、まあだいぶかなり、けっこうやばめなくらいに怖かった。
おそらく次なら泣かずに乗れると思う。いや、涙が一滴こぼれただけなのだから、これは泣いているうちには入らない。だから、私は泣いてない。
というか、戦闘機は怖すぎる……。人間が乗る乗り物じゃないよね……。
ドラゴンに乗る世の中に変えていかないと、世界に平和は訪れないだろう……。




