第232話 2人で飛びます
ミリアがじゃんけんに負け、戦闘機に2番目に乗ることになった。すると、湊ちゃんがかばうようにそっと寄り添い、ミリアに向けてやさしく声をかけた。
「かわいそうだよ。ミリアちゃんは飛行機が怖いんだから。私と一緒に乗ろうか、ミリアちゃん」
ミリアは湊ちゃんの方を向き、不安げな表情を見せた。
「湊……。これはお姉様からの試練なのです。だから、ミリアは1人で乗らねば……。………………と思ったのですが、とても無理なのです。湊といっしょに乗るのです。そうすればミリアは目をつぶっていられるのです」
「そんなに怖いんだ」
それでもミリアは拳を握り、なんとか気合だけでも入れようとしていた。
「がんばるのです。ミリアはじゃんけんに負けました。勝負には命をかけて臨むべきでした。それをお姉様に教えられました」
「そこまでのことじゃないと思うけれど」
「ミリアはこれから死地に向かうのです。よろしくお願いするのです、湊」
「わかった。じゃあ、春菜。座席を2人用に改造できるかな?」
私は頷き、戦闘機の改造を始めた。タブレットを操作しながら「湊はやさしいなあ」と思う。湊ちゃんが一緒なら、ミリアも大丈夫だろう。
「改造はすぐに終わるよ。じゃあ、ミリアをよろしくね」
「うん」
戦闘機のシートを2人用に改造し、前席にミリア、後席に湊ちゃんが座った。
機内の様子はタブレットの画面を通して見ることができる。もちろん声もこちらに聞こえてくる。
「最初は私が操作していいかな? ミリアちゃん」
「よろしくなのです……」
「なんだか、声が暗いね」
「ミリアは目を開けているからです。これはお姉様からの試練なのです。ぎりぎりまで目をつぶらないのです。集中しているので、早く発進させてほしいのです」
「わかった。じゃあAボタンを押すね」
戦闘機の発進は『A』ボタン1つで実行できるようにしてあった。着陸は『B』ボタンだ。『B』ボタンを押すだけで離陸地点に戻り、自動的に着陸を行う。
この2つのボタン操作だけで、安全に戻ってこられるようにしてあった。
戦闘機は加速を始め、すぐに地上を離れた。そのまま高度を上げていく。
「大丈夫? ミリアちゃん?」
湊ちゃんが、前に座るミリアに声を掛けた。
少しだけ無言の時間があったが、返ってきたミリアの声は明るかった。
「怖く……怖く……怖く……ないの……です……」
「ほんと!? よかった!」
「まったく怖くないのです」
「じゃあ、ミリアちゃんも操縦してみる?」
「やってみるのです」
ミリアは湊ちゃんからコントローラーを受け取った。
スティックを倒すことで戦闘機を操作できる。
左右に倒すとその方向へ旋回し、前後に倒せば上昇と下降を行う。
ミリアは最初こそ恐る恐る操作していたが、すぐに慣れ、一回転の宙返りまでやってのけた。
「ミリアちゃんすごいね。もう、自在に操っている」
「ミリアはわかったのです。この戦闘機はお姉様の手によるものなのです。その戦闘機が飛ばないわけがないのです。当然のごとく空を飛ぶものなのです。
そうなのです。お姉様はこのことをミリアに教えようとしていたのです。お姉様は、すべてわかっていたのです。飛行機なんて、まったく怖くもないのだということを」
「さすが、春菜だね」
「さすが、お姉様なのです」
戦闘機は島から離れ、私たちからは小さくなった。ミリアたちからも、こちらが小さく見えているはずだ。
「お姉様から離れすぎたのです。戻るのです」
「海面すれすれで飛んでみよう」
「わかったのです。了解なのです」
ミリアの操縦により、戦闘機は高度を下げ、海面から一定の高度を保って飛んでいく。実際には海面すれすれを飛ぶことはできない。墜落を防ぐため、安全な高度を保つように設定されているからだ。
「Rボタンを押すと加速するよ。Lボタンは減速ね」
「了解なのです」
島の上空を戦闘機が通過していく。湊ちゃんがコックピット内で手を振るのが見えた。ミリアは操縦しているため、真剣な顔で正面を見据えていた。
旋回して戻ってくると、今度はミリアが手を振ってきた。湊ちゃんと操縦を代わったのだ。




