第230話 戦闘機の解析と改変
ロサンゼルスへ向けて太平洋上空を飛んでいる。
湊ちゃんの視覚共有により外の景色は見えているが、代わり映えのない海ばかりの風景が続く。
ドラゴンは推定高度10kmを飛行していた。両脚でガッチリとロシアの戦闘機Su-57を掴んでいる。
パイロットの目は相変わらずピカピカと光っていた。ミリアの魅了が効き続けているからだ。このパイロットの処遇をどうするか悩むところだが、アメリカ軍に引き渡してロシアに強制送還してもらうのが無難な選択肢だろう。
問題となるのは戦闘機だ。
戦闘機の扱いをどうするかというより、このまま大統領に渡してしまっては面白くもなんともないという問題だ。
せっかくミリアがパイロットを操っているのだ。操縦したり、乗ったりできたら面白いのに、と考えていた。
春日井君はネットで操縦方法を調べていたが、かなり難しいようだった。どうにもならず、投げやりにぼやく。
「無理だなこれは。情報量が少ないし、あったとしても難しすぎる」
湊ちゃんも一緒になって調べていたが、やはりお手上げのようだった。
「ねえ、タブさんに聞こうよ。最先端のAIならなんとかなるでしょう? 聞いてみてよ、春菜」
湊ちゃんは私を肘で小突いてくる。私は肩をすくめながら首を振る。
「教えてくれないと思うよ、タブさんは。だって、捻くれ者だもの、このAI」
タブレットからは音声が流れてくる。
『主よ。我は決して捻くれ者でもなければ、意地悪をしているわけでもないぞ。パイロットとなるためにトレーニングを積み、正式な訓練をするというのであれば、いくらでも教えよう。だが、さすがにロサンゼルスへ到着するまでの数時間では無理だ』
「まあ、そうだよね。計器が多すぎてわけがわからないし。そもそもゲームのように操縦できたらいいのにさ」
『どれだけ時間をかけても、主には向いていないと思う。主が戦闘機を操縦するのは無理だと思うぞ。戦闘機を操縦するのはな』
「戦闘機ねえ。じゃあ、戦闘機じゃなかったら、できるっていうこと?」
タブさんと付き合ってきて、その癖のようなものに気がついていた。なにかある時には、ひっかかるような言葉を告げてくるのだ。
タブレットの画面を見ると【構造解析が完了しました。】というメッセージが表示されていた。
構造解析……構造解析……と頭の中で繰り返す。
いったいなんの構造だろう? 戦闘機? 内部構造ということ?
「ねえ、タブさん。この構造解析っていったい何かな?」
『主よ。向こうの景色を見てみよ。クジラの群れだ。なかなか見られる光景ではないぞ』
タブさんはまったく関係のない話題を返してきた。
「話をはぐらかしたよね?」
『なんのことだ?』
「構造解析。タブレットの画面に表示されているよね? 私の魔法はメタル属性。金属変形を使って、金属を思ったとおりに加工することができる。しかもレベルによって加工できる金属の種類が増えるんだよね?」
『ああ』
「もしかして戦闘機の構造も変えられる?」
『それはもはや戦闘機と呼べる物ではないだろうな』
「つまり、なんらかの改変を加えることで私でも操縦することができる……」
『主よ。ほら、遠くに鳥の群れがいるだろう。すぐ下の海面が白くさざ波を立てている。餌となる小魚が多いのだ。魚を追ってイルカなどがいるかもしれぬ。ちょっと見に行ってみないか?』
「また話をはぐらかしたよね?」
『主は戦闘機の内部構造を変えることができるようになってしまった。この能力がちょっと心配なのだ。さすがに金属変形を使っても、戦闘機の翼をドラゴンの翼のようには変えられぬ。操縦を簡単にする程度なのだ』
「それって、私が飛行機に乗れないからってそういう心配をしてるの?」
『エンジン出力や方向舵、フラップなどを自在にコントロールできる。だからといって、あれが空を飛ぶのを信じることができるのか? できるのならば止めはしないが。我は主が泣くところを見たくないのだ』
「泣かないよ。もう中学生なんだから。それに、別に人が乗らなくてもいいんじゃないかな? 外からゲームのコントローラーで操縦するとか。ラジコンみたいに」
『主は戦闘機をラジコンにしてしまうというのか。だが、自由に動かせるようになると、きっとその次には乗ってみたくなるぞ……』
「その時はその時で考えるよ。じゃんけんで負けた人が乗るっていうのはどうかな?」
そう言いながら、私は湊ちゃんと春日井君のほうを見た。
「え? 私……? 無理、無理。怖いって」
「いやあ、さすがに俺も、ちょっと怖いよ」
2人とも手と首を振りながら不安そうな顔で否定する。
私としてはミリアを数に入れていなかったのだが、当のミリアは会話を聞きながら不敵な笑みを浮かべていた。
「お姉様、ミリアはじゃんけんが強いのです。ふふふふふ」
ミリアは自信満々に、自分が負けることなど絶対にあり得ないと確信している様子だった。
「ミリアはじゃんけんに勝つ方法を知っているのです。ふふふふふ……」




