第229話 空中戦
視覚共有をそのまま使うと、映像は湊ちゃんしか見ることができない。
調べてみると、みんなで映像を見る方法があった。
私のメタル属性の魔法と組み合わせて、金属板の上に視覚データを投影することにした。
まるで液晶モニターのような使い方だ。
ドラゴンが首を曲げることで後ろが見える。
後方には小さく1機の戦闘機が映っていた。
「敵は1機。これがSuなんとかだね」
「Su-57。ロシアのステルス戦闘機。タブさんの話だと、試作機や後継機の可能性もあるね」
魔法には集中力が必要なようで、湊ちゃんは画面をじっと見つめている。声には震えがなく、怖さもなくなったようだ。
「弾は何発くらい撃てるんだろう?」
「戦闘機の装弾数? どうなんだろう? 中距離空対空ミサイルで4発くらいじゃないのかな?」
「射程はどのくらいかな?」
「数十kmはありそう」
「後ろを取って近づいて、私のダンジョンに戦闘機ごと放り込んでやろうか」
「そんなことができるの?」
「試してみないとわからないけど。もしくは戦闘機のパイロットをミリアの魅了で操るとか?」
ミリアの方へ顔を向けると、ふるふると頭を振りながらできないことを伝えてくる。
「ミリアは飛行機を操縦できないのです。まだ九九を覚えて日が浅いのです。がんばって勉強しておくのです、操縦を」
「そっか。自分で操縦ができないとだめなのか。魅了した人を操るわけだから」
「そうなのです」
「じゃあ、戦闘機を奪うにはどうしたらいいのかな?」
湊ちゃんはちょっと驚いた顔をする。
「奪うの? そんなことを考えていたの? 春菜?」
「そうだよ。最初から考えてた。逃げるとか、撃墜とかじゃないよ。相手だって、奪い取られるのが一番嫌でしょう。だって、高いんでしょ? あれ。100万円くらい? もっとかな?」
春日井君の呆れた声が聞こえてきた。
「いまどき100万円じゃあ、車を買うのも難しいぞ」
「じゃあ、200万円くらい?」
「百億以上はすると思うぜ」
「わお。じゃあぜひとも奪い取りたいね。けれど、それ以前にこちらが落とされるわけにはいかない。攻撃手段はなにかあるかな?」
その問いかけには、タブさんが答えてくれた。
『物理攻撃、もしくは炎のブレスだな』
「俺たちが口の中にいる限りは無理だよな? ブレスは」
『そうなるな』
私は軽く微笑む。別に倒さなくてもいいのだ。こちらのほうが圧倒的に強い。
もしも私たちが危機的状況であれば、タブさんはそれを伝えてくるはずだ。
「まあ、とにかく反撃しましょうか。こちらはドラゴン。戦闘機にはできない動きができる。みんな、しっかり掴まっていてね。少し揺れるよ」
私の合図でドラゴンは一気に垂直降下を始めた。「うわああああ!」と叫ぶのは春日井君と湊ちゃん。
そこからドラゴンは翼を広げ、逆さまの状態に移行した。重力方向が頭の上に変わる。そのまま日本に戻る進路で加速を始めた。
戦闘機とは逆さまの状態でドラゴンがすれ違う。
直後、ドラゴンは一気に上昇した。
あっという間に戦闘機の後ろを取った。
湊ちゃんはさすがだった。絶叫のような悲鳴を上げながらも、ちゃんと視覚共有を維持してくれている。映像にはまったくブレがない。
湊ちゃんは画面を見ながら声を張り上げる。
「ロシアの戦闘機が揺れている! 揺れているよ、春菜!」
そりゃそうだ。すれ違いざまにドラゴンが翼で風を起こしたのだ。
戦闘機は暴風に巻き込まれた木の葉のように翻弄されていた。
「このドラゴンに勝負を挑んだことがそもそもの間違いなんだよ」
「ここからどうするの? 春菜?」
私は逆に湊ちゃんに問いかける。
「ねえ、湊。あの戦闘機は後ろに攻撃する手段ってあると思う?」
「ないない。聞いたことがない、そんなの」
湊ちゃんは強く首を振る。
「じゃあ、すでに私たちの勝利が確定だね。このまま後ろを取らせることは二度とないのだから」
春日井君が私に聞いてくる。
「ただ、ここからどうするんだ? ブレスでの攻撃もできないし、ミリアの魅了も無理。魅了したら戦闘機は落ちちゃうだろう? 近づいて前脚で殴るように攻撃するのか?」
「捕獲しようと思っているけど」
私の言葉を聞いて、春日井君は軽く笑う。
「はは。捕獲か。ただ、パイロットが緊急脱出で逃げる可能性もある。真上に射出するはずだから、脱出する軌道をドラゴンの前脚で塞ぐのはどうだ?」
「戦闘機の上に乗って、コックピットを押さえよう。もう一度暴風を起こして、姿勢を立て直そうとする隙を狙う」
前を飛ぶ戦闘機は進路を大きく右に変え、ドラゴンの後ろを取ろうとしていた。
私たちはその側面を狙うように近づき、ドラゴンの翼で風を起こす。
戦闘機は大きくふらつき、こちらに腹を向けた。
懸命に体勢を立て直そうとしている間に、真上に位置を取る。
映像には戦闘機のコックピットが見えている。ドラゴンの真下だ。
パイロットがこちらを見上げていた。パイロットは1人だった。
ドラゴンは戦闘機の上に乗り、後ろ脚と左前脚で機体を押さえつけた。そして右前脚でコックピットのガラス面、パイロットの頭上部分を掴む。
「ミリア、この状態で魅了しよう。パイロットが男性だったらいいけど」
「わかったのです。お姉様」
視覚共有が映し出すモニターを見つめる。モニター内で、パイロットの目がピカピカと光りだした。魅了は成功した。
「戦闘機の出力を下げたいね。スロットルはどれだろう?」
タブさんの力も借りて、ネットで調べる。
ミリアに指示してスロットルレバーを下げさせると、戦闘機の加速が止まった。
「これで強奪成功かな?」
私がいたずらっぽく笑うと、湊ちゃんも私に合わせて悪そうな顔を作ってきた。
「このままロサンゼルスに行っちゃおうか」
春日井君までもが悪ノリして、調子に乗った口調で言った。
「大統領にいいお土産ができたんじゃないか?」
「それはいい考えなのです。きっと、喜ぶのです」
本当にそう思っているのはミリアだけで、私たち3人にはいたずら心があった。大統領の驚く顔が見られると思って、ほくそ笑んでいた。
私のタブレットに流れるのは【構造解析中】のメッセージ。すでに獲得している魔法金属変形による戦闘機の情報収集が始まっていた。




