第228話 状況把握
「春菜! 春菜! 春菜あぁー! 落ちる! 落ちる! 落ちるよーー!」
湊ちゃんが悲鳴を上げる。
ドラゴンは傾きながら揺れていた。高度が下がっていくのがわかる。
「大丈夫。しっかり掴まっていて。私がなんとかするから。タブさん。Su-57ってなにさ。なんなの?」
「春菜! そんなのも知らないの!? 戦闘機だよ。ロシアの!」
誰よりも先に湊ちゃんが叫ぶ。
『まあ、知らないのはいい。ともかく、回避行動を取らせるのだ、主よ』
タブさんは相変わらず冷静沈着だ。
私はドラゴンに命令を伝える。
「フレイムドラゴン! 急いで加速! 逃げて! めいっぱいに加速ね! ミサイルが飛んできたら避けて!」
「ええ!? 加速!?」
目を見開いて顔を引き攣らせている湊ちゃんをよそに、ドラゴンはぐんぐんと加速していく。
『まあ、戦略としては間違ってはいないが……。Su-57の最高速度はマッハ2。こちらの最高速度はマッハ4。逃げるが勝ち……か……?』
「逃げるんじゃない。距離を取って状況を把握するの。まず、フレイムドラゴンの被害状況。ダメージの確認から」
私はドラゴンをパーティとして設定する。
被害は予想を超えていた。ダメージはHPの減少率として把握できる。現在のHPは66.6%。ミサイルの1撃で3分の1のダメージを受けたことになる。つまり、あとミサイル2発でドラゴンは倒されてしまうということだ。
「急いで回復が必要。ありったけのポーションを使う。幸いにもここは口の中。喉の奥へ放り込めばいい」
片手でタブレットを操作しながら、ポーションを実体化させ、次々に喉の奥へと投げ込んでいく。
「冷静すぎるよー!! 春菜ーー!!」
「ぎゃあぎゃあ、喚かないの。よく考えて。こっちはドラゴン。向こうはただの鉄の塊。鉄の塊に負けるはずがない。なぜなら、鉄は空を飛ばない」
「鉄じゃなくて、アルミとか合金のジュラルミンとか、セラミックやカーボンだよー。空を飛ぶんだよー、飛行機はぁぁ! しかも、戦闘機いぃぃ……」
「戦闘機だろうがなんだろうが、こっちに分がある。ダメージを受けてもポーションで治せばいいし、ここはドラゴンの口の中。これほど安全な場所はない。ロシア軍だろうが何軍だろうが、守り切れるよ。戦闘機程度でこのドラゴンを落とそうとは舐められたもの」
「どこからそんな強気な発言が出てくるのよおーーー」
これ以上ないほどの大きな声で、湊ちゃんは嘆いていた。
おそらくそんな湊ちゃんを見て逆に冷静になったのだろう。春日井君が静かに訊ねてくる。
「それで筑紫。さっきは逃げるんじゃなくて、状況を把握すると言ったよな? こっちから攻撃はするのか?」
「その判断をするための状況把握なんだよ」
「なるほど、そうか……」
「タブさん、今の状況は?」
『我ではわからぬ。ドラゴンと視覚共有をしたらどうかな?』
「よし、視覚共有だね!」
タブレットを操作しようとした私の手が止まる。
「………………。どうやって?」
ひとまずダンジョンシミュレーターを起動する。
そして、私は湊ちゃんの顔を見る。
「え!? 私!?」
私は無言で湊ちゃんに向かって頷き、目で合図を送る。湊ちゃんはまっすぐこちらを見返してくる。
「もしかして、春菜……」
――こくん。
私は再度、頷く。
「わ、わかったよ……」
湊ちゃんは渋々といった感じでスマホを操作し始めた。片手だからなかなか進まない。やっとのことでアイテム画面を表示させた。
貴重なレアアイテム、覚醒の種。
「違う違う。そっちじゃなくて」
私は湊ちゃんの手を取り、代わりにその指をスマホの画面上で滑らせる。そのまま魔法の一覧を選択した。
「湊はアクア属性の魔法が使えるようになったでしょ。レベル58ともなると、新しい魔法を獲得しているはずだよ」
「新しい魔法……」
「ほら、回復魔法の強いやつも使えるようになっているし、今回使いたいのはこっち」
「視覚共有……」
「少し離れたところにいるパーティメンバーと視覚を共有できる。遠距離はまだ難しいけれど、まさか、こんな近距離で使うことになるとはね」
「これでフレイムドラゴンの視覚を共有すればいいんだね」
「そう、お願い」
会話をしながら、湊ちゃんはいつもの調子に戻っていた。戦闘に参加してもらったほうが落ち着くのかもしれない。




