第226話 出国
エリ先生は現地集合となり、私たち生徒は直接ロサンゼルスへと向かう。
パスポートは今回も公用旅券を発行してもらった。パスポートの色は緑色だ。
バリバリと爆音を立ててヘリコプターが飛来し、目の前に降り立った。
中年男性が近寄ってきて、パスポートを渡してくれる。
最初に私、次にミリアへと手渡された。受け取りながらお礼を言う。
「大和君ありがとう」
「ありがとうなのです。大和君。ごくろうさまなのです」
ミリアは可愛らしく敬礼をしていた。どこでそんな敬礼を覚えたのだろうか。
大和君は日本の総理大臣、大和昇一郎だ。相変わらず若々しくて凛々しい。背筋を真っすぐ伸ばし、皺一つないスーツを着こなしていた。
「筑紫春菜さん、ミリアさん、お気をつけて」
それから大和君は、春日井君と湊ちゃんにもパスポートを手渡した。
「これは春日井隼さん、南波湊さんの旅券です」
受け取る2人は、目の前の人物が誰だかわかっていない様子だった。
「どうも……」
「……ありがとうございます」
緊張した様子で、声にはわずかな戸惑いが混じっていた。
「どこかで見たような。頻繁に目にしているような……」
「そうだね。初めて会った気がしないね……」
2人でこそこそと話している。
「春菜の親戚かなにか?」
湊ちゃんに聞かれたので、私は答える。
「ううん。大和君は瑞稀ちゃんの友だちで、私の友だち。私にも大和君と呼んでくれって言うからそうしているだけ。ただの友だちだよ」
「春菜にこんなに歳の離れた友だちがいると思わなかった」
パスポートを渡し終えるとすぐに、大和君はこちらに背を向けて歩き出した。
「では、私はこれで。君たちの健闘を祈っている」
大和君は手を振りながら、颯爽とヘリコプターに乗り込んで去っていってしまった。
「ヘリコプターで飛んでいった。金持ちなんだな……」
「言葉遣いも仰々しくて、なんだか雲の上の人のよう……」
ヘリコプターが小さくなっていく中、私はタブレットを操作してアイテムを実体化させていく。
出現したのは大統領から借りたエンジェル装備の一式だ。
これはミリアのための装備となる。
ミリアは【エンジェル・アーマー】【エンジェル・グローブ】【エンジェル・ブーツ】で全身を包んでいく。
頭に被る【エンジェル・ヘルメット】は、髪の毛を外側へ流すデザインになっていた。ミリアのピンク色の髪が風になびく。
思わず漏れたのは湊ちゃんのため息だ。
「うわぁ。ミリアちゃん、可愛い」
エンジェル装備は可愛らしい羽根の装飾が随所に施されている。アニメに出てくる魔法少女をさらに武装させたような姿だった。全身の装甲がピンクシルバーに輝いている。
「初めてのミリアの装備なのです。うれしいのです。お姉様、ありがとうなのです」
私もミリアの鎧姿を見たのは初めてだった。
「大統領からの借り物だけれどね」
ただし、武器は持っていない。エンジェル・ボウを湊ちゃんが使うので、ミリアは手ぶらだ。
ミリアもそれをわかっていて、素手で戦うつもりでいるのだろう。一人でボクシングのシャドーをしている。「シュッシュッ」と口に出しながら拳を打ち込んでいる姿は愛くるしかった。
◆ ◆ ◆
私たち4人の前には巨大なドラゴンが鎮座している。
それはとても大きな真紅のドラゴンだった。
巨大な翼を持ち、大木のような前足で体を支えている。頭だけでも人間の身長より高く、口を開ければ丸呑みされてしまいそうだ。頭上には無数の棘があり、眼光鋭くこちらを睨んでいる。そこにいるだけで圧倒的な存在感だった。
「よし、みんなでアメリカへ行っちゃおう。フレイムドラゴンに乗って!」
景気よく放った私の言葉を、タブレットのAIが否定してくる。
『いや……主……。それはやめたほうが……。主とミリアだけにしたほうがいい……。まだ2人には早いぞ……飛行機で行ったほうが……』
ところが春日井君も湊ちゃんも乗り気だった。
「ドラゴンで行ってみてえ」
「行きたいです!」
『我は忠告したぞ……。やめたほうがいいと……』
ドラゴンが首を下げ、大きく口を開けた。
私たち4人は口の中へと入る。
ミリアだけがエンジェル装備で、他の3人は学校の制服姿だ。
エリ先生が授業の一環だと言っていたので、半分は遠足気分だったかもしれない。
ドラゴンの口の中は湿度が高い。鋭い牙はとても大きく、まるで檻の中に入ってしまったかのようだ。
湊ちゃんは少し不安そうな顔をしていた。
「2回目だけど、慣れないね。食べられたりしないよね?」
「しないしない。大丈夫、大丈夫」
春日井君は注意深く、鉄の鎖をドラゴンの歯に引っ掛けていた。私たちはこの鉄の鎖で体勢を保つ必要がある。
足元はドラゴンの舌だ。どうしても唾液の被害は避けられない。春日井君と湊ちゃんは気にしていた。
「うぉ……。ドラゴンの唾液が……」
「また制服が汚れちゃいそう……」
私とミリアも鉄の鎖を使って鋭い歯に輪っかを通す。テンションを掛けて足場をしっかりと定め、体の安定を確保する。
私はミリアに顔を向ける。
「テスト飛行しようか」
「しましょう。お姉様」
ミリアはお気楽だ。片手で軽く鎖を持っている。
一方で春日井君と湊ちゃんは、しっかりと両手で鎖を握りしめていた。
ドラゴンが静かに浮上していく。
ゆっくりとその場で旋回を始めた。
湊ちゃんは春日井君と話をしていた。
「意外と……平気だね」
「ああ、これくらいなら全然」
それでも脅かすようなことをタブレットのAI、タブさんは言ってくる。
『我は忠告したからな。主とミリアならなんともないだろうが、常人には耐えられぬやもしれんぞ』
ロサンゼルスの方向を定め、ドラゴンが少しずつ加速を始めた。
春日井君も湊ちゃんも余裕そうな表情だった。
「別に大丈夫だと思うけど。俺もレベル59になったんだし」
「まあ、私も高いのがちょっと怖いけど、このくらいなら」
『マッハ4を知らないから言えるのだ……』
口を閉じてしまっているので、外の景色は見えない。風を受けることもない。
高度も速度もわかりにくい。
少しずつ、少しずつ、体に加速度を感じ始めた。




