第225話 鍛えました
ここ数日は、放課後になるとダンジョンに通い詰めていた。場所は私が召喚で呼び出す長瀞ダンジョンだ。メンバーは私と湊ちゃんと春日井君、それに不定期でもりもりさんが加わった。
それだけでなく、私はこっそり朝練と称して奥多摩ダンジョンに潜ってから学校へ行っていた。
湊ちゃんと春日井君に追いつかれないよう、いわゆる「こそ練」をしていたのだが、みんな同じことを考えていたらしい。湊ちゃんと春日井君もソロでダンジョンに潜っていたのだ。
春日井君はともかく、驚いたのは湊ちゃんだ。1人でダンジョンに潜るなんて、そんな性格ではなかったからだ。いったい何が湊ちゃんを変えてしまったのだろうか。
春日井君はまだわかる。スタート時点から湊ちゃんにレベルで負けていたからだ。
湊ちゃんはレベル51で、春日井君はレベル50だった。
湊ちゃんを追い抜こうと、春日井君は朝からソロでダンジョンに潜っていた。
そして、「こそ練」をしていた私。
ひっそりとソロでダンジョンに潜っていた湊ちゃん。
しばらくの間、お互いにバレることはなかった。
でも、レベルの上がり方を見れば違和感が出てくる。数日間の上がり幅が凄まじく、結局3人とも朝練をしていたことに気がついた。これが、大統領からの依頼に向かう直前のことだ。
大統領からは、ロサンゼルス・ダンジョンの地下172階の探索を依頼されている。
依頼内容は、地下172階にある未探索領域の解明。一部だけどうしても入れない領域があり、そこの調査に向かうことになっている。
今はアメリカへ旅立つ直前だ。
私たちのレベルは以下のようになった。
私こと、筑紫春菜のレベルは73→76に。
湊ちゃんはレベル51→58に。
春日井君は湊ちゃんを逆転し、レベル59に到達した。
春日井君は手持ちのアイテムにレベルアップシードがある。これを使えばレベル60になることも可能だ。レベル60になればランク6のハンターとなり、能力は飛躍的に上がる。しかしアイテムのレア度を考慮すると、ここで使うのはもったいない。まだ温存しておくべきだろう。
探索メンバーとしては、6人で向かうことになる。
日本側からは、私たち3人に加えてミリアが参加する。
ミリアは人間ではなくモンスターで、サキュバス・クイーンだ。サキュバスとは男性を誘惑するモンスターであり、その中でもミリアは突出した能力を持つ。レベルも173と桁違いだが、攻撃力はほとんどない。男性を魅了する能力に特化しているため、女性にとっては脅威となることはない。ミリアの弱点は女性だとも言えた。
アメリカ側からはエリ先生と大統領が参加する。今回は大統領も自らパーティに加わるそうだ。
エリ先生はつい最近私たちの担任となった。元はアメリカ軍で軍人として働いていたが、サキュバスであるミリアの監視も兼ねて日本に来ている。私たちの見立てでは、おそらく大統領の恋人だ。誤魔化してはいるがバレバレである。
大統領とはもちろん、アメリカ合衆国大統領のことだ。
アーノルド・ノア大統領。
金髪で背が高く、がっしりとした体つきをしている。年齢は35歳とかなり若い。大統領の被選挙権が35歳以上だから、ノア大統領の就任によって年齢の引き下げも検討されているらしい。
しかし、おそらくそれは実現されないだろう。
なぜなら、ノア大統領の実際の年齢は35歳ではないはずだからだ。
サキュバスであるミリアは、魔法を使うことで大統領すらコントロールできてしまう。大統領が人間の男性であれば、ミリアと直接接触するような危険は冒せないはずだ。
だから、大統領にはミリアの魔法が効かないと予想される。もちろん、性別が女性だというわけでもないだろう。
私たちとタブレットのAIが出した結論は、大統領は人間ではないということだった。
人間でなければ、いったい何者なのか? モンスターか、あるいは地球外からの知的生命体か? 大統領の正体は謎に包まれている。
今回の探索メンバーをまとめてみる。
1 筑紫春菜:レベル76(覚醒レベル4)
2 春日井隼:レベル59
3 南波湊:レベル58
4 ミリア(サキュバス):レベル173
5 エリ先生:レベル不明
6 ノア大統領(種族不明):レベル不明
この6人だ。
ここにもりもりさんやお兄ちゃんも加われば最強だと思ったのだけど、それとなく誘ってみたら断られてしまった。
お兄ちゃんはミランダさんと用事があるらしい。近々結婚を考えているようだから、式場の打ち合わせにでも行くのだろう。
どうでもいい。
勝手に結婚でもなんでもすればいい。
いまだにミランダさんを紹介してくれていないのだから。
それに、今回の遠征を「まるで遠足だな」と言っていた。担任のエリ先生に引率され、生徒がダンジョンに潜るように見えているらしい。
まあ、詳しい事情は伝えていないので当然だろう。
もりもりさんには詳細を伝えているが、お兄ちゃんには内緒にしておくよう口止めしておいた。
帰ってきたらきっと驚くことだろう。
私たちは大統領といっしょに、地下172階まで潜ってしまうのだから。




