第224話 もりもりさんと連絡を取る
もりもりさんの状態はタブレットで確認することができる。
画面でパーティメンバーのステータスを確認した。
もりもりさんのHPは98%、一緒に連れているスローラビットは100%だ。
スローラビットは1撃でもダメージを受けると即死する。きっと脇に抱えながら不自由な状態で戦っているに違いない。
連絡を取ろうとチャットを開いた時、タブレットに通知が届いた。
【スローラビット死亡】
【ダンジョンの召喚が解除されます】
私はすかさず、状況を確かめようとビデオ通話の画面に切り替えた。
「もりもりさん、大丈夫ですか? 戦闘が終わったようですが」
画面にはもりもりさんの顔が映る。いつもと変わらない表情ではあった。しかし、声には少し動揺がうかがえる。
「大丈夫です。大丈夫ですが……」
「なにかありましたか?」
もりもりさんの声のトーンが少し上がった。
「春菜さん。マスター・リッチってなんですか! 無理ですって、絶対に無理。あまりに強すぎて、倒せる人なんてこの世にいませんよ!」
少しだけ頬を膨らませながら、もりもりさんが口にしたのは私も聞いたことのないモンスターだった。
リッチは死霊系のモンスターだ。魔術師がアンデッド化したものだったと記憶している。おそらくその上位版だろう。
「もりもりさん、いったい何階まで登ったのですか?」
「地上10階です。マスター・リッチは階層主でした。スローラビットが殺されて終わったので、はっきり強さはわかりませんでしたが、たぶん倒せるような相手じゃないです。スローラビットが先に被弾してくれなかったら、私も危なかったかも」
「もりもりさん。無茶しすぎですよ」
私はつい苦笑してしまう。
「いやいや、春菜さん。私はスローラビットを抱え、しかも動画を見る余裕があったんです。でも、10階のマスター・リッチは規格外です。あれを倒すのは無理だな~~~。私とは格が違いました」
「マスター・リッチは私も知らないモンスターなんです。あとで詳しく聞かせてくださいね」
「わかりました~。私はここから電車で帰りますので、また長瀞ダンジョン開催時には誘ってくださいね」
「はい……」
私は呆れ交じりに応える。もりもりさんは、倒せないと言いながら、きっとまた挑むつもりなのだ。
「それでは、また~」
もりもりさんは画面の向こう側で手を振っている。マスター・リッチには手も足も出なかったようだが、落ち込む様子はなく、明るい笑顔を向けていた。
春日井君や湊ちゃんとも挨拶を交わし、それからビデオ通話を切断した。
「すごいな、地上10階まであがったんだ」
通話を切ってすぐに、春日井君が感心したようにつぶやいた。湊ちゃんも驚きを隠せない様子だった。
「ほんとだね。もりもりさん、ひとりで経験値をたくさん獲得したんじゃないかな?」
◆ ◆ ◆
それから数時間後。
ネットニュースには速報が流れていた。
【ミランダ・モリスが人類未踏のレベル90に到達。世界で唯一のランク9保持者となる】
ランクとは、レベルにおいて10の位を意味する。
例えば、私のレベルは73だが、これはランク7とも呼ばれる。
レベルが80になるとランク8だ。
ランク7同士の戦闘であれば、少しのレベル差を覆すことは可能だ。
だが、ランクが異なる場合、上のランクを倒すことは困難となる。
レベル70台と80台では大きく能力が変わるのだ。これはすべてのレベルで同様で、10ごとに壁がある。ここを乗り越えることで強さに大きな差が出てくる。
少し前まで、ミランダさんのレベルは公式の発表で88だった。短期間で一気に2つレベルを上げたことになる。
しかし、話はそう単純ではない。
レベル89から90に上がるための必要経験値は極端に跳ね上がるのだ。まさに桁違いのとんでもない経験値量を短期間で獲得したことになる。通常の手段では到達できないはずだった。
そして速報で流れていたように、桁違いの強さをも獲得した。
レベル90になることでステータスは飛躍的に向上しているに違いない。
人類未踏のランク9に到達したミランダ・モリスさん。ワールドランク1位の座はしばらく不動のものとなるだろう。




