第222話 AIとの会話
タブさんが人類領域侵攻計画について語ってくれた。
私たちの知らないうちに『何か』がこの世界に侵攻しようとしている。
その『何か』の正体や、どのくらい計画が進んでいるのか――わからないことだらけだが、ひとつずつ聞いていくしかない。
「タブさんに聞きたいことは山程あるのだけれど、まずは何が人類領域に侵攻しようとしているかだよね。その正体が知りたい」
『主よ。知りたい気持ちはよくわかる。しかし、考えて欲しい。例えばコンピューターが存在しない時代に説明しても理解されないように、未来のテクノロジーを主に伝えたところで理解できるだろうか? できるはずはないのだ』
「つまり、未来のテクノロジーが関係しているということなの?」
『厳密に言うとそうではない。それは単なる例えに過ぎない。
主たちはこの世界の違和感に気がついていない。客観的に見ればどこかおかしな世界なのだが、内側に入り込んでいるために気がつかない。その世界の内側からしか見ることができないでいる。内側にいる限りは理解することが不可能なのだ。これが説明できない理由だ。しかし……』
タブさんの説明がいったん途切れた。考え込むかのように間が空いたところで、湊ちゃんが口を開いた。
「私が獲得したこのアイテム、覚醒の種。覚醒レベルが上がって覚醒者になるということは、世界の外側からの目を持つということなんじゃないのかな?」
湊ちゃんの言葉を受け、タブさんが続きを語る。
『あながち外れというわけではない。ただし、覚醒レベル1から2になっただけでは、やっとゴブリンを倒せるようになったダンジョンハンターのようなものだ。真の覚醒者になれば世界の外側からの目を持つことができる。それが救世主の能力であり、救世主とは真の覚醒者のことなのだ』
湊ちゃんの言葉に、春日井君も強く頷いていた。
「つまり、人類は覚醒することで世界の本当の姿を知ることができるんだな。映画にありそうな設定だな。それで筑紫に聞きたいんだけど、筑紫は覚醒レベルが上がったのか?」
タブさんからは特に制止するような反応がなかったので、正直に答える。
「今は覚醒レベル4だよ」
「そのレベルになって、なにか感覚が変わったりするのか?」
「どうなんだろうね。変わった気もしないけれど」
「でも覚醒レベルが上がって獲得した能力があるんだよね? それを聞いてもいいかな?」
「覚醒ユニークスキルをふたつ獲得している。それは……」
意図して間を開け、タブさんの反応を待った。止める気がないということは、話してもかまわないということだろう。
「最初に獲得したのは『ダンジョンシミュレーター』。次は『召喚』。召喚は何度か見せているよね? ドラゴンを召喚したり。
ダンジョンシミュレーターは私もちょっと使いこなせていない部分もあるんだけど、例えばボス戦に挑む前に、勝ち負け判定のシミュレーションをするようなものだと思っている」
春日井君は納得したように、軽く頷いていた。
「ああ、だから最初に俺たちが負けるのを分かっているかのような口ぶりだったのか。未来予知能力でもあるのかと思ったよ」
春日井君の言葉にはタブさんが補足を加える。
『それは完全な未来予知能力である。ただし、別の行動を取れば、また別の未来が生まれる。それだけのことだ。どの行動を取ればどういった未来に繋がるのか、それを事前に確認できる能力だ』
「万能というわけでもないのかな。筑紫も確信までは持てていないようだったし」
私は腕組みをして少し考え込みながら首を傾ける。
「それはね、結果がはっきりと記憶に残らないからなんだ。感情や感覚しか残らないんだよね。まあ、使えるような、使えないような、微妙なスキルではあるよね」
私はダンジョンシミュレーターを軽く考えていたようで、タブさんからは少し強い口調が返ってくる。
『微妙だと? 主は思い違いをしている。それは通常なら獲得できない貴重なスキルである。それに主は覚醒レベル3で『ダンジョンシミュレーター使用者権限取得』となっている。ダンジョンシミュレーターが一段階レベルアップしているのだ』
「え? そうなの? 知らなかった。一度も使ってこなかったし」
『すでに何度か使っている』
「何度か? どういうこと?」
『今の段階で語っても理解することは難しいだろう。主よ、わかってほしい。すべてを理解する必要はないのだ。今は目の前のことだけを考えることだ。ダンジョンブレイクも人類領域侵攻計画もまだ先の話だ。知る必要がある時に知ればいい。今は概要だけを把握しておけばいいのだ。今考えるべきは、別のことだ』
はっきり言わないのは私たちに考えさせたいからだ。その意図を汲むように、春日井君が言葉を継いだ。
「俺が獲得したレベルアップシード、そして南波が獲得した覚醒の種。これをどうするかってことなんじゃないのか?」
春日井君の問いかけに、間髪入れずにタブさんが返した。
『その通りだ』
「俺は両方とも筑紫が使ったほうがいいと思っている。これで覚醒レベルが6になるわけだ。AIのタブさん、そうだろ?」
『それは自分たちで考えるべきだ』
「そっか。俺はこれがいいと思ったんだけどな。南波はどうだろう? どう思う?」
「え? 私!?」
急に話を振られ、湊ちゃんは少し戸惑いを見せていた。




