第220話 レベルアップする?
走ってきた私がすっ転んだものだから、3人でぐちゃぐちゃに倒れることになった。視聴者には私たちが絡み合っている姿が見えていることだろう。
》氷で滑ったね
》見事なスライディングをかましたハルナっち
》そのまま彼氏だけを奪うことができたら見事だったのだけれど
》これでは100年の恋も冷めてしまいますわね
私は湊ちゃんの上に乗り、押しつぶしてしまっていた。さらにその上に春日井君が乗っている。神王装備とミスリル装備に私服の私が挟まれていた。完全にサンドイッチだ。
私は上にいる春日井君に向かって話しかけた。顔がすぐ近くにあって照れくさいが、今はそんな場合じゃない。
「配信を終わりにして、一度帰ろう! とにかく配信を切るよ!」
興奮気味に話す私の言葉はくぐもってしまう。上から肺を潰されているせいだ。
困ったような顔をしながら春日井君は一生懸命に立ち上がろうとしていた。
「わかった。わかったよ。でも、俺の足が南波の下にあって立ち上がれない」
お互いに手や足が絡んでいたので、すぐに動けるような状態ではなかった。
「私も立ち上がれないよー。春菜、どいてー」
「とりあえず、配信を終えよう。でも、私の手も動かせなくて……」
パズルのようになった手足を解き、やっとのことで私たち3人は起き上がることができた。
「じゃあ、帰ろうか」
2人に声を掛けると、春日井君は私から視線を外しながら言った。
「その前にアイテムを返すよ……。オリハルコン装備を着たほうがいい……」
春日井君は顔を赤らめて、別の方向を向いていた。
私が下を見ると、スカートがめくり上がって太ももが露出していた。慌ててスカートの裾を引っ張った。
春日井君が実体化させたオリハルコン装備を身に着け、私は全身ブルーの鎧に身を包んだ。やっと落ち着きを取り戻して呼吸を整える。
春日井君には他にも渡していたアイテムがあった。それらを私に戻すためにデバイスを操作していたが、その画面を見ながらぼそっと小さな声でつぶやいた。
「なんだかすごいアイテムがあった。これもボスから獲得したやつだ」
――――――――――――――――――――――
【EXRレベルアップシード】
効果:使用者のレベルを1上げる
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春日井君が画面に詳細を表示してしまったため、視聴者たちにも知られてしまう。コメント欄がざわつき始めた。
アイテム画面を見ながら春日井君は湊ちゃんに話しかけていた。
「EXRって確か、エクストラ・レアだよな。アイテム名はレベルアップシードらしい。レベルを1つ上げることができるのか……」
「すごいね。春日井君」
「俺のレベルは50。これを使えば南波と同じ51になる」
「追いつかれちゃうね」
「まあ、なんの苦労もなくレベルを上げていいのか疑問もあるけれどな」
「少しわかる。でもせっかく手に入れたんだから使っちゃおうよ」
湊ちゃんの言葉には反対意見のコメントが多かった。
》今使うのはもったいないよー
》めちゃくちゃ高く売れるから、売る選択肢もあるよ
》レベルアップシードはレベル上げが困難になるくらい高レベルになってからがいいよ
》まあレベル1で使っちゃったお茶目な女の子もいるけれどね
》誰のこと?
》そんな無駄遣いをする人がいるんだ?
》あれ? 初期の動画を見ていないの?
》ねえねえ、誰のことよ。教えてよ
レベルアップシードはレベルが1つ上がるだけではない。裏レベルである覚醒レベルを上げる効果もある。このことは一部の者しか知らない。
私はこれ以上詮索されないように、いったん配信を切ることにした。
「じゃあ、みなさーん。ご視聴ありがとうございました。また次回の配信をお楽しみください。次の配信でまたお会いしましょうー」
》おーい、ハルナっちー
》切るなー
》レベルアップシードの行方が気になるよー
》使わずに取っとくの? それとも売るの?
》今の相場はいくらだっけ? 全然出ないから高騰し続けているはず
》とんでもない金額だよ。確か
コメント欄の反応を受け、春日井君は頷きながらデバイスを操作していた。
「そっか。売ると高いのか。なら……」
私のダンジョンタブレットからピコン!と電子音が鳴る。画面には【春日井隼からEXRレベルアップシードを受け取りました】の画面表示。
春日井君はさわやかな笑顔を私に向けた。
「ほら、筑紫には女王蟻の時に高価なポーションを使わせてしまったし、ここでのボス戦も筑紫のアイテムを結構消費したんだよ。だから、これは筑紫の取り分ということで」
》太っ腹……
》かっこいい、惚れますわ
》いやあ、全然計算が合わないと思うけれど……
》違うよ、みんな。これはハルナっちのハートを射止めようとしているんだよ
》じゃあ、本命はハルナっち?
》ヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
「ちょ、ちょっと待って春日井君……。え!?」
》慌てるハルナっち
》この恋の行方はいずこへ?
「配信、切ります!!」
私は声を張り上げ、タブレットを手に取った。配信画面の終了ボタンに指を伸ばす。
》え、ちょっと待って。一番いいところ
》恋の結末はどうなるんだーーーーーー
》切らないで、切らないで、切らないで
》美味しいところをお預けって (´Д⊂グスン
》せめて、どちらが選ばれたかの結論だけは~~
》どうなったのか、結果を配信してよね
》いや、今知りたいよ
》見せてー、見せてー、見せてー
》お願い、切らないでよ~~
》――【配信が終了しました】




