第22話 すべては作戦です
ダンジョンデバイスはリビングデッドに奪われ、配信はずっと続いていた。その映像を通して、視聴者たちが奴らの弱点を分析してくれていた。
そんなことがネットの向こう側で繰り広げられているとは、私は夢にも思わなかった。
涙目で長い廊下を歩きながら、リビングデッドが消えた壁を叩き続ける。
「返せ、返してくれよー。私のダンジョンデバイスーーー」
それにしても、なにか忘れてない?
ダンジョンデバイスが手元にないってことは、アイテムを実体化できないんだよ。
すなわち、私は何も食べられない。
育ち盛りの女子中学生が、水も食料もなく、こんなところに放り出されている。
すぐにお腹が空くんだよ! 秒でお腹が空くんだ! 女子中学生は!
お菓子なんて贅沢は言わない。
味のない低級ブレッドだって、我慢して食べるよ。でも、いまはそれすらない……。なにもない……。
とにかく廊下は長く続く。
どこまで歩いてもモンスターの一匹もいないし、扉も見つからない。もう何キロ歩いただろう。不自然なほどに長い廊下だ。
どうしよう。
私はどうしたらいいのだろうか。
お腹だけが空いていく。
私のダンジョンデバイスは、いったいどうなってしまっているのだろう。
頼むから、壊さないでくれよ。
私は絶望の中、長い長い廊下を歩き続けていた。
少し歩けば扉くらいあるだろうと思っていたのが甘かった。
行けども行けども扉は見つからない。
本当に、どれだけ歩いたのか。
歩いて、歩いて、足が痛くなった頃に、私は気がついた。
上を見上げる。
そこにあったのは、シューター。
地下215階から落ちてここに来たのだ。
「あれ?」
私は今度は上を向きながら歩く。
少し歩くと、すぐにまたシューターが現れた。
天井にはぽっかりと穴が空いている。
その距離、およそ50mほどか。
同じ景色が延々と続く。
さっきのシューターと、このシューター。
これは別物なのか?
私はダンジョンデバイスのマップを思い出す。
画面上で廊下は長く上下に伸びていた。
リビングデッドを表すドットが青から黄色、そして赤、紫へと変化した。
ぱらぱらと順番に変化していったが、最初に黄色になった点が下のほうと上のほうにあった気がする。
その動きが同期していなかったか?
この廊下は無限ループ?
リビングデッドの数はそう多くない?
もう一度上を見て歩きながら、シューターとシューターの間隔を確認し、その間にいたリビングデッドの数を思い出す。
20体くらいだろうか。
いや、もっとずっと少ないのでは?
15? 10? それ以下? 8体か7体?
仮に。
仮にだけれど。
チャンネルの視聴者がリビングデッドを観察してくれていたとして、同じように同期して動くリビングデッドを分析してくれていたら、正確な数字が割り出せるだろう。意外に敵の数は少ないのではないか?
未知の敵に挑むのは困難だ。
その正体がわかってしまえば、倒すことができるかもしれない。
そう。
そうだ。
これは作戦だ。
リビングデッドは、とても倒せそうにない相手だった。
どのみち敵を知るためには、わざとダンジョンデバイスを奪わせる必要があった。たまたま都合よく敵が奪ってくれただけで、そうでなかったとしても、きっと私はこの作戦を取っていたと思う。
つまり、すべては私の目論見通り。
まあ、後付けになるけれど、作戦なのだ。
これはリビングデッドを倒すための布石なのさ。
ははははははっ。
「勝ったな。これは勝ちましたよ」
きっと視聴者のみんなも気がついてくれているはずだ。
私が敵のもとへと送り込んだダンジョンデバイスで、スパイとして活動してください。お願いします。60万人のスパイ諸君!
リビングデッドの特徴をよく観察し、敵の数と能力を正確に把握し、倒す手段を見出し、そして私に伝えてくれたなら、きっと勝利することができます。お願いします。
(とっくに80万人を超えていたなんて、この時の私は知らなかった)
それにしても、お腹が空いたな……。
せめて低級ブレッドだけでも返してくれ。
私は、歩き疲れたのとお腹が空いたのとで、リビングデッドが消えた側の反対の壁にもたれて座り込んでいた。
「でさあ。どうしたらいいの?」
敵を倒す方法がわかったとして、どうやってそれを知るの?
視聴者のみんなと、どうやって連絡を取るの?
無理じゃん。
やっぱり詰んでるじゃん。
「お腹すいた……」




