第21話 ちょっと待てえ、それは私じゃねえ!
ネットはざわついていた。
『み……な……さーん。こんに……ち……はー。つくし……はるな……ですー。ライブ……はいしん……ちゅう』
ガチャガチャと音を立て、全身を西洋風の鎧に包んだ姿が画面に映し出されている。
》今、見始めたけど、状況がよくわからない
》鎧? あれ? 神王装備は?
》それって西洋の鎧だよね?
》俺も今来たとこ。何がどうなった?
》ハルナっち、新しいコスプレなん?
》こんにちはー
》おはー
》ハルナっちの声が野太い
》何その兜? 嫁の顔が見えん
》お前の嫁じゃねえ
》現在行方不明らしいぜ ハルナっち
》え? どういうこと?
視聴者数が増えるにつれ、それに呼応するようにチャンネル登録者数も増え始める。
一本の切り抜き動画が投稿された。
【世界初 モンスターによるライブ配信】
誰かが作ったその動画が火付け役となり、チャンネル登録者数は爆上がりした。
60万から一気に80万へ。
これまでの瞬間最速値を記録していた。
》切り抜き見て、やっと状況がわかった
》チャンネルの乗っ取り食らったのね
》本人が配信していないのに、登録者数+20万て
》ハルナっちはどこ行った?
》わからん。行方不明
》たぶん死んでる
》本人がいないのにチャンネル登録者数が増えてる
》これって本人が死んでもチャンネル登録者数は増え続けるってことだよね
》死んでなお、登録者を伸ばす伝説の女
》まだ死んでない、たぶん
ネットには他にも多数の切り抜き動画が上がっている。なかには意味のよくわからないものまであった。
【7xの秘密を追え】
【謎の数字7x これは偽装なのか? はたまた本物か?】
【セクハラデバイス ダンジョン管理協会は知っていたのか?】
【我々のスリーサイズは露呈してしまうのだろうか】
ダンジョン管理協会の発表によると、そのような機能は存在しないとのことだった。デバイス解析の偽装は不可能であり、リビングデッドが発した「バスト7x」という台詞は筑紫春菜を挑発したものではないか、との見解だった。
しかし、それはリビングデッドがそこまでの知能を有しているという証拠でもある。人間の言葉を喋り、人間の言葉を理解して、人間を挑発する。その事実のほうが、より大きな脅威であった。
ダンジョンデバイスをモンスターに奪われること自体が前代未聞だが、あまつさえモンスターによる配信まで許してしまっている。
スパチャが飛び交う。
リビングデッドが体をくねらせながら、カチャカチャと鎧を鳴らすだけで、スパチャの通知音が鳴り響く。画面には何百体ものリビングデッドが映っていた。
》ハルナっちより稼いでねえ?
》まあ、小銭ばかりだけど
》おい、ちょっとは本当に心配しようよ
》俺らが心配したからといって、状況が変わるか?
》もうリビングデッドのチャンネルでいいんじゃない?
》駄目だよ、俺は嫁を見捨てられない
》ハルナっちだから見てたんだ 応援してたんだよ
長文のコメントが入る。
》一応、ハルナっちの思考を読んでみる
これは作戦なのです。
ダンジョンデバイスをわざと奪わせ、モンスターの行動と生態を確かめるためです。
つまり、スパイとしてあなた方を送り込んだわけです。
安全な場所において、敵を観察し、弱点を見極めるのです。
みなさんはダンジョンデバイスをよく見て、敵を観察してください。そして私に教えて下さい。
とか、泣きべそかきながら、考えていると思うよ。
》は、腹いてー
》わらた
》わざとモンスターに奪わせてたら天才と呼んでいた
》もちろん、わざとだよ。これはハルナっちの作戦だよ
》なるほど、全てお見通しなのですな
》策士ですな
》ハルナ軍師と呼ぼう
》諸葛孔明を超えたか
》仕方ない ハルナっちのためにモンスターを分析してやるか
》モンスターの動向を知ることなんてなかなかないと思うんだ
》これは本当にすごい映像だと思うよ
》あ
》どうした?
》倒せるんじゃ?
》ん
》ダンジョンデバイスってさ……
》ああ
》ほう
》ハルナっちがそれに気づいたらね……
》いや、だって、筑紫冬夜の妹だぜ
一部の視聴者たちがモンスターの分析を始める中、筑紫春菜がリビングデッドを倒せるかどうかで意見が分かれていた。
》無理だって。倒せるわけねえ。
》リビングデッドを倒せたら、まじで10万、いや100万スパチャする
》ほんとにするのか? 100万もの大金
》する
》ほんとか?
》倒せるはずねえじゃん 数が多すぎ
》ドラゴン倒したら100万って言ってたじゃん
》それはまだ保留中
》有言実行せよ
》こいつら倒せたらな 100万スパチャしてやるぜ
》ドラゴンの分は?
》合わせて200万してやんぜ
》絶対か?
》たぶんな。大丈夫、倒せないから
ライブ配信の映像には、西洋の鎧を身に着けたリビングデッドが何百体も映っていた。無数のリビングデッドが画面を埋め尽くす。
》だって、いくらなんでもこの数だぜ。絶対むりだって
愛嬌を振りまくように、体をくねらせながら、リビングデッドはダンジョンデバイスで自撮りしている。筑紫春菜の動きを真似るかのように手を振っていた。何体ものリビングデッドが同調するかのように動いていた。
》なんか、動きが気持ち悪い。くねくね動いてる
》見た目は弱そうなんだけど
》すごく、キモい
》最初は面白かったけど、さすがに飽きてきた
》やっぱりかわいいが正義だな
》そうだな、かわいいが世界を救う
》ハルナっちの勝利確定
》ハルナっちの顔が見たい
》早く世界を救ってくれ、ハルナっち




