第23話 誰も見ていないから
さて、こういうときはどうしたらいい?
「やれることは何でもやったほうがいいんだよ!!」
私にできること、それはこれだ。小学生の時に異世界小説で読んだことがある。
立ち上がって右手を開いて前に突き出す。左手は三本指だけを伸ばして口元に。かっこよくポーズを決めて宣言する。
「ステータス・オープン!!」
私の声が廊下中に響き渡る。
すると、目の前には私の能力値が次々と表示される。所有しているスキルとアイテムがリストアップされていく。
私の脳内で。
頭の中で。
それは妄想のウィンドウだ。
そしてウィンドウには私の情報だけではなく、対峙するモンスターについての情報も表示される。レベル、HP、弱点……など。
現実世界ではなんの変化も起こらない。
廊下は静まり返っていて、物音ひとつない。
……。
……。
「おかしいな。小説の中ではできていたのに」
仕方ない。別の手段だ。神王の長剣を頭上へ突き上げ、私は眷属を呼び出すことにした。
剣を頭上から床に向けて振り下ろし、宣言する。
「召喚! いでよ、私の眷属! ケルベロスよ!」
床には魔法陣が現れ、地獄の番犬ケルベロスが顕現する。
私の脳内で。
脳内には青白い光を放つ魔法陣がはっきりと描かれており、恐ろしい容貌の猛獣が現れている。炎に包まれた三つ首の猛犬だ。
私の妄想が作り出したケルベロスはとても強そうだ。
だが、やっぱり、現実世界ではなにも起こらない。
廊下に敷かれた赤い絨毯には変化がない。
おかしいな。
小説の主人公は呼び出せていたのに。
「み、右眼が、右眼がああああ! 私の右眼がああああ! 右眼がうずくううう!!」
唐突に叫び声を上げる。
片手で右眼を押さえながら、悶え苦しむ。目の奥で何かがうごめき、暴れ出そうとしていた。封印が今まさに、解かれようとしていた。
私の邪眼が覚醒し、魔王が復活しようとしている。
右眼がうずいている。
私の中で眠る魔王がその長き眠りから目を覚まし、そして、暴走するうううう、うう!
まずいいいいい
こ、このままではああああ
私が私でなくなるううううう
眼を押さえながら、天井を仰いで宙を掴むように反対の手を握る。
邪眼がうずく。
だめだ、このままじゃ。
封印が解けてしまう。
世界が滅びる。
魔王が復活する……
復活してしまうううううう
身悶えする私の姿だけがそこにある。
なんの変化もなく、静まり返った廊下。
私はぴたりと動きを止めた。
……。
……。
うん。まあ、やってみたかっただけ。
科学が発達した現代。なにをするにもダンジョンデバイスが必要なのだ。
学校ではこんな事はできないし、ダンジョンに潜ってからは視聴者の目があった。
中学2年生はみんなこんなことをやっていると聞いたことがある。一種の通過儀礼だ。これをしないと3年生になれないのだ。
誰も見ていない今がチャンスだったし、こんなところを目撃されてしまったら悶え死ぬ。
ちなみに神王スキルはちゃんと使うことができる。
でも、安易にそれを使って遊んだりはしない。
本物の能力というものは最後まで隠しておくものなのだよ。
「やばい。余計なことをして、空腹の限界を超えてしまいそう……」
誰も見ていないからと、いらんことをしてしまって、さらに空腹感を増してしまった。
だって、仕方ないじゃない。
なんにもなくて暇なんだもの。
廊下は殺風景で置物のひとつもないし、モンスターの気配もない。
退屈が人を殺すというのは事実のようだ。
壁に寄りかかって座り込む。
「どうするかな……ほんと……」
ダンジョンデバイスがないと暇つぶしもできなかった。
配信もできないし、動画も見れない。
音楽を聴くこともできない。
ご飯も食べられない。
こんなことをして時間をつぶすくらいしかないじゃないか。
それと、いつかやってみたかったんだし、もしかしたら異世界転生でもしたら役に立つかもしれないじゃない? え? 役に立つことなんてあるはずがない?
まあ、そうだよね。




