第212話 ボス戦を諦めるのか
タブさんは春日井君と湊ちゃんの2人でボスと戦えと言ってくる。
私はタブさんに聞いた。
「私の力を借りるなということは、アドバイスもしてはいけないということ?」
『そんなことはない。2人だけで倒すことができればかまわない』
「じゃあ、私もいっしょにボス部屋の中に入って……」
『それは認めない。いつでも主が助けられるという甘えた状況になる。主が強力なモンスターを召喚してしまえば、それで終わるからな。主は部屋の外で待機する必要がある』
「つまり、部屋に入らず、直接戦闘に加わらなければいいんだね」
私はすぐにダンジョン・シミュレーターを起動させた。地下100階のボス部屋に2人を送り込んだ仮定して、シミュレーターを使って、それが成功するのか失敗するのかを試すことができる。
湊ちゃんと春日井君の2人だけでボスを倒す。それはタブさんの言う通り、不可能に近いほど困難なことだった。
シミュレーターの結果はすぐに出た。脳裏には戦闘が終わったあとの残滓だけが残される。
私は血の気が引くのを感じた。自分でも顔が青ざめているのがわかる。すべては失敗に終わっていたからだ。何度繰り返そうと、どんな手段を用いようと、成功の兆しは見えなかった。
ふう、と軽く息を吐いて呼吸を整える。
「無理っぽい。帰ろうか」
げっそりとやつれてしまったような気分で、2人に声をかけた。
「どうしてだ! 俺はやるよ!」
「私もだよ! 蟻部屋ではちゃんとやれたよ。大丈夫だって!」
春日井君と湊ちゃんは挑む気でいるらしい。
人間には思い込みというものがある。どんな状況でも自分ならできる、勝てると過信してしまうことがある。だが、現実はそうではない。正しく分析ができていないから、そう錯覚してしまうのだ。
「ねえ、タブさん。2人に私のスキルのことを話してもいいかな? どうして私が無理だと思ったのか、教えないと納得しないと思うから」
『話さないほうがいい。理解もできないだろうし、すぐには受け入れられないだろう』
私はダンジョン・シミュレーターについて説明することは諦め、2人に向かって話し始めた。
「私の考えでは、格上の敵に勝つということは偶然じゃなくて、奇跡のような必然を引き寄せることだと思う。絶対に勝てない相手を倒すことは不可能なんだよ。確実とまでは言わなくても、勝算がなければ挑むべきではない。みすみす命を捨てるようなものだから」
私とタブさんとの会話を聞いて、春日井君は何かを察したようだ。私が伝えたいことを理解しつつあった。
「もしかして、筑紫には未来が見えているのか? なんだか、敵の強さだけで判断しているんじゃなくて、確証があるような言い方だ」
「見えているわけではないけれど、2人が勝てないという確証はあるよ」
「よくわからないけれど、理由があって筑紫はこれまでジャイアントキリングを起こせたということなのかな。じゃあ、やっぱり俺たちは筑紫の判断に従ったほうがいい……ということか」
湊ちゃんも同意するように頷いたが、その声は少し気落ちしていた。
「私もよくわからないけれど、それしかないのかな。悔しいけど」
『その通りだ。ボスに挑むべきではない。そして、大統領の依頼からも手を引くべきだ。主たちの足を引っ張るだけだ』
2人の言葉を聞いて、タブさんも撤退を促す。ボス戦だけでなく大統領の依頼まで断念するように言われ、2人は納得のいかない顔をしていた。
「俺はすごく悔しい」
「私も……」
私は話題を変えようと、周囲に視線を向けながら明るく声をかけた。
「とりあえずさ、ここに散乱しているアイテムを片付けようか」
周りには蟻部屋で獲得したアイテムが大量に放置されたままだった。
春日井君がアイテムを回収するため、ダンジョンデバイスを手に取った。操作をしながら湊ちゃんに顔を向ける。
「じゃあ、重複しているアイテムは南波と2人で分配しよう。それ以外は獲得した者が受け取るということで。それでいいかな?」
「いいよ」
春日井君がダンジョンデバイスで指を走らせる。
同じアイテムが2つある場合、それぞれ1個ずつ収納するように指示を出した。命令を受けたAIが、指示通りにアイテムを格納していく。
アイテムはマナ因子で構成されており、デバイスに格納される際にeMANAと呼ばれる情報体に変換される。処理が進むにつれ、アイテムは次々と姿を消していった。
その様子を眺めていて、私はふと引っかかりを覚えた。
本当に、春日井君と湊ちゃんはボスを倒すことができないのだろうか?
私の助けを借りてはいけない。ならば、別の助けはどうなのだろうか?
例えば……。




