第207話 守りながら戦う
さて、ここからが本番だ。
私たち3人だけなら、ここの蟻たちを全滅させることはたやすい。しかし、今は蟻狩りをしていたハンターたちを守りながら戦わなくてはならなかった。
――誰かを守りながら戦う…………
そういえば、もりもりさんは長瀞のダンジョンで経験値を稼いでいる。
私が召喚したモンスターのスローラビットを守りながら戦っているはずだ。パーティ設定をしているから、ここにいながらHPを確認することができる。減らないHPが、もりもりさんの無事を意味していた。それだけではない。スローラビットは1撃を受けただけで死んでしまう。その1撃すら許さない緊迫した状況で戦っているに違いなかった。
それを考えたら、今のこの状況なんて優しすぎる。……そう思ったのだが、スローラビットとの決定的な違いがあった。それは守るべき対象が人間だということだ。
ここにいる全員、私以外の4人に向かって指示を飛ばす。
「部屋の隅に固まります。ハンター2人を角に入れ、湊が上からの攻撃を警戒、私と春日井君で前から襲ってくる蟻に対処します」
ところが守るべき2人のハンターが文句を言ってくる。
「偉そうに指図すんじゃねえ。お前ら、予備の武器や防具ぐらい持ってんだろうが。さっさと、それを出せ。出さねえってことは、やっぱり女王蟻に俺等を食わせようって腹だろうが」
「違うってんなら、証明しろ。武器と防具を出せ。そうじゃなきゃ、てめえなんかの指示に従えるか」
私はうんざりしながら、頬が引きつってしまいそうなのを堪える。
「別に私の指示に従わなくていいです。ただ、部屋の角でおとなしくしててください」
装備については春日井君がハンターたちに説明をしてくれた。
「俺たちは他に武器も防具も持っていない。これは借り物なんだ」
だが、ハンターたちは疑うような目をこちらに向ける。
「借り物? そんなわけねえだろうが。そんな高級装備を貸すやつがどこにいるってんだ? ああん?」
私は低く、地を這うような声を絞り出した。
「アメリカのホワイトハウス」
「は?」
意味がわからなかったようで、ハンターは言葉を返せない。
「これはアメリカの大統領から、私たちに貸し出されたものです」
「はあ!?」
私はハンターたちを無視して、湊ちゃんと春日井君に声をかける。
「あの二人を角に押し込めて守りながら戦おう。いくよ、湊、春日井君」
「わかった」
「おう! 指示をくれ!」
私は無理矢理にハンターたちを部屋の角へと押しこんだ。
3人でその前に立つ。
「ジャイアント・アントと女王蟻が一番の問題。後ろにいるハンターを殺せるのは、このボス級のモンスターたちだから」
「女王蟻はいまどこに?」
春日井君に聞かれ、現在の状況を説明する。
「さっきまで天井にいたけれど、今は地面に下りているはず。ジャイアント・アントがその前を守るように包囲しているから見えないけど、おかげで女王蟻がこちらを襲ってくることはない。まずは周囲にたくさんいる小蟻を倒しつつ、ジャイアント・アントの数を減らす」
「つまり、セオリー通りってことだな。敵の合計戦力を削っていく」
春日井君の言う通り、敵の攻撃力の総計が合計戦力だ。しかし、実はそう単純なことでもない。湊ちゃんがこう提案してきた。
「じゃあ、小蟻は無視してジャイアント・アントを減らしていけば? 総合力の数値だけ見たらそのほうが早そう」
「確かにそう。でも数が多いと、攻撃力の合計イコール戦力とは限らない。臨機応変に対応する必要がある」
「了解!」
湊ちゃんは私が言いたいことをすぐに理解したようだ。モンスターは何も考えずに襲ってくるわけではない。連携を取ることで、実際の攻撃力以上の強さを発揮することもある。
私たちは次々にモンスターを倒していく。ただ、そうは言っても、角に陣取った状態だ。こちらに向かってくる敵をそのまま倒していくから、戦略というものはあまり関係がなかった。
だが、後ろにいるハンターたちは私たちがジャイアント・アントをどんどん倒していく様子をみて驚いていた。
「なんだこいつら……。ボス級の敵なんだぞ……」
「こいつらにとっては、通常モンスター扱いなんだ……。いや……それ以下の雑魚としか見ていないのかも……」
私たちは受け身で戦っていたのだが、敵も馬鹿ではなかったようだ。いつのまにか、闇雲に向かってくることはなくなっていた。どちらかというとジャイアント・アントと女王蟻は後退している。春日井君がそのことに気がついた。
「ジャイアント・アントを減らされるのがまずいと気がついたようだ。小蟻ばかりがこっちに来て、他は後退している」
私は頷きながら応える。
「私たちの疲労や湊の弾切れを狙っているのかもね。あいにくだけれど、湊の矢は無限に撃てる。春日井君も私も、疲れを知らない」
無数に飛んでいく矢を見てそんな事を言ったのだが、それは湊ちゃんが否定する。
「ごめん、春菜。この矢、無限じゃないよ。MPを消費する」
「あ、そうなの?」
「うん、蟻がこの3倍いたら対応ができないと思う。この数なら問題はないから大丈夫」
どうやら湊ちゃんが生成する矢はMPを消費するようだ。レベルが51になっていることもあって、かなりの数を撃っても問題はないらしい。
「OK。じゃあ、どんどん行こう」
「うん」
やがて、ボス部屋にいた小蟻はほとんどいなくなった。
あとは女王蟻をガードしているジャイアント・アントたちだ。
女王蟻はすっかり壁の反対側まで後退したようで、その前にはジャイアント・アントの壁ができていた。まだ30匹以上は残っていそうだった。
気になるのはその女王蟻の姿が見えないことだ。壁を作って姿を隠しているのは意図してのことだろうか?
おそらく私たちに勝てないことはわかっているのだろう。
なら、女王蟻が狙うのはなにか?
もしも人間のような知性があるのであれば、腹の中にいるハンターを人質に取るのかもしれない。だがそれほどの知性があるとは思われないので、狙うなら私たちの後ろにいるハンターだ。二人のレベルはおそらく30台後半だと思われる。モンスターの本能で、一番弱い彼らを殺しにくるのではないかと思われた。




